竹内洋×佐藤優対談:新聞社や出版社には「東大生」が必要だ

現在、大学の授業料が高騰化しています。佐藤優氏と竹内洋氏の対談から、日本やアメリカの大学、さらには日本の高校も抱える授業料問題を中心に見ていきます。※本記事は、佐藤優氏と竹内洋氏の対談が掲載された『大学の問題 問題の大学』から一部を抜粋したものです。

高騰する大学の授業料…地方国立大学が生き残る道は?

佐藤優氏
佐藤優氏

佐藤 国公立大学の授業料、年間53万円は高過ぎると思いませんか。私学は100万円を超えているところはざらにあります。

 

竹内 関西大学では、2019年度の法・経済・商・社会学部の場合では、初年次89万円。2年次以後が102万円です。

 

1975年頃までは、国公立大と私立大で授業料が3倍から5倍ぐらいの差があった。だから、結局、地方国立大学を第1志望とする者が多かったですね。

 

日本が世界的に見て変なのは、大衆高等教育を私立大学に任せていることです。アメリカの私学はエリート教育が多いから授業料を高くしても経営できる。大衆教育の部分については、コミュニティ・カレッジがある。日本は、私学は高等教育で大衆教育をしているのに授業料が高いというのは変だよね。

 

ただ、最近はアメリカの大学でも高等教育ならぬ「高騰」教育と言われていて、アイビーリーグでだいたい日本円にして年間500万円くらい。州立大でも州内居住学生で約94万円。州外居住だと約240万円かかる。学生ローンの借り入れも、総額で1兆数千億ドルを超えていて、ローン返済滞納者は3割を超えているそうです。

 

佐藤 日本にはコミュニティ・カレッジの機能を持つ大学やルートがないんですよね。

 

竹内洋氏
竹内洋氏

竹内 短期大学はコミュニティ・カレッジ(ジュニア・カレッジ)がモデルだったけど、アメリカのように4年制への転学を考慮に入れたものではなかったし、専門教育機関としても不徹底で、実際は女子に4年制大学の進学を望まないが、高等教育を受けさせたいという過渡期の高等教育受容の受け皿となりました。家政系と文学系の私立短大が多かったゆえんです。

 

そういう一過的な需要構造に対応したものだったから、短大の衰退は当然だったでしょう。そういう意味では、コミュニティ・カレッジの日本版は、短大衰退の後に現れた専修学校でしょう。政治家もきちんと地方国立大学のことを考えてほしいけれど。

 

佐藤 でも、地方の国立大学を生き残らせる道は、授業料の低さで勝負するしかないと思います。

 

竹内 昔はそうだったですね。最近は「国立大学をなくしてもいい」などと言う文部科学省の元官僚もいます。だけど、国立の方が授業料は安いし、戦後日本において、地方の優秀な人材を受け入れて育成してきたことは確かだと思う。かつては貧しい家庭の子が地方の国立大学に行っていました。しかもみんな優秀だった。

 

佐藤 今だって、地方の教育を支えているのは、地方の教育大学や国立大学教育学部出身の教員ですよね。地方公務員も輩出して、地域を支えているんです。

高校でも授業料が問題に…生活保護家庭の優秀な生徒

佐藤 実は、授業料は大学だけの問題ではなくて、高校でも深刻な事態になっています。埼玉県立浦和高校の入学偏差値は73くらいですが、住民税免除家庭は今、何%ぐらいあると思いますか。それが4%程度いるんです。

 

竹内 4%といったら、クラスに1人か2人ぐらいかな。

 

佐藤 2人ぐらいが住民税免除家庭です。すなわち、生活保護を受けているか、かなり低所得ということです。私は今まで入学偏差値73というような極端な成績優秀者だけを集めた公立進学校は必要ないと思っていました。公立はもっと多様な学力の生徒たちを入れた方がいいのではないかと考えていました。

 

でも、例えば経済的に恵まれない層で生まれた家庭の子が東大、京大、一橋大、東工大などの難関国立大学に上がっていくキャリアパスは、地方の伝統ある高偏差値の公立高校がないと保障されないんです。子どもの貧困や経済格差の問題を考えた時に、地方の高偏差値公立高校は、意外と重要だと改めて思っています。

