先日、高級自動車メーカーであるアストンマーティンから新型のSUV「DBX」が発表された。ランボルギーニにおいても売上の半分以上を占めるなど、「高級SUV」市場が活況を呈している。各メーカーから出尽くした感があるが、いまだ参入していないメーカーのひとつがスーパーカーブランドの雄ともいえるフェラーリである。

SUVは好調も、スーパーカーの売上は落ち込んでいる?

先日、高級自動車メーカーである「ランボルギーニ」が2019年1月~9月期の世界新車販売の売上を発表、総販売台数は前年同期比83.4%増の6,517台と大きく伸ばした。日本での販売も同様で、551台と前年同期比は27.5%増と、2桁増を達成しているという。同社は2018年の販売実績で8年連続で前年実績を上回っており、このままいけばさらに記録は更新されるだろう。

 

「ランボルギーニ」というメーカー名を耳にして心が躍るのはスーパーカーブームを通り過ぎた世代ではないだろうか。その中でもショッキングなデザインでキッズを虜にした「カウンタック」は、まさにスーパーカーの象徴であり原点だ。中古車が7,000万円前後で取引されるほど、いまだに人気は衰えていない。

 

そんなスーパーカーが売上を引っ張っているのかと思いきや、前述の販売台数の内訳は、ランボルギーニが満を持して発表、新型SUVとして話題となった『ウルス』が6割を占めている。同社のアイデンティティともいえる、いわゆるスーパーカー『ウラカン』、『アヴェンタドール』はそれぞれ前年比23.3%減、13.1%減と落ち込んでいるのだ。

 

もともと「ラグジュアリーカー、エステートカー、パフォーマンスカー、クロスカントリーカーの4つの車の役割を1台の車で可能にする」とコンセプトのもと、元祖ともいえるランドローバー・レンジローバーという超高級SUVは存在していた。しかし、この路線をブームにまで引き上げたのはポルシェ・カイエンの発売であろう。SUVが持つタフなイメージとレースで培った技術を盛り込んだスポーティさ、そしてもちろん公道を普通の乗用車的な感覚で乗りこなせる手軽さ兼ね備えたクロスオーバーモデルは瞬く間に世界の市場を席捲した。

 

当時(2000年前後)のポルシェは、「2人乗りのスポーツクーペ」という限られた市場で苦戦をしいられ、深刻な経営危機に陥っていた。後に傘下に置かれることなるフォルクスワーゲンと協業し、この状況を打開すべく開発されたのがカイエンという新たな突破口であった。自社のリソースを最大限に活かしきり、「普段着のスーパーカー」というアイデアは起死回生の1台となって結実したのだ。

 

この後、マセラティ、ロールスロイス、ベントレー、アルファロメオ、レクサス、ロールスロイスなどが追従する形で、自社の高級ブランドイメージを取り入れたSUVモデルを開発、発表するようになった。

 

ちなみにポルシェの新車販売の売上も2019年1~9月期の世界新車販売は過去最高の20万2318台、前述のランボルギーニ同様で、売上の半数以上がSUVである『マカン』と『カイエン』が占めている。どちらもフォルクスワーゲン傘下という共通項があり、同グループの徹底したマーケティング戦略と各メーカーの伝統的なブランド力との絶妙な融合こそが好調な高級SUV路線をさらに後押しした形である。

 

「フェラーリ」ブランドを支える独自のビジネスモデル

 

実は高級SUVのヒットは「ブランドイメージ」にとって痛しかゆしということも否めない。ポルシェに関していえば売上の6割以上を「SUV」が占めるようになり、「911」をはじめとするかつてのスポーツカーのイメージがやや薄れることが懸念される。売上という果実のためにはいたしかたない部分もあるが、このあたりの戦略は、今後どう打たれるのか注目するのも面白い。

 

ランボルギーニのライバルといえば、いわずと知れた「フェラーリ」であるが、同社のSUVリリースの噂は少しずつ漏れ伝わってきており、2022年には正式発表されるのではといわれている。2018年の世界新車販売(出荷ベース)が、前年比は10.2%増の9251台と過去最高を記録するなど絶好調だ。各社に比べて遅れをとっているように見えるのは、まだ自社のブランドイメージを崩すリスクもあるSUV開発に関して、慎重に進めてきたからではないか。

 

前会長のルカ・ディ・モンテゼモロ就任以降、フェラーリは飛躍的な成長を遂げてきた。商品開発やエンジニアリング、そしてモンテゼモロが持つカリスマ性と徹底したしたマーケティング戦略で「フェラーリファン」を魅了してきたのだ。

 

中でもVIPカスタマーだけに提供される限定車は他のメーカーでは追従しにくい特別なものである。例えばスーパーカーのハイブリッドバージョンともいえるラ・フェラーリ(推定価格約1憶5,000万円)や一般公道やレースで走ることは許されない、サーキット走行専門車(⁉)であるFXX(推定価格約2億円)などは、カスタマーの中でもさらに上位の顧客に購入を打診されるという。

 

さらに世界のセレブを魅了するのが「ワンオフ」スーパーカーだ。あのフェラーリに、世界に1台、自分だけのオリジナルカーを発注できるという驚異のビジネスモデルである。正式には公表されてはいないが、顧客(こちらもVIPカスタマーとして認められた人物のみ)が同社に支払う金額は、4憶~5億円ともいわれている。

 

このようなスーパーリッチ層に特化した戦略とともに重視しているのが、クルマ単体に頼らず、「ブランド」自体を売り、価値を上げる戦略である(関連記事『アジアでNo1⁉「フェラーリ」が中国より日本で売れ続けるワケ』参照)。長期にわたるブランディングで自分たちの価値を高め、文化を根付かせる。レースなどを通じて、物語に感動したファンに向けた「跳ね馬のエンブレム」等のグッズのライセンス&マーチャンダイジングビジネスの売上もバカにならない。

 

スーパーリッチ層に向けたビジネスを盤石なものに築き上げながら、それ以外にも訴求するビジネスモデルを戦略化しているのがフェラーリだ。他のメーカーが追従したくてもできない分野を独占しており、これまではSUV開発を急いで進める必要はなかった。そんな「安売り」を是としないフェラーリが、SUV市場に参入するとしたら、まさに「満を持して」という表現がぴったり。高級SUV市場の地図がガラリと変わる可能性もある。純粋な「スーパーカー」のリリースが少なくなるのは少し寂しい気もするが、高級SUVが時代のニーズによって支持されていることは確かだ。

 

 

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