日本人「理系男性」の時代錯誤な態度:竹内洋×佐藤優対談

政治家には文系出身者が多いですが、なかには理系の政治家もいます。またビジネスがグローバル化するなかで、理系キャリアの教養教育不足が露呈する場面が多くみられます。今回は理系キャリアについて考察していきます。※本記事は、佐藤優氏と竹内洋氏の対談が掲載された『大学の問題 問題の大学』から一部を抜粋したものです。

東日本大震災で意外な凄みを見せた「理系・菅直人」

佐藤 理系の政治家で思い浮かぶのは、直近で言うと鳩山由紀夫さんと菅直人さんですね。

 

竹内 菅さんは東京工業大学を出ていて理系ですが、大学できちんと勉強していたのかな。

 

佐藤 私は2011年の東日本大震災については、菅さんが総理でなければ、もっと深刻な事態になっていたと思っています。実は私、彼の選挙の時、応援メッセージを寄せたこともあるんです。彼に対する評価は、私はフェアだと思っています。東日本大震災のことで言うと、彼は情報統制に成功したということなんです。

 

竹内 そうなんですか。

 

佐藤 だから彼は非常に全体主義的な人だと。

 

竹内 それ、褒めているんですか、けなしているんですか(笑)。

 

佐藤 でも、震災直後の危機的状況で真実をそのままリアルタイムで明らかにしていったら、都市パニックが起きて大変なことになっていたと思うんです。

 

竹内 菅さん自身がパニクっていたように見えましたが(笑)。

 

佐藤 当時、菅さんは異常な立ち居振る舞いを幾つかしたように見えるんだけれども、これは都市パニックを起こさないという意図があったからだと思います。

 

竹内 計算ずくだったと(笑)。

震災で判明した「日本人の自己検閲と国家への信頼」

佐藤優氏
佐藤優氏

佐藤 事態がどれくらい深刻かということについては、彼はよく分かっていた。だからそこは良かったと思うんです。もしあの時に自民党政権だったら、野党は「自民党の失策だ」と東日本大震災を政争の具にしたと思う。原発推進の自民党がその時に野党だったから、当時の民主党政権を攻撃できなかった。それでオールジャパンで震災対策を取ることができた。

 

もしあの時、自民党が政権の座にあったら、野党はこれぞ自民党政権の最終的な結果だとして、倒閣運動をして、その結果、震災の対応が遅れて、日本は壊滅的な事態に陥っていたかもしれない。

 

竹内 可能性としてはあり得ました。

 

佐藤 それと同時に、都市パニックが起きる。もし東京で都市パニックが起きたら大混乱に陥って、日本経済はとんでもない状況になったと思います。

 

本当にあの時は大変でしたけれど、一方でとても興味深いことがあった。日本人は「自己検閲」するんです。震災後間もなく、東京駅から下りの東海道新幹線は切符が買えない状態だったんですけれど、そんな報道は1本もなかった。あおらないようにとメディアも抑制していたんです。飛行機も全部満席で、私の知っている新聞社でも自分は東京にとどまるけれども、家族は沖縄とか九州に出したという人が結構いました。情報が一番集まる「要」の人たちは実はそういうことをやっていたんです。

 

しかし、その人たちも非常な緊張感を持ってパニックを起こしてはいけないと自己検閲を行う。それで、私は、あの時に「菅直人を翼賛せよ」という文章を書いたんです。例えば、菅さんが昔、応援していた市川房枝(注)が選挙運動で唱えた「出たい人より出したい人」なんて大政翼賛会のスローガンそのものです。ボランティアは翼賛ですから。翼賛は強制力がなくて自発的にやるので、ボランティア精神の結集が結局翼賛です。本当にこの国は怪しげなんです。

 

(注)市川房枝(1893〜1981):1893年愛知県生まれ。婦人運動家。愛知県女子師範学校を卒業後、教員、新聞記者を経て上京。1919年に平塚らいてうらと新婦人協会を結成。その後渡米し、帰国後の1924年に婦人参政権獲得期成同盟会を結成。参議院議員を通算5期25年務めた。

 

竹内洋氏
竹内洋氏

竹内 やっぱり、褒めてるのか、けなしているのか分からないな(笑)。翼賛に関連して思い出すのは、東日本大震災の後、日本在住の中国人女性作家と、ある宴席で同席した時のことです。彼女は中国で同じような大災害が起こったら、民衆の略奪をはじめとして、暴動が起こるだろうと言いました。日本ではそうならなかったのは、日本人には国家への信頼があるからだと。確かに、日本人は国家への悪口はよく言いますが、究極的なところでの信頼感は強いですね。もちろんそれが翼賛運動にもつながるという面も持っているわけですが。

 

佐藤 そう思います。

「おもてなしロボット」は理系が生んだ負の産物?

