経営者が「ゆでガエル呼ばわりされる」中小企業にも未来はある

中小企業の人手不足が深刻化しています。2018年上半期における「人手不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。生き残りの手段として、「事業承継」への注目も高まっていますが、依然として、問題点に気づいていない経営者が多いのです。そこで本記事では、『引き継いだ赤字企業を 別会社を使って再生する方法』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、中小企業経営者の問題点について解説します。

経営者は「しがらみ」にとらわれて再生の手を打てない

一般論として、中小企業では現経営者に早期に再生へ取り組むことを期待するのは難しいといわざるを得ません。しかも、仮に現経営者が早期に再生に取り組んだとしても、現経営者であるがゆえに、かえって再生の作業が思うように進まないということもあり得ます。

 

まず、経営の立て直しを必要としている中小企業は自社の内外に様々なしがらみを抱えています。例えば、社内に複数の部門がある場合、それらがみな全く相互に連携がとれていないまま、バラバラに動いており、会社全体としては非効率的でムダの多い経営状況となっていることがあります。

 

本来であれば、事業を立て直すためには、組織改革を断行し、このような部門、部門の間にある壁を取り除き風通しをよくして、経営の効率性を高めていかなければならないはずです。

 

しかし、長年勤めていた従業員が部門の長となっている場合には、現経営者が遠慮して改革に着手できないことも珍しくありません。また、対外的な面では、大企業の下請けとなっているようなメーカーの場合、元請けとの力関係から、納入価格が納入先の言いなりになっていることが多々あります。そして、そのことが慢性的な赤字の原因となっているケースもしばしば見られます。

 

当然のことながら、事業を再生するうえで求められる恒常的な赤字の解消のためには、納入価格の引き上げを図ることも必要となるでしょう。ところが、経営者の中には、長年元請けに対して消極的な姿勢を示してきたために、どうしても値段交渉を持ちかけることができないという人もいるのです。このように現経営者が社内や社外のしがらみ、あるいは従来の慣習などにがんじがらめになっているままでは、たとえ事業再生の必要性に気付くことができたとしても、それを現実に行うことは困難になるでしょう。

過去の「成功体験」に縛られている現経営者たち

そのうえ、現経営者は、社内外のしがらみだけでなく、一般に、自身の成功体験にもしばられてしまっています。現経営者、とりわけ創業者は、多くの場合、自らの才覚と努力、創意工夫によって会社を大きく育ててきたという自負心をもっています。

 

そのため、誰よりも会社や業界のことを知っており、また経営に対する判断も的確に下せると信じています。しかし、企業が経営危機に陥っているような場面では、マーケットや社会環境、産業構造など外部環境が大きく変化していることが少なくありません。

 

とりわけ、今の時代は、グローバル化の進展により、そうした外部環境の変化はかつてないほど急速かつ急激なものとなっています。事業を再生する際には、多くの場合、そのような時代の変化に応じた構造的な改革を実施することが不可欠となります。

 

そのためには、未来を見据えた旧習にとらわれない積極的な経営スタンスが求められるでしょう。しかし、自身の成功体験(=過去)を判断のよりどころにしがちな現経営者には、そのような未来志向の姿勢が期待できないかもしれません。

リスケに頼りすぎて「ゆでガエル」になる現経営者たち

このように、過去のしがらみや成功体験のために身動きがとれなくなり、抜本的な改革を行えない現経営者には、せいぜいリスケジュール(リスケ)、すなわち債務返済の繰り延べを債権者に求める程度のことしかできないでしょう。しかし、リスケは、たとえ認められたとしても、結局のところその場しのぎの手段であり、問題の先送りでしかありません。そしてリスケの結果、経営者には、「お願いすれば何とかなる」という甘えがもたらされることになります。

 

問題を先送りにする中で、甘えが生じ、危機意識、緊張感を失った経営者は、次第に〝ゆでガエル〞の状態に陥っていきます。もし、カエルがいきなり沸騰したお湯に飛び込めば、あまりの熱さにギャーッとすぐに飛び出てしまうでしょう。

 

しかし、ぬるいお湯にひたっていると、火がどんどん燃やされ沸騰しているにもかかわらず、感覚が麻痺しているので、逃げることなくそのままつかり続けてしまいます。そして最後には、ゆであがって、腹を上に向けてひっくりかえってしまいます。このゆでガエルのように、多くの中小企業の経営者たちは、リスケを繰り返す中で次第に感覚が麻痺していきます。

 

リスケというぬるま湯状態の中で、何とかなるだろうと思っているうちに、いつの間にかぐらぐらと沸騰していた、にっちもさっちもいかない状態になっていた――そのことにようやく最後になって気付く経営者もいれば、気付かないままの経営者もいるでしょう。気付くにせよ、気付かぬままにせよ、そうなってしまったらもはや手遅れです。あとは、間近に迫ったXデーの日を、すなわち倒産の日をただ待つしかありません。

