「立地適正化計画」と「居住誘導区域」
2019年5月末に国土交通省より新技術やデータ解析を駆使して、地域課題を解決していくスマートシティモデル事業に関する15の先行プロジェクトが発表されました。少子高齢化が進むなか、これまでのように広い地域に分散して居住するモデルの維持は難しく、行政は居住エリアを集約化し始めています。当然、不動産投資もそうした居住誘導区域に行うべきで、スマートシティは今後不動産投資と関連の深い事案となるでしょう。
では今後の不動産市場に大きな影響を与える可能性が高い「立地適正化計画」と「居住誘導区域」について見ていきましょう。立地適正化計画とは「都市再生特別措置法」に基づき、各市町村が作成するマスタープランです。
●「都市機能誘導区域」:地域を商業、医療、福祉施設などを集める
●「居住誘導区域」:居住施設を集める
●「都市機能誘導区域と居住誘導区域以外」
上記の3つに分けて「都市機能誘導区域と居住誘導区域以外」に分類されたエリアから「居住誘導区域」への移住を促し、公的なインフラ投資を「都市機能誘導区域」と「居住誘導区域」に集中させていこうというものです。2019年7月31日時点で、全国の477都市が計画作成に着手しています。そのうちの269都市では、すでにエリアの分別とその公表を行っているのです。
たとえば東京都では八王子市、府中市、日野市、狛江市の4市が計画作成に着手し、福生市は作成と公表を済ませています。もちろん埼玉県や神奈川県、千葉県でも計画作成や公表が進行中です。当然、都市機能誘導区域や居住誘導区域から漏れた地域では、地価下落、空き家の増加、賃貸住宅における空室率上昇の可能性が高くなります。
今後、不動産投資を行う場合は、まず立地適正化計画のチェックから始めるのが、当たり前になるかもしれません。なお東京23区では、これとよく似たコンセプトの別の取り組みが進んでいます。
国土交通省のスマートシティモデル事業
国土交通省は、今後の国土のあり方を「立地適正化計画」「地域公共交通網形成計画」といった2つの柱から「コンパクト・プラス・ネットワーク」の基本構想を目指しています。「立地適正化計画」で都市機能や居住を集約し、「地域公共交通網形成計画」で集約の結果から生まれる拠点をつないで交通網の整備を行うのです。
この構想をより強力に推進するために拠点となる地域のインフラ投資の効率と暮らしやすさ向上を目的にしています。さらにAIやIoTなどの技術を活用し、「各地域が抱えるさまざまな課題を解決しよう」というのが、国土交通省のスマートシティ構想。都内でモデル地区となるのは、大手町や丸の内、有楽町地区、豊洲地区などです。各地域のテーマは以下のような内容になっています。
●大手町、丸の内、有楽町地区
災害発生時の帰宅困難者対策や負傷者救護のためのデジタルデータの活用やパーソナルモビリティの導入をテーマ
●豊洲地区
地域経済のキャッシュレス化や急激な人口増加、インバウンド増加による交通混雑解消のためのデータ活用をテーマ
そのほか自動運転車による観光客の移動支援を目指す静岡県の熱海・下田地区、データ予測による電力融通効率化を狙う千葉県の柏の葉地区など、興味深いモデルもあります。こうした先端技術の活用は、当面は一部の地域に限られますが、今後の都市開発では技術活用が進んでいく可能性が高いでしょう。
東京都における拠点への集約と不動産投資
不動産投資の最重要エリアの一つは、東京です。拠点への集約と拠点間の交通手段を整備することによる都市のネットワーク化は、東京23区内でも取り組みが進んでいます。少子高齢化が進んでも国内のみならず海外からも人が集まる東京は、人口増加傾向です。ただ高齢化は今後大幅な上昇が見込まれており、2040 年代の高齢化率は3割を超えるとされています。
そのためAIやIoTを活用し、拠点を絞ったうえでの福祉向上と自動運転車なども利用する拠点間の交通インフラ整備は重要なテーマです。
●中核的な拠点
大手町や丸の内、渋谷や新宿、23区外では立川や八王子などビジネスの中心となる拠点
●地域の拠点
赤羽、吉祥寺、明大前など
●生活の中心地
池上や西新井など
上記のように各拠点整備かつ競争を促し、エリアの特性を発揮させて育成された拠点を鉄道や道路交通でネットワーク化することで東京を活性化させるのです。
上記の地域の拠点や生活の拠点は、鉄道の乗降客数が多くハザードマップ上でも災害の可能性が低い地域が選ばれています。こうした地域の駅近物件は、特に安心できる投資対象エリアといえるでしょう。