ますます経済縮小が進む日本ですが、今後のエネルギー政策の方針については、政策当局もエネルギー会社も確固たる方針を示せないでいます。今後、日本のエネルギーミックスはどのような流れとなるのでしょうか。本記事は、日本総合研究所が執筆した『エナジー・トリプル・トランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム)より一部抜粋し、次世代の新しいエネルギーシステムについて考察します。

求められるエネルギーミックスの転換

資源エネルギー庁は、2030年の電源ごとの発電量を、天然ガス火力27%、石炭火力26%、原子力22~20%、再生可能エネルギー22~24%とするエネルギーミックスを示している。

 

しかし、いずれの電源についても実現には不透明性がある。資源エネルギー庁は、2050年に向けたエネルギーミックスを2030年から変更しておらず不透明さは一層増している。現時点では、政策当局、エネルギー会社の誰もが明確な答えを持っていないように思われ、日本は、将来に向けた確固たる方針を示せないでいる。

 

座礁資産論に対して、日本の金融界は、比較的冷静に対応していたが、グローバル市場でビジネスを展開する商社や金融機関は、今まで以上に積極的な対策が求められている。政策当局や電力会社は、欧州とは一線を画して、石炭火力を維持し、超超臨界、石炭ガス化複合発電(IGCC)といった高効率石炭火力を途上国に輸出するシナリオを描いていたが、国際的な非難にさらされている。電力会社や大手商社は、ノルウェーの年金基金など欧州の投資家から脱石炭の取り組みの遅さを批判され、株式保有の対象から外されたり、取引上の制約をかけられるなど、ビジネス上の支障が出ている。

 

2016年にオックスフォード大学スミス企業・環境大学院は、日本の電力会社、鉄鋼会社、製紙会社、商社などの企業名を挙げて、座礁資産による損失リスクを警告している。その後、2018年には、三菱商事と三井物産が発電用石炭の鉱山事業からの撤退を決め、三井住友銀行は、超超臨界あるいはそれ以上の効率でなければ石炭火力への融資を行わない方針を明らかにした。2019年には、みずほ銀行も同様の方針を示し、三菱UFJ銀行は、新設の石炭火力発電には原則融資しない方針を明らかにした。

 

グローバル企業は、国際的な批判を無視して、石炭火力を進めることは考えにくくなっており、石炭火力の立場は今後ますます苦しくなる。石炭火力に批判的な環境省は環境アセスメントを厳しくしており、日本では、石炭火力の増設はおろか、石炭火力を維持する政策自体が揺らぐ可能性すら出ている。

 

原子力発電については、電源開発(J-Power)の大間原発、東京電力の東通原発、中国電力の島根原発3号機といった建設中案件や、東北電力や九州電力の建設準備中案件が先送りを余儀なくされている。東日本の原発は、再稼働すら不透明で、原子力発電の発電量シェアを高めるのは容易ではない。支えるメーカーも、ウェスティングハウスの破綻に伴い、東芝は経営基盤が揺らぎ、日立製作所もイギリスのウィルファ・ネーヴィス原発から、三菱重工業もトルコのシノップ原発の計画からの撤退を決めた。原子力発電は海外輸出でも行き詰まりを見せている。

 

一方、FITにより太陽光発電が一気に普及したこともあり、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの比率は達成されるのではないかとの声もある。しかし、高い買取コストと変動調整負担なしで導入された太陽光発電がFITのない時代に生き残れるのか、という課題が残る。日本のFITは、事業用太陽光発電(メガソーラー)の買取価格を高く設定し過ぎたことで国民負担を増しただけでなく、市場構造をゆがめる結果となった。

 

日射量や日照時間が十分でない日本では、太陽光発電のコストが天然ガス火力より低くなるのは容易ではなく、国民の信頼を失えば、太陽光発電への投資がゼロに近い状態に逆戻りすることもあり得る。日本では、海外のような原発並みの大型の再生可能エネルギー発電所の建設が難しい事実も明らかになってきており、中長期にわたる再生可能エネルギーの導入には依然として課題が多い。