 

竹内 大阪府でもそういうことがあるかもしれない。今も、北野高校はじめ、公立高校の進学校が多いですから。それと反対なのが、京都府。革新府政が「輪切り選別教育反対」という旗印で、総合選抜制(注)などを取り入れ、公立高校をフラット化した。おかげで進学名門校は私学になった。授業料の安い名門公立高校から難関大学進学という貧困層のキャリアパスは消滅したことになる。革新(左派)が貧困層のキャリアパスを消滅させたわけです。今はその反省からか、公立高校にテコ入れしているようだけど。

 

(注)複数の公立高校で試験を実施し、総定員分の合格者を決めた後、居住地に合わせて各校に生徒を振り分ける方式。1950年、蜷川虎三府知事により京都府で初めて導入された。最盛期には14都府県程度が実施したが、2013年度入試を最後に京都府も廃止した。

ある取り組みで、偏差値を上げた地方公立大

佐藤 沖縄県名護市に名桜大学という公立大があるんです。私も客員教授として関わっている大学で、1994年に公設民営で作られて、一度、定員割れに直面して危機的状況に陥りました。2010年から公立に移管されて、そこから偏差値が上がったんです。今は国立の琉球大学と変わらないくらいになっています。

 

竹内 それはなぜですか。

 

佐藤 かなり丁寧な教育をしていることが挙げられます。入学時点で学生全員の数学と英語の学力検査をしています。学生一人ひとりの足りないところを全部チェックして、チューター(個人指導教師)を付ける。英語と数学は、英語は最低で英検2級を取らせる。準1級に合格する学生もいます。数学は数Ⅲまで完全にできることを目指し、少なくとも数ⅡBまでは完全にできるように底上げする。

 

それからカナダの大学との間で、授業料が追加で必要にならない交換留学制度を作っています。そのほかにも、北米、中南米、アジア諸国の大学と交換留学協定を結んでいて、学生の2割が留学しています。就職状況も良くなってきているので、口コミで名桜大学の良さが広がってきて、沖縄県以外から進学してきた学生が5割ほどいます。

 

そうした取り組みが進むうちに国立の琉球大学の学部と偏差値がほぼ同じになった。東北大学から視察団が来て、学生の学力の底上げがうまくいっているけれど、どのように指導しているのかと尋ねられたことがあったそうです。

 

これはどこからやって来た発想かといえば、先ほども話題になりましたが、私はルーツとして、アメリカのコミュニティ・カレッジがあると思っています。コミュニティ・カレッジにはアメリカ以外からの移民や、さまざまな背景を持った学生が来るので、まず学力をチェックして、チューター制度で底上げする仕組みを作っている。

 

竹内 入り口のハードルを低くして、教育内容を実態に合わせて、実質的に充実させるということですね。ユニバーサル段階の大学の戦略として正しいかもしれません。

 

佐藤 大学院も名桜大学では国際文化研究科と看護学研究科があって、修士課程は各5人程度、博士課程は定員2人にしています。これは博士課程に残る人は、研究・教育職を大学が保証するということです。大学院もキャリアパスをちゃんと考えながら運営している。
名護市や周辺自治体による運営で税金を投入しています。しかし、大学が地域に1校あることによって、そこで若年労働力の雇用確保にもつながっていると見なすこともできます。それから、学生はアパートなどを借りて、生活をするでしょう。それが新陳代謝していく。つまり教育が「地域おこし」のようになっている。だから、すごく面白いんです。

 

竹内 どうして名桜大学で教えるようになったんですか。

 

佐藤 沖縄出身の芥川賞作家・大城立裕さんに、名桜大学の山里勝己学長と会ってほしいと言われまして、そこから縁ができました。

 

竹内 さらなる活性化を考えていますね(笑)。

 

佐藤 そうかもしれません。さらに、多くの大学では、TA(学習指導助手)が形骸化していて「無償奨学金」のようになっているでしょう、でも名桜大学ではチューターが時間給でだいたい800円から900円くらいもらえます。沖縄県の最低賃金は790円(2019年)です。だから、地元アルバイトとしても、それほど遜色はない。大学内でチューターとして学生が活動することで教える力も付くんですよ。

 

