「大学入試」の迷走はゼロ戦に似ている:竹内洋×佐藤優対談

大学改革の本質は入試改革にあり、共通一次試験の導入がターニングポイントになりました。また、2021年から大学入試センター試験が変わり、「大学共通テスト」が始まる予定です。今回は、大学入試の変遷からセンター試験による悪影響や、AO入試について考察します。※本記事は、佐藤優氏と竹内洋氏の対談が掲載された『大学の問題 問題の大学』から一部を抜粋したものです。

「入試の変遷はゼロ戦」必要なのは抜本的な改革

佐藤優氏
佐藤優氏

竹内 佐藤さん、大学改革については、どう思いますか。大学改革は1990年代からずっと続いていて、もう「改革疲れ」とも言えるような状況です。

 

佐藤 大学改革の本質はどこにあるかというと入試改革です。何かを変えたいと思っても、結局、入試制度を変えない限り、大学は大きく変わらないと思うんです。入試制度を変えると、それに合わせて、まず受験産業が変わって、次に高校の進学校が変わって、それがトリクルダウンして(したたり落ちて)下に降りていき、進学校の中学校に降りて幅広く変化していく。入試の在り方を変えると改革は広がっていきます。

 

入試の変遷を考えると、私はゼロ戦(零式艦上戦闘機)のことを思い出すんです。ゼロ戦は紀元2600年(1940年=昭和15年)に造られました。一一型から始まって何度もマイナーチェンジをして、結局5年間使い切って、最初の頃は無敵の戦闘機だったんですが、最後はB29に体当たりしても相手が墜落しないというくらいぼろぼろな状態だった。試験というのも同じで、どんどんマイナーチェンジをしながら使うけれども、どこかで抜本的に変えないと、最後にぼろぼろになる。

 

今の大学入試を画期的に変えたのは1979年に行われた「共通一次試験」だと思うんです。それまでマークシート方式の試験は市民権を得ていなかった。例えば京都大学の入試で、学生をマークシートで選別するという発想はそれまでなかったと思う。せいぜい東京大学の1次試験で、郵便番号読み取り機のようなもので数学の解答を読み取らせる。でもそれは、答案を見る人数を絞り込むということで使う、つまり、足切りで使うぐらいの発想しかなかったと思うんです。ところが、今、東京大学の入試は、900点満点で9割くらい取らないといけない。

 

竹内 大学入試センター試験はそうだね。難関大学では受験者の得点が高過ぎて選別力を持つには足りなくて、注意力の違いになってしまっているところがある。

センター試験の悪影響…数学ができない経済学部卒

佐藤 センター試験になって、今は東大も、2次試験の時に110点分に圧縮しています。この110点分への圧縮、550分の110というのは結構大きいですよ。センター試験で点数がきちんと取れていないと大学に落ちるということになった。だから最初は、大学は足切りくらいの軽い意識で入れたのだろうけれども、受験者はそこにウエイトを置かなくてはいけなくなった。

 

それで、共通一次試験、その後の大学入試センター試験ですが、そうした試験があまねく広がった結果、何が起きたかというと、偏差値が過剰な意味を持つようになり、大学の序列化が起きた。センター試験は共通一次試験とは異なり、私立大学も参加しましたから、私大にも大変な悪影響を及ぼした。その一つは文系の数学離れです。

 

入学試験から数学を外すと、受験生が集まるから偏差値が大体5ぐらい上がると言われています。最後まで数学を入試に入れて頑張っていたのが慶應の経済学部と同志社の商学部だったんですけれども、結局、慶應がなぜ早稲田の政経にあんなに水をあけられるんだという話が出てきた。慶應の法学部政治学科よりも経済学部の偏差値が低くなったことが、慶應の同窓会「三田会」でも大変なショックで、非数学受験枠を作ったという話を聞いたことがあります。

 

数学がなくなり負担感が減るから受験者が殺到して、結果として偏差値が上がる。でも、その結果、国際的に極めて珍しい、数学がほとんどできない経済学部卒、あるいは経済学修士号を持った人が出てくるという異常事態になるわけです。

 

これではまずいということに気が付いて、1990年代ぐらいからかなり認識は進んできたと思うんです。だから、文理融合をしてみようとか、いろいろな制度をいじってみるということはやってみた。あるいは小論文を課して、積極的に何かやろうという意識を見ることを試みた。しかし、受験産業がいつも対応して大学の先を行く。向こうはそれで飯を食っているわけですから、常に上手なんですね。

錬金術師のような才能?「AO的人間」とは

佐藤 2020年度から大学入試センター試験が変わり、「大学共通テスト」になります(注1)。英語は民間等の外部試験にして、数学と国語に記述式試験を入れて変えていくということになったわけです。

 

(注1)2020年度より導入される、大学入試センター試験の後継試験。知識・技能に加え、大学入学段階で求められる思考力・判断力・表現力を重視する(従来のマーク式問題に、数学・国語の一部で記述式問題を導入することが決まっていたものの、文科省が2019年末に延期を発表している)。特に英語は、民間の資格・検定試験を活用し、4技能(聞く、話す、読む、書く)が評価対象となる。

 