 

1960年代に建設された火力発電の建て替え時期が2020年代に到来する。そこで大型火力に投資すれば、50年以上維持していかなければならない。更新投資を行ったあとでエネルギーシステムの方向転換が起これば、新たな投資がそれこそ座礁資産化してしまう。このタイミングで大きな賭けに出るべきかどうか、現状、誰も答えを出せない。2020年代に、どのような電源に投資するかで次世代のエネルギーミックスは大きく変わる。

 

本格的な人口減少時代による電力需要の減少

人口減少が本格化する日本では、電力需要が減少するリスクが高い。株式会社日本総合研究所調査部は、2050年の電力需要は、2016年時点と比較して2割以上減少すると予測している

 

注:藤山光雄「2050年の電力消費は2016年対比2割減少」『日本総研Research Focus』2018年5月14日

 

2050年の日本の人口は約1億人と現在から2割程度減少する。人口が減れば、核家族化による世帯数の伸びも鈍化するため、家庭用の電力需要は2割程度減少せざるを得ない。スマホ需要などで電力需要が伸びるのではないかとの声もあるが、その量は微々たるものだ。電気自動車(EV)も普及率が2割程度に留まれば、需要の減少を取り戻すほどにはならない。人口が減れば労働力も減り、結果としてオフィス需要も減退する。重厚長大産業の割合が低下する産業構造の転換は今後も続くだろう。

 

これらに加えて2011年の東日本大震災以降続いている省エネ傾向がある。電力需要の減少は、電力会社の利益を低下させ、投資余力を縮小する。送電事業の収入は、販売電力量に電気料金の単価を乗じたものだから、電力需要の減少は、送電投資余力の減少に他ならない。こうした市場構造が見えているなかでの積極的な設備投資は、一般の企業経営では考えられない。

 

日本では、風力発電にしても太陽光発電にしても、条件の良い土地は大需要地から離れているため、送電線の整備が不可欠だが、電力需要の減少で資力余力が低下するなかでの投資というのが現実だ。

自由化による投資余力のさらなる低下

低成長あるいは経済縮小のタイミングで本格化した電力とガスの自由化は、電力会社の投資意欲を一層減退させている。自由化で顧客を奪われた小売会社は、新規サービスへの投資より顧客離脱防止、コスト削減に注力する。発電会社は、新たな投資や維持管理費を抑えて発電コストを低下させる。送電会社は、自社グループの電力の販売以外からも収益を得られるが、グループの利益を支えることが求められると、投資を抑えて収益性を高めるしかなくなる。

 

また、発送電分離されたとはいえ、自社グループの小売会社の競争環境を劇的に変える広域融通には積極的になれないから、地域間連系線への投資には慎重になる。送電投資を増やすには、託送料金の値上げが避けられなくなり、需要家への電気代を押し上げ、批判を受ける可能性もある。新電力の競争力をそぐ意図があるのではないかとの批判もあり得るだろう。送電会社についても積極的な投資は行う環境は見当たらない。

 

国による送電投資も考えられるが、民間電力会社による電気事業の枠組みを浸食する。国が補助金を出すためには、産業政策上の意義など正当な理由が必要だ。地域間連系線にFITと同じ枠組みで資金を投じる仕組みが検討されているが対象は限定される。

 

どこから見ても自由化で電力会社の投資力は減退していくのである。

 

 

株式会社日本総合研究所

〈執筆者〉

井熊 均
日本総合研究所 創発戦略センター 専務執行役員

瀧口 信一郎
日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト

木通 秀樹
日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト

 

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エネルギービジネスのヒントが満載! 「グリッド」「燃料」「デジタル」――エネルギーの未来を拓く三大改革と次世代システム実現に向けたロードマップ。 目次 はじめに 第1章 日本をとりまく4つのエネルギー危機 …

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