独BMWの日本法人「ビー・エム・ダブリュー」(東京)が販売店に不当なノルマを課し、達成できない分を買い取らせるなどのペナルティを課していた疑いがあるとして、9月11日、公正取引委員会が独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで、同社に立ち入り検査を行ったという。今回は、このニュースでも取り上げられた「新古車」事情について見ていく。

ディーラーは新車販売以外の利益も多くなっている

一般的に想像されるクルマの営業マンのイメージといえばどのようなものであろうか。法人や一般家庭への飛び込み営業、自腹での購入、始発から終電まで…といった大変な情景を思い浮かぶかもしれないが、それは比較的過去のイメージといっていい。飛び込み営業でいえば、訪問販売法の大幅改正により原則できなくなり、残業を含めた長時間労働も昨今の働き方改革等により是正、減少傾向にあるという。

 

営業マン個人の力に頼るというより、組織全体(デイーラー)で売ることが基本となっており、訪問よりも現在は来店対応が基本となってきている。また、新車の販売に頼るだけでなく、修理、サービス、中古車販売、ローンや保険など、付随するものの販売にも力を入れるように変わった。

 

環境や待遇がひと昔に比べて良くなりつつあるのは事実である一方、「販売目標」、つまり「ノルマ」に関していえば昔と変わらず存在しているようだ。今回のBMW日本法人の件の前に、まず自動車会社における「メーカー」と「ディーラー」の関係性を簡単に説明しよう。

 

「メーカー」は主に新車を開発・製造し、「ディーラー」に対しては営業支援も行う。例えば新車の特徴、魅力、他社同格車と比較した際の優位性を効率よくまとめたマニュアルを作成、営業担当が誰であっても変わることのないセールストークを展開することができるようになっており、売ってもらうための努力はメーカー側でも当然行っている。

 

さらに「ディーラー」は、「メーカー」から新車を仕入れ、販売する専属契約を結ぶ、“販売代理店”としての機能が主な業務となっている。メーカー直系と呼ばれる販売店でおおよそ希望小売価格のおおよそ8割ほどの仕入れ値といわれている。例えば100万円のクルマであれば80万円の仕入れ値である。希望小売価格から仕入れ値を引いた差額が儲けということであれば、これで値引きをすれば(100万の新車というのは現実的ではないが)儲けはほぼないように見える。

 

ただ、前述したように、新車販売以外の利益がいまや大きく、主流となっている。例えば修理やサービス、そしてオプション部品の販売とその取り付け工賃など。この他、各種登録手数料、整備点検費用、保険、ローン会社の手数料、下取り車販売もある。とはいえ、営業利益を確保するためには、新車販売とそれ以外の利益がバランス良く取れることが理想的であるのも事実だ。

 

 

消費者にとっては悪くない「新古車」という選択肢

今回、BMW日本法人が数年前から複数の販売店に、通常の営業活動では達成できないノルマを課し、「達成できなかった分」を買い取らせて販売店名義で新車登録させるなどした疑いが持たれている。こうした車両は販売店名義で登録されるため、「新古車」として値引きされ、ディーラーを通して流通していたとみられるという。

 

「販売店での買い取りというのは今回のケースに限らず、何も珍しいことではありません。例えばマイナーチェンジも含めたモデルチェンジが行われるタイミングで、特に売れ残っている車種をディーラーが買取り、新古車として売るなんてことは、内外問わず他のメーカーでも当たり前にやっています。例えばショッピングモール等で期間限定で展示販売しているクルマを見たことありません? あれも“新古車”であるケースも多いです。

 

個人というより、販売店(ディーラー)全体のノルマを達成するためにさまざまなキャンペーンを展開したりと各社必死です。これにより買う側も性能の良い新車同様のクルマを安く手に入れることができますし、実際にこのタイミングを狙い打ちして購入するユーザーも多いです。このような事情もあり、これまであまり大きくは問題視はされていませんでした」(元自動車販売店勤務T氏)

 

日本国内における輸入車新規登録台数は2016年から3年連続で増加しており、2008年約22万台だった登録台数は、2018年には約36万台となり10年前と比較しても大幅な伸びを見せている。軽自動車の売上に注目が集まるが、輸入車人気も着実に上がっているのだ。

 

2018年のブランド別輸入車新規登録台数でいえば、1位がメルセデスベンツで6万7554台、2位がフォルクスワーゲン5万1961台、3位がBMW5万0982台となっている。ドイツメーカが上位を占めているが、他にもボルボやジープなど人気も高まり、近年輸入外国車の競争はますます熾烈を極めている。2017年2位だったBMWは、フォルクスワーゲンに抜かれ3位になり、前年比も2.9%減となっている(日本自動車輸入組合)。

 

「“駆けぬける歓び”のキャッチフレーズの通り、BMWはもともとスポーティな走りを求める客層に狙いを定める戦略でそのブランド力を強化し、実際支持を得て世界で販売台数を伸ばしてきました。しかし、近年の日本国内では、高価格帯のSUVはもちろんですが、例えばメルセデスでいえば新しいAシリーズやフォルクスワーゲンではゴルフやポロなど、車格が日本サイズともいえる手頃なコンパクトカーが輸入車でも人気になっており、実際上位2ブランドが販売台数を積み上げた要因ともいわれています。

 

多少遅れを取った形となったBMWの焦りみたいなものが表れたのが今回のニュースなのかなと。ただ、繰り返しになりますが、良い品質のものを安く買えることができるので、消費者にとっては悪くない選択肢が新古車であるというのは個人的に思ってます。今回は運も少し悪かったかなという印象です」(同)

 

この8月29日にBMWのエントリーモデルとなる新型1シリーズがフルモデルチェンジ、より実用性を増したレイアウトを採用するなど幅広い年齢層に訴求するモデルを発売した。また、現在開催中のフランクフルトモーターショー(9月22日まで)では、「世界で最も黒い」クルマを披露し話題となるなど、その揺るぎない革新性で市場をリードしていることには変わりはない。今後、日本市場でどのような戦略をとり、あるいは巻き返すのか注目したい。

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