そして、そこから教える力の高い学生を選んでTAにする、上級生が下級生に教えていくという仕組みを持っていて、これから非常に伸びていく公立でも有望株の大学だと思っています。1年間の授業料が53万5800円で、場合によっては、年間600万円の授業料が必要となる海外大学に留学できる。これはお得ですよね。私が、講義をしていて、沖縄県外から来ている学生たちの親の職業を聞くと、結構、高校教員が多いんです。

 

竹内 分かっているんだね。

 

佐藤 口コミで広がっているようです。地域的には東北や九州から来ている学生が多い印象があります。おそらく、地元の東北大、九大といった国立大学には残念ながら受からない。私立大学で早慶に行くとか、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政の各大学)に行く経済力があるかといえば厳しい。それが沖縄に来れば53万円ほどで海外留学もできて、授業料さえ親が仕送りできれば、アルバイトはチューターのようなものが先輩からの引き継がれる仕組みもあるから自活できる。

 

しかも、女の子の親にとってすごくいいんです。名護市は狭いでしょう。変な話ですが、女の子がアルバイトに引き込まれがちな風俗産業がない。チューター以外は健全なアルバイトしかなくて、もしお金が必要だからといって不健全なアルバイトで時給2000円ぐらいのところに行って稼ごうと本人が思っても、往復2時間かけて車で行かないといけない。これは経済合理性に反している。だからそういう選択肢は取れない。風紀的に親としても安心というわけです。

 

また、学内には、「ライティングセンター」という組織もあります。ジャーナリズム出身者がアカデミックライティングとしてのフットノート(注釈)の付け方や、主語と述語を対応させたきちんとしたレポートを作ることを徹底的に指導する。そういう仕組みを作った。そうしたら、東京都地方公務員の上級職に合格する学生も出てきました。沖縄の公立大学から、そうした就職先は今まで考えられなかったんです。

 

私も、ジョージ・H・カーの『Okinawa』という、ペーパーバック版でも分厚くて600ページ近くある国際標準の教科書を使って講義をしたんだけれど、みんなついてきました。だから、入学時偏差値はあまり関係ないということが分かりました。きちんと入学時の力を測定して足りないところや欠けているところを埋めていけば、大学を出る時にはすごく実力が上がって出ていける。

 

竹内 授業料は、沖縄出身と沖縄以外出身の学生では変わりますか。

 

佐藤 正確に言うと、沖縄の北部広域市町村圏事務組合(1市11町村)が設立認可申請をしている大学なので、そこの出身者に関しては入学金や初年度納付金が安くなっています。でも4年間で地域内と地域外の差は、12万5000円です。2年次から4年次の授業料は一緒ですね、53万5800円。どうも公立大学は法令上の縛りがあってこの額より授業料を下げられないらしい。国立と同じ額より下にできない。沖縄出身だったら、授業料は年間12万円ぐらいにしたらいいですよ。

 

竹内 文科省は、競争をしていろいろなタイプの大学が出てきたらいいと言いながら、実際は選択肢を狭めているんですね。教育改革にありがちな理念と実際の脱連結(ディカップリング)ですよ。

地方名門校が消え、東大が頂点のヒエラルキーに

竹内 歴史的に見ると、専門学校にも、名門校がいっぱいありましたよね。例えば、彦根高等商業学校や、詩人で思想家の吉本隆明が行っていた米沢高等工業学校などは、プライドを持って、良い教育をしていた。

 

佐藤 地方においても、自前のエリートを育成できる仕組みが整っていたんですよね。

 

竹内 だから、今のような、東大を頂点とした発想で大学を見るのは、戦後的な見方ではないですかね。学校の先生になるんやったら、東大ではなくて高等師範に行くとかね、そういう道もあって、そこから校長にもなれたわけだから。

 

佐藤 東大を頂点としたヒエラルキーは、確かにあるように見えるんだけれども、現在において東大の優位性が発揮される職業は実際は二つしかないと思うんです。すなわち、それは官僚と大学教員。それ以外に関しては、東大に特段の優位性はないでしょう。

 

なぜ官僚かといえば簡単な話で、東大教授もしくは元東大教授の試験委員が多いからです。加えて、東大生で受ける人が多いから周りの雰囲気に流されて受験する。

 

竹内 能力があって、志のある人が、官僚や政治家になってほしいよね。それから、言論界やったら新聞社とか出版社。朝日新聞は一時期、東大から誰も入らなかったことがあったといいますね。凋落しているとはいえ新聞や出版メディアは社会にとって重要な場でしょう。そういうところに、すべての東大生が優秀かどうかは別として、能力と意欲がある人が行かなくなる兆候だとしたら憂うべきことでしょう。

 

佐藤 それはその通りだと思います。あんまり変な人ばっかりということになると、本当に大変ですからね。

研究職はコスパが悪い?