私は、大学共通テストの試行試験について現代社会と数学を解いてみたんです。現在の大学入試センター試験よりも少し難しいのではないかと思いました。今の高校生がこの試験を受けて、国立大学では有意な差が出るのは旧帝大プラス一橋大などのレベルでないと判定できないと思います。国立でも中堅大学以下になると、軒並み平均点が下がって30点とかになって選別できないでしょうね。

 

ただ、基本的な方向として、国際基準では、高等教育でこれぐらいのものが必要だということを示す意味で、文部科学省も大学入試センターも一生懸命やっていると思うんですけどね。

 

竹内 もう一つは、推薦入試と、小論文や面接などで判定するAO(アドミッションズ・オフィス)入試(注2)。大学はあれを導入してから迷走しはじめたと思う。

 

(注2)大学の入学管理局(admissions office)の選考基準に基づき、高校の学業成績やスポーツ活動、ボランティア活動の実績などから多面的に評価する大学入試の方法。学校側が提示する学生像(アドミッション・ポリシー)が評価基準となる。

 

表向きの趣旨としたら、学力だけでなく、個性的でモチベーションが高い学生を取りたいから導入したと言うけれど、大学は換骨奪胎するのが得意やから、少子化で学生集めのいい口実になっている側面がある。私学だと、もう半分ぐらい推薦やAOで学生が入っていて、偏差値も90年代あたりの学生数が多かった頃のピークに比べれば、母集団が半減していて、受験者の学力を測るのに当てにならない。

 

佐藤 面接で周囲の磁場を変化させる、いわば錬金術師のような才能があると、AO入試は抜けられるんです。

 

竹内 なるほど、錬金術師(笑)。それはそれで才能だけど。推薦やAO入試で大学に入ると、何か世の中を甘く見るようなところが出てくるのではないですか。「コミュ力」といわれる「能力」のお墨付きを得たと思うのが怖い。そこで出来るのは「AO的人間」だな。

蔓延する「コミュ力」…そのあいまいさと危険性

竹内洋氏
竹内洋氏

佐藤 そういえば竹内先生、産経新聞の「正論」欄にコミュ力ばやりの世相について書いていましたね。

 

竹内 「万能薬のように徘徊する『コミュ力』という妖怪」(産経新聞2017年4月3日付)というエッセイです。大学関係者も賛同する人が多かったようで、小論文試験に複数の大学で使われました。つづめて言えば以下のようなものです。

 

近年「コミュ力」という言葉が飛び交っている。コミュ力が高いとか低いとか言われて、中には「コミュ障」(他人との会話が苦痛で苦手)という言葉すらある。

 

コミュ力とは、「コミュニケーション(意思疎通)能力」のことだが、これまでの、知識量や協調性、勤勉性などの「近代型能力」に対して、これからの時代は、創造性や能動性、交渉力といった「ポスト近代型能力」が必要だと言われ出したことが背景にある。

 

しかし、こうした「コミュ力」をはじめとした「ポスト近代型能力」は、具体的にどういったものを指し示すかといったことや、どのようにその力を付けるかは分かりにくい、あいまいさも伴っている。

 

また、コミュ力を発揮しているのは、例えばお笑いタレントなどだが、彼らが発揮するコミュ力は、あくまでも虚構の世界で「空気を読みながら」演じているものであって、これを実生活にそのまま持ち込めば「舌先三寸」とか、「調子のよい奴」とされて、信頼や信用を失いかねない危険なものでもある。考えてみれば、生き馬の目を抜くような芸人の世界も、実は律儀さや「近代型能力」を発揮しながら生き抜いているはずで、そうみれば近代型能力を軽く見てはいけないのです。

 

佐藤 まさしくその通りだと思います。

京都大学 名誉教授
関西大学 名誉教授
関西大学 東京センター長

1942年生まれ。京都大学教育学部卒業後、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。教育学博士。関西大学社会学部教授を務めた後、京都大学へ移り、教育学部教授・大学院教授・研究科長・教育学部長を歴任。2005年4月に関西大学教授に再任、人間健康学部長を経て現職。日本教育社会学会会長、読売新聞読書委員、中央教育審議会大学教育部会専門委員、日本学術振興会特別研究委員等審査委員会委員などを歴任。著書に、『革新幻想の戦後史』(中央公論新社)、『メディアと知識人』(中央公論新社)、『大学の下流化』(NTT出版)等多数。

著者紹介

作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授(学長特別顧問、東京担当)

1960年東京都生まれ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論を学ぶ。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局主任分析官(課長補佐級)。2002年鈴木宗男事件に絡む疑惑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2013年執行猶予期間満了。刑の言い渡しが効力を失う。時事通信社からは『日本でテロが起きる日』『一触即発の世界』を刊行。

著者紹介

連載竹内洋×佐藤優対談「大学受験を考える」

※本稿の内容は、『大学の問題 問題の大学』刊行時(2019年10月19日)のものです。

大学の問題 問題の大学

大学の問題 問題の大学

竹内 洋 佐藤 優

時事通信出版局

大学で学ぶことの意味、高すぎる授業料、日本の「入学歴社会」の崩壊、迷走する入試、勉強嫌いの大学教員、教育の将来・・・。「大学」は問題だらけです。 1.大学でなぜ学ぶのか(Why) 2.大学で誰が学ぶのか(Who) 3.大…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