将来の相続税を考慮し、節税に繋がる「生前贈与」の活用が広く知られるようになりました。しかし、やり方を間違えれば、贈与が認められず結果的に多く税金を払うというケースにもなりかねません。本記事では、相続・事業承継を専門とする税理士法人ブライト相続の天満亮税理士、竹下祐史税理士が、相続税と贈与税について説明します。

贈与を税務署に否認されないための「客観的な証拠」

相続税対策として、せっかく長期間にわたって暦年課税贈与を進めていても、相続税申告における税務調査によって、税務署に贈与を否認されてしまう場合があります。贈与を主張して相続税の課税対象となる財産から外すのであれば、税務署を説得できるだけの材料を揃えておかなければなりません。

 

そもそも生前贈与は、贈与した側と受け取った側の、それぞれの合意があれば成立します。この原則からすると、口約束だけで書面が残っていなくても、生前贈与は成立することになります。

 

しかし、相続税の税務調査の際には、贈与した側の方は亡くなられていて、証言をすることができません。そうすると、受け取った側が1人でいくら主張しても、税務署を説得するには弱い、となってしまいます。

 

そこで、民法上の贈与の成立要件には必ずしもなっていないものの、客観的な証拠を少しでも用意して、税務上も贈与があったことを立証する、ということが必要になってきます。

 

客観的な証拠として考えられるのは、下記のとおりです。

 

・贈与金額を子・孫の口座(贈与を受ける側が普段使っている口座)に振り込む

・贈与契約書に、贈与をした側と受け取った側の双方が署名捺印

・受け取った側が自身で贈与税の申告と納付

・受け取った側が通帳や印鑑を所持

・受け取った側が「贈与を受けた」と認識していることを主張

・受け取った側が贈与財産を管理運用

 

未成年者(孫など)への贈与の場合は、法定代理人(両親等)の署名押印もしておきましょう。

 

家族名義の預金については、本当にその名義人の預金(いわゆる名義預金)かどうかが問題となります。特に税務署が調べたがるのは、長年にわたって専業主婦だった配偶者や、あとは未成年の孫でしょうか。

 

相続人の過去の収入から推測される財産の額よりも、実際にその相続人名義になっている財産の額の方があまりにも多い場合には、今回亡くなられた方の財産が流れていたのではないか、と見てきます。

 

名義預金と同様に、名義生命保険として、契約者が子なのに、親が保険料の支払いをしているものについても、相続財産になりますので注意が必要です。

 

また、連年贈与という言葉も巷を騒がせているようです。例えば「5000万円を10年間で贈与する」というような贈与契約をした場合、贈与の金額は年間500万円では済まない、ということです。

 

1年間500万円の贈与を結果的に10年間続けるのと異なり、連年贈与と指摘されると、契約時に5000万円分の財産(年間500万円・支払い期間10年の定期金)の贈与を受けたとして高額の贈与税が課される恐れがあるのです。

 

ただし、連年贈与については、贈与契約書の作成を最初の1回で済ませるような契約書さえ作らなければ、指摘される可能性は低いでしょう。あくまでも贈与契約はその都度、という原則さえ貫けば良いのです。

 

税務署側が、連年贈与の契約書も無いのに連年贈与を立証することは非常に困難だと思います。毎年の贈与の日付を変えた方が良い、といった声も聞きますが、そこが論点ではないと思います。

「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の違い

平成27年(2015年)分の贈与税から、一般贈与財産と特例贈与財産に分けて税額を計算するようになりました。

 

特例贈与財産とは、財産の贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の子・孫が、直系尊属(親・祖父母)から贈与を受けた財産をいいます。

 

一般贈与財産とは、特例贈与財産以外の財産をいいます。

 

特例贈与(20歳以上の子・孫への直系尊属からの贈与)については、以前より税率が下がりました。国としても景気を良くするために、お金を消費する世代への贈与を推奨しているということです。

 

特例贈与財産用の税率表は、次の通りです。

 

[図表3]

 

 それに対し、一般贈与財産用の税率表は、次の通りです。

 

[図表4]

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