本格的な再生を行うためには銀行とのタフな交渉が必要

なお、リスケのようなその場しのぎの方法に頼るのではなく、本腰を入れて企業の再生に取り組むためには銀行をはじめとした債権者との間で非常にタフで骨の折れる交渉が必要となります。

 

現経営者は、成功していた時代、自社の業績がよかった時代には、銀行や取引先の担当者とゴルフをしたり、楽しく酒を酌み交わしていたこともあるはずです。「社長、社長」とおだてられ、下にもおかぬもてなしを受けていた人もいるでしょう。

 

それが一転して、ペコペコと頭を下げなければならない、相手の表情をしかめっ面にするかもしれないようなお願いごとをしなければならない立場になるのです。交渉の過程では、時には罵声を浴びせられることもあるかもしれません。そこまでいかずとも、冷淡な扱いを受けることはまず避けられません。

 

現経営者の多くは60歳を超えています。70歳になっている人、もしかしたら80歳を過ぎている人もいるでしょう。そんな高齢の経営者が、心身に多大なストレスがかかることが間違いのないこのような過酷な交渉を果たして行うことができるのでしょうか。

事業の再生は実質的なトップにしかできない仕事

以上のように、現経営者のもとで事業再生を試みること、さらには成功へと導くことは決して容易なことではありません。それどころか、現経営者が高齢者の場合には、着手したとしてもそれを最後まで行えるかわかりません。では、現経営者でなければ、誰が会社の立て直しに取り組むべきなのでしょうか。

 

それは、やはり現経営者の後継者以外には考えられません。

 

そもそも、経営の立て直しは、会社にとって最も大きな、これ以上はない切迫した問題のはずです。それに挑む者は、文字通りすべてを捨てて取り組むだけの覚悟が必要となるでしょう。たとえ幹部クラスの人材であったとしても、従業員にそのような覚悟を期待することはできません。

 

それだけの強い気持ちを、自分の身を投げ出してでも会社を救ってみせるという意志をもつことができるのは、実質的なトップである後継者以外にはいないはずです。また、金融機関をはじめとした債権者との交渉は、トップにしかできません。幹部クラスの従業員であっても、銀行は交渉相手として認めてくれないでしょう。

後継者が立ち上がれば支援が期待できる

しかも、このように後継者が現経営者に代わり、事業再生に取り組むことによって、それまでは難しかった経営の立て直しが大きく進むことが期待できます。

 

後継者であれば、ここまで見てきたような現経営者の抱える問題点、すなわち、従来のしがらみにとらわれている、成功体験に縛られている、ぬるま湯(リスケ)の中にあって危機意識を失っているといった、事業の再生を成し遂げるうえで明らかに障害となる数々の難点を免れているからです。

 

だからこそ、今までできなかった新たな試み――「新たな販路開拓・取引先拡大」「新商品開発」「赤字部門からの撤退等、業態見直し」「異業種への参入」などにも、大胆に取り組むことができるわけです。

 

また、会社を取り巻くステークホルダー(利害関係者)たちも、現経営者が経営立て直しを試みる場合に比べて、後継者が事業再生に取り組むことを歓迎するはずです。そもそも現経営者は、会社を経営危機に陥らせた当事者です。金融機関をはじめとした債権者や取引相手、さらには従業員など多くのステークホルダーに、債務や取引代金の未払い、給与の遅延などの〝被害〞をもたらしている〝加害者〞です。

 

事業を再建していくうえでは、これらのステークホルダーの協力が不可欠となりますが、おそらく、その多くは被害の元凶である現経営者にすんなりと協力しようという気持ちにはなれないでしょう。

 

一方で、後継者であれば、そうしたわだかまりはないはずです。むしろ、日本人一般の感覚からすれば、「失敗に負けず、会社を復活させようとしている。何と立派なことか、応援してやろうではないか」という気持ちになるでしょう。後継者が再生に前向きに取り組めば、こうしたステークホルダーの積極的なサポートも望めるのです。

株式会社スペース 代表取締役兼CEO

1954年東京都生まれ。三井不動産販売退職後、祖父が大正12年に中野で創業した「山一不動産」の3代目に就任。バブル崩壊とともに300億円の負債を背負いながら、事業再生に奔走する。1996年「スペース」を創設し、「山一不動産」の営業権譲渡を行うことで、先代からの基盤を守り、社員を切り捨てることなく事業再生させた。現在はこの時の自身の経験を元に、同じような悩みを抱える中小企業経営者の相談に乗り、専門家チームのメンバーとして、ボランティアでアドバイザーも務めている。中野区観光協会準備会メンバー。一般社団法人中野区観光協会監事。

著者紹介

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高山 義章

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