竹内 大学の研究職も、魅力という点で危ないんですよ。今やったら、どんなに早くても35歳ぐらいから就職でしょう。65歳が大学教員の定年。となると、定収入が得られるのは、30年間だけではないですか。職業として割に合わないんですよ。

 

佐藤 研究者として30年間できるというのは、多分、東大、京大といった優位性のある大学だけだと思うんです。同志社や早稲田などの私大からだと、まず、博士号を取って、学術振興会の特別研究員になって、就活が始まり出す。それで、42歳までが専任の募集のだいたい限界でしょう。それで、今は多くが任期制ですよね。だから、就職するのはたぶん40歳前後ですよ。

 

40歳でやっと専任教員として活躍できる足場ができて、役職に就ける可能性があるのは、執行部に入らない限り60歳までですからね。そうなると大学で中心的に活動できるのは20年の世界ですよ。

 

竹内 年金から考えても厳しいね。勤務先が国立、公立、私立と頻繁に変わると、退職金も細切れで損をする。

 

佐藤 そう思います。だから、初期投資に比べてリターンが異常に少ない。私が教えている学生に研究職は勧めていません。今、神学部で面倒を見ている学生が7人いるんです。いずれも研究職に就ける能力があるんです。でも全員に研究職以外の就職を勧めています。

 

代わりに出版社の編集者や新聞記者を勧めています。さらに私が学生に勧めているのは、地方公務員の上級職員試験に合格する学力を付けることです。コスパがいい。受験準備にそんなに時間がかからない。それと、民間企業の試験とほとんど重なっていて、地方公務員試験の教養の問題集は、理系・文系全体含めて、大学卒の人間の教養として必要なものがだいたい盛り込まれている。だから、無駄が少ない試験なんです。

 

例えば地方公務員になるとします。国際舞台で活躍したいんだったら、修士号まで取って地方公務員を5年ぐらい務める。そうしたら、国連、WHO(世界保健機関)、ユニセフ(国連児童基金)などの国際公務員になれます。

 

竹内 それに地方は物価が安いこともあります。

 

佐藤 そうです。

 

京都大学 名誉教授
関西大学 名誉教授
関西大学 東京センター長

1942年生まれ。京都大学教育学部卒業後、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。教育学博士。関西大学社会学部教授を務めた後、京都大学へ移り、教育学部教授・大学院教授・研究科長・教育学部長を歴任。2005年4月に関西大学教授に再任、人間健康学部長を経て現職。日本教育社会学会会長、読売新聞読書委員、中央教育審議会大学教育部会専門委員、日本学術振興会特別研究委員等審査委員会委員などを歴任。著書に、『革新幻想の戦後史』(中央公論新社)、『メディアと知識人』(中央公論新社)、『大学の下流化』(NTT出版)等多数。

著者紹介

作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授(学長特別顧問、東京担当)

1960年東京都生まれ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論を学ぶ。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局主任分析官(課長補佐級)。2002年鈴木宗男事件に絡む疑惑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2013年執行猶予期間満了。刑の言い渡しが効力を失う。時事通信社からは『日本でテロが起きる日』『一触即発の世界』を刊行。

著者紹介

連載竹内洋×佐藤優対談「大学受験を考える」

大学の問題 問題の大学

大学の問題 問題の大学

竹内 洋 佐藤 優

時事通信出版局

大学で学ぶことの意味、高すぎる授業料、日本の「入学歴社会」の崩壊、迷走する入試、勉強嫌いの大学教員、教育の将来・・・。「大学」は問題だらけです。 1.大学でなぜ学ぶのか(Why) 2.大学で誰が学ぶのか(Who) 3.大…

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