誰しもが考えなくてはならない、相続問題。大切な遺産の受け継ぎが「争続」にならないよう、事前に知識をつけておくことが大切です。本連載は、円満相続を応援する税理士の会の著書、『ゼロからわかる相続と税金対策入門』(あさ出版)より一部を抜粋し、改正相続法に対応した相続対策をご紹介します。

法的に無効となりにくい遺言書を作成するには?

遺言書のなかでも自筆証書遺言は、遺言者本人が字を書ける状態で、自分で押印できる状況であれば、いつでも、どこでも作成できるという手軽さがあります。

 

しかし、法的に有効な遺言書かは別の話で、無効にならないためにはさまざまな注意点があります。そこで、法的に無効となりにくい遺言書を作成する手だてが必要となります。それが、公正証書遺言です。

 

公正証書遺言は、次のような自筆証書遺言の欠点を十分に補ってくれる遺言です。

 

・本当に故人本人の意思にもとづく遺言なのかを確かめようがない

・相続が発生した時点では遺言書が見つからなかった

・先に遺言書を見つけた人が、内容を改ざんしてしまった

 

公正証書遺言は、本人が遺言の内容を公証人に伝え、それを遺言書という書面にします。その作成時には、公証人に加えて2人の証人が同席します。これらの人には守秘義務があり、遺言書の内容が外部に漏れることはありません。

 

このように作成された遺言書の原本は、公証役場にて保管されます。もちろん本人の意思で作成したことは、公証人が保証してくれます。

 

自筆証書遺言と比べると、作成に関して一定の費用はかかりますが、相続発生時までの保管が確実であり、偽造の心配もなく、より確実に故人の最終意思を伝えられる遺言書といえます。さらに家庭裁判所の検認手続きが不要のため、すぐに相続手続きを開始できるというメリットもあります。

 

ただし、自筆証書遺言のように本人が自由に書き換えたり、破って捨てたりといったことはできません。その場合は新たに公正証書遺言を作成し直すか、遺言の撤回をすることになります。

 

なお、公正証書遺言を作成する際には、相続時にトラブルが起きづらいような記述で作成できるように公証人がアドバイスをしてくれることもあります。そのアドバイスというのは、「内容をこう変更したほうがいい」というものではなく、あくまでも「その内容であれば、こういう記述にしたほうがいい」というアドバイスです。

相続発生時まで一切秘密にしたいなら「秘密証書遺言」

秘密証書遺言は相続発生時まで内容を秘密にできる遺言です。公正証書遺言の作成時には、公証人に加えて2人の証人が同席することになりますが、なかには、遺言書については相続発生時まで一切秘密にしたいという人もいます。そのような人が書く遺言書が、秘密証書遺言です。

 

秘密証書遺言は、内容そのものを遺言者本人が書き、その封印も本人が行います。

 

そのデメリットは、遺言書の内容を公証人も把握していないので、公証人からアドバイスを受けることができないことです。そのため、記入モレなどによる不備がないように注意しなくてはいけません。

 

記入モレなど不備がないように…
記入モレなど不備がないように…

 

なお、自筆証書遺言と異なり、パソコンで作成することや他の人に代筆してもらうことも可能となっていますが、署名・押印は遺言者本人が行う必要があります。また保管は本人が行うことになり、開封にあたっては、家庭裁判所の検認手続きが必要です。

 

[図表1]3つの遺言書のメリット・デメリット

遺言書で忘れがちな「日付」の記載や「押印」

遺言書の不備は、遺産分割時のトラブルや争族の原因となることが少なくありません。とくに自筆証書遺言では不備に注意したいものです。せっかく作成した遺言書が無効になってしまうことがないように、形式や内容には細心の注意を払いましょう。

 

自筆証書遺言の場合に注意しなければならないのは、法律で定められた形式に沿って作成できているかどうかです。

 

遺言者自身が作成することが大前提ですが、前述のように、「遺言書であることを明確に示しているか」「誰に、どの財産を、どの程度渡すかについて正確に記載すること」にも留意します。

 

練りに練って作成した遺言書でも、表題が「親愛なる家族へ」など遺言書とは判別できかねる表題だと、相続人はどう取り扱ってよいか意見が分かれる可能性があります。「長女に自宅を、長男に別荘を、現金預金は二女に」と書いてあるだけでも同様です。形式上の不備や内容に不備があれば、法的な効力を得られません。

 

前述のとおり、遺言書で忘れがちなのは日付を書くことや押印することです。なお、加入・削除・訂正も厳格なルールに従ったものでないと変更がなされなかったものとして扱われますので、注意が必要です。

 

また、不動産の表記も要注意ポイントです。不動産の場所を示すものには、一般的に使われている住居表示と、不動産登記簿に記されている地番の2種類があります。遺言書は、相続登記(不動産の名義変更)の添付書類としても使用しますが、不動産登記簿上の正式な地番が使われていないと、相続登記の際に使用できないという問題が起こり得ます。

 

日常生活で使うのは住居表示ですが、不動産の権利証や固定資産税の納税通知書などでは、正式な地番が記されています。どちらも同じ場所ですが、不動産を特定する場合には地番が利用されますので、遺言書上でも必ず地番を調べて記入する必要があります。

 

自筆証書遺言でチェックしておくべきポイントを次の[図表2]にまとめていますので参考にしてください。故人の遺言書を相続人が確認する場合も、これらの事項をチェックし、法的に効力のある遺言書と確認できれば、安心して相続手続きが行えるはずです。

 

[図表2]自筆証書遺言でチェックしておきたい主なポイント

 

遺言書に記載のある財産については、遺言書で指定されたとおりに相続します。ところが、遺言書に記載されていない財産が見つかった場合は、どうしたらよいでしょうか。その場合、その遺言書そのものが無効になるわけではなく、記載されていない財産の分け方を遺産分割協議で決めます。

 

記載モレのあった財産があると、そこで相続人同士の考え方の違いなどによりトラブルが生じることもあり得ます。

 

そのようなトラブルを避けるために、遺言者は、「遺言書に記載されていない財産については、配偶者に相続させる」といった一文を入れておくとよいでしょう。こうした一文を加えておけば、財産を網羅できていない場合の無用な争いを避ける効果があります。

 

【円満相続を応援する税理士の会】
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