佐藤 もうちょっと理系の話をしますね。国立情報学研究所教授の新井紀子さんと以前、お会いした時に、「おもてなしロボット」の話を聞きました。これは新井さんが朝日新聞のコラムでも書いていたのですが、日本で受付嬢のロボットを開発してオリンピックで使おうと考えた。ところがヨーロッパで、なんで受付は女がやると決めつけるんだとひんしゅくを買ったという話です。

 

竹内 おもてなしを?

 

佐藤 ええ、おもてなしを。それはジェンダーバイアス(性的偏見)だ。だからそんな「ガラパゴス技術」でロボットを作っても海外には輸出できないと。しかし、そうした意識のない理系の人がロボットを作っちゃった。今、国際社会でジェンダーの意識がどうなっているか、分かっていないわけです。受付は女がやるものと決めつけて、それ自体が通用しないということが分かってないと。

 

竹内 なるほどね。

 

佐藤 確かにその通りだと思うと同時に、私がすごいなと思ったのは、受付ロボットを導入して成功しているテーマパークのハウステンボス(長崎県佐世保市)や、「変なホテル」(東京都中央区等)がある。これらのホテルは何と受付ロボットが恐竜なんです。

 

竹内 恐竜型ロボットか(笑)。

 

佐藤 国際展開を考えていて、外国人のお客が来ると恐竜ロボットが「いらっしゃいませ」とダミ声で言う。日本語で「いらっしゃいませ」、英語で「ウェルカム」、中国語と韓国語も併せて4カ国語をしゃべる恐竜ロボットなんですけれども、これだったら確かにジェンダーバイアスはない。

 

ビジネスに成功する人間は、ジェンダー感覚がある。だから、受付を女性ロボットと決めつけずに、一見グロテスクなんだけれど、恐竜にしちゃう。

 

竹内 恐竜で行けるところを、日本の人たちは無意識で女性ロボットを作ろうと一生懸命やってたわけね。

 

佐藤 そうなんです。おもてなしロボットを作ってデモンストレーションして、オリンピックで使おうと。

 

竹内 それはちょっとあかんやろうね。かなり昔の話ですが、私も、そういう失敗がありますよ。上の娘の連れ合いがアメリカ人で大学教員なんやけれど、夫婦で日本に一緒に来た時に私の研究室に来たんです。その時に事務補佐員がわれわれにお茶を持ってきた。それに対して彼はすごくびっくりしたんです。アメリカでは事務補佐員がいても、それは仕事だけをするのであって、お茶を持ってくるなんて考えられない。そう言ってました。

 

アメリカならお茶くみは職務内容にないということになる。日本は就社社会で職務内容があいまい化するということもあります。でも日本だと当時やったら、普通のことやった。そういう意味では、私も反省したんだけど、理系の人にも教養教育が必要ですね。

 

佐藤 そうです。そういうところでの文理融合も重要です。文理融合チームでやらないと、商品化する時に致命的にネックになることに気が付かないわけじゃないですか。

 

竹内 説明書やマニュアルなんかでもそうだね。今は文系のテクニカルライターが書いているかもしれないけれど、電気製品などの説明書を見ると、そもそも日本語になっていないことがある。読んでいても何だか全然分からない。

 

佐藤 だいたいマニュアルが厚過ぎますよね。

 

竹内 そうですね。

 

佐藤 だから今、むしろ取扱説明書は2枚くらいで、見開きくらいで付いているものが増えてきましたよね。少し厚紙で、簡単になって。

 

竹内 まあ、突き詰めていくところが理系の良さかもしれないけれど。

作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授(学長特別顧問、東京担当)

1960年東京都生まれ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論を学ぶ。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局主任分析官(課長補佐級)。2002年鈴木宗男事件に絡む疑惑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2013年執行猶予期間満了。刑の言い渡しが効力を失う。時事通信社からは『日本でテロが起きる日』『一触即発の世界』を刊行。

著者紹介

京都大学 名誉教授
関西大学 名誉教授
関西大学 東京センター長

1942年生まれ。京都大学教育学部卒業後、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。教育学博士。関西大学社会学部教授を務めた後、京都大学へ移り、教育学部教授・大学院教授・研究科長・教育学部長を歴任。2005年4月に関西大学教授に再任、人間健康学部長を経て現職。日本教育社会学会会長、読売新聞読書委員、中央教育審議会大学教育部会専門委員、日本学術振興会特別研究委員等審査委員会委員などを歴任。著書に、『革新幻想の戦後史』(中央公論新社)、『メディアと知識人』(中央公論新社)、『大学の下流化』(NTT出版)等多数。

著者紹介

連載竹内洋×佐藤優対談「大学受験を考える」

大学の問題 問題の大学

大学の問題 問題の大学

竹内 洋 佐藤 優

時事通信出版局

大学で学ぶことの意味、高すぎる授業料、日本の「入学歴社会」の崩壊、迷走する入試、勉強嫌いの大学教員、教育の将来・・・。「大学」は問題だらけです。 1.大学でなぜ学ぶのか(Why) 2.大学で誰が学ぶのか(Who) 3.大…

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