「セクハラ」「パワハラ」「マタハラ」といった言葉が周知されるようになったものの、いまだ苦しみの声は多く聞かれています。それは一般的な会社のみならず、医療業界でも同様です。本記事では、みなとみらい税理士法人・髙田一毅税理士の書籍『クリニック人事労務読本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、「ハラスメント」における注意点を解説します。

「セクハラ・パワハラ・マタハラ」それぞれの定義は

全国の都道府県労働局及び労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争相談の件数は、2017年度だけで25万3005件に及んでいます。その内訳は以下の通りです。

 

① いじめや嫌がらせ・・・7万2067件

② 自己都合退職・・・3万8954件

③ 解雇・・・3万3269件

※1回において複数の内容にまたがる相談等が行われた場合には、複数の内容が件数に計上されています。

 

このように、最も多いのは「いじめ・嫌がらせ」であり、ハラスメント系のトラブルが労働者にとって深刻な悩みとなっている状況がうかがえます。ハラスメント系のトラブルを大きく分けると、(1)セクシュアルハラスメント<セクハラ>、(2)パワーハラスメント<パワハラ>、(3)マタニティーハラスメント<マタハラ>の3つがあげられます。定義は、以下の通りです。

 

(1)セクハラ

 

セクハラとは、性的嫌がらせのことであり、相手の意に反する「性的言動」によって不利益を受けたり、就業環境などが害されることをいいます。職場におけるセクシュアルハラスメントには「対価型」と「環境型」があります。厚生労働省の資料によると以下の通りです。

 

① 対価型セクシュアルハラスメント

 

労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。

 

② 環境型セクシュアルハラスメント

 

労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。

 

(2)パワハラ

 

パワハラとは、同じ職場で働く者から、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を受けたり、就業環境などが害されることをいいます。

 

(3)マタハラ

 

マタハラとは、妊娠・出産や、産前・産後休業、育児休業を取得した者が、業務上の支障をきたすという理由で、職場の上司・同僚から、解雇その他不利益な取り扱いを示唆するようなことや、法律上の制度の利用を阻害するようなことをいわれたり、不適切な配置転換や嫌がらせを受けることをいいます。

 

ハラスメント系のトラブルは尽きない
ハラスメント系のトラブルは尽きない

実際の例「鹿児島セクシュアルハラスメント事件」

ここでは、ハラスメント系の判例に基づいて、検証をしていきます。

 

◆鹿児島セクシュアルハラスメント事件(2001年11月27日鹿児島地裁判決/確定)

 

●事案

Y医師会の職員であったXが、研修旅行の懇親会の後の二次会の際に、事務局長のZからキスをされるなどのセクハラ行為を受けたとして、ZとY医師会に対し、損害賠償の支払いを求めたもの。

 

●判決の要旨

Zの行為は、その行為の性質、ZとXとの関係、当時の状況等に照らせば、Zが仕事上の地位を利用してXに対して行った、Xの意に反する性的な身体的接触行為であり、社会通念上許容される限度を超えるものとして、Xの人格権を侵害する不法行為というべきである。

 

Zらの使用者としてのY医師会の責任については、本件二次会は、懇親会終了後に宿泊ホテル内で行われたものであるとはいえ、一度解散した後に偶然出会って開催された経緯等に照らせば、事業の執行を契機とするものとはいえない。したがって、Y医師会が使用者責任を負うことはない。

 

一方、職場環境の維持等に係るY医師会の責任については、職場における性的な言動に対する女性職員の対応により労働条件等不利益を受けないように、また、性的な言動により女性職員の就業環境が害されることがないように雇用管理上必要な配慮を行う義務を有すると解される。

 

しかし、Y医師会は、本件以前には、セクハラ行為を防止する組織的な措置はまったく取っておらず、職場環境を維持・調整する義務を尽くしていたとはいい難い。よってY医師会は、Xがセクハラ行為によって被った損害について、Zと共同して賠償する責任を負う。(結果的には30万円の支払いが命じられた)

過去「セクハラ」と判断された基準は何か

セクシュアルハラスメントの状況は多様であり、判断にあたっては個別の状況を考慮する必要があります。以下は、厚生労働省の通達となります。

 

「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断にあたっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要である。

 

具体的には、セクシュアルハラスメントが、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。ただし、労働者が明確に意に反することを示しているにもかかわらず、さらに行われる性的言動は職場におけるセクシュアルハラスメントと解され得るものであること。

 

要するに、意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、例えそれが1回であったとしても就業環境が害されていることとなります。反対に継続性が要件となるものであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断されるのです。

 

過去の判例においては、以下のようなケースがセクハラと認定されています。

 

●執拗にデートに誘う

●業務を理由に個人面談を行い交際を迫る

●業務出張を命じ同行し「同じ部屋に泊まろう」と強要する

●「結婚しろ」「結婚しなくていいから子どもを産め」などの発言をする

●スリーサイズを聞く・妊娠中の女性社員に対し「腹ぼて」「胸が大きくなった」等の発言をする

 

また、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止効果を高めるためには、発生の原因や背景についてスタッフの理解を深めることが重要です。またそこには性別役割分担意識に基づく言動もあると考えられ、こうした言動をなくしていくことが重要です。

 

クリニックにおいては、スタッフの意識啓発など周知徹底を図るとともに、普段から就業環境に対するチェックを行い、未然の防止対策をじゅうぶん講じるようにすべきです。

 

 

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髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

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