不必要な争いを避けるために「メモ」が有効なワケ
相続税にかかわらず、節税対策には事前の準備に十分な時間が必要です。相続税の節税のために、土地や家屋などの不動産を活かしたり、生前贈与を行ったりするなら、それこそ年単位での事前準備が有効となってきます。
よく節税の方策として話題にのぼる小規模宅地等の特例の活用も、知識としては理解していても、実際にすぐ実行できるものではありません。
そもそも遺産分割協議の段階で揉めているようでは、各相続人が納得するかたちで相続税額を確定させることはむずかしいことが予想されます。ましてや、申告・納付の期限が迫ってくるなかでは、付け焼き刃的な節税策すら打てなくなってしまいます。
そうならないためにも、生前から、相続が発生したあとのことについて家族で話し合っておきたいものです。そうすれば、時間にゆとりを持って遺産分割協議と、相続手続きを進めることができますし、生前に話し合っておくことで、財産を残す本人も、自分の気持ちなどをあらかじめ家族に伝えることができます。また、財産を承継する側がいまの生活状況や自分の要望などを伝えておくこともできます。
相続において揉めごとが起こる要因としては、単純に相続人の欲が先行してしまうことが挙げられますが、実はそれよりも相続人間の誤解や疑心暗鬼が〝争族〟を招いてしまうことのほうが多いといえます。そのような争いの芽を、故人の生前の話し合いにより摘んでおくことで、不必要な争いが起こらないようにすべきでしょう。
生前の話し合いの際に、その内容をメモなどに残しておくことも有用です。そうすれば、そのメモに法的な効果があるかどうかは別にして、いざ相続となったときに意見が食い違っても、「話し合いではこういう結論だったよね」と説得のための一材料として示すこともできます。そして何より、生前の話し合いを経て自分の意向や相続人への希望を踏まえた内容の遺言書を作成しておくのが、不必要な争いを起こさないために最も有効な手段といえます。
遺産分割には3つの種類・方法がある
相続が発生すると、その瞬間に、故人の財産は法定相続人の間で共有された状態になります。この遺産分割前における共有状態を「遺産共有」といいます。遺産分割という手続きは、この遺産共有という状態を解消し、財産をそれぞれの相続人に具体的に承継させることです。また、そのためには、相続人全員で遺産分割協議を成立させることが必要です。
もちろん故人の財産を遺産共有のままとしておくことも可能です。しかし、遺産共有の状態のままとしておくと、遺産共有している相続人が亡くなった場合にその相続人が遺産共有者となり、遺産分割協議の当事者となります。つまり、何世代も遺産を共有状態のままにしておくと、相続人の数が増えることになり、相続関係を複雑にし、遺産分割協議の成立を困難にしてしまいます。ですから、相続が発生したときは早めに遺産分割協議を成立させ、遺産共有状態を解消しておくことが賢明な行為だといえるでしょう。
遺産分割には次のように3つの種類・方法があります。どれか1つを選択したら、他の方法は選択できないといった類のものではありません。また、争いのない遺産を先行して分割することもできますので、3つをうまく組み合わせながら、相続人全員が納得できる分割内容にしていくことが重要なポイントともいえるでしょう。
①そのまま現物で分割する「現物分割」
現物分割は相続する財産を、性質や形状を変えずにそのまま分割する方法です。現金の分割はこの方法が最適です。しかし、現金以外の場合には、公平に分割することがむずかしいケースもあります。もっとも、不動産の相続の場合には分筆(登記簿上で一筆の土地を分割すること)によって分割しやすくできます。また、「家は配偶者、自動車は長男、銀行預金は長女」など金額に換算したときに公平感があるように現物をそのまま分配するという分割の方法もあります。
②お金に換えて分割する「換価分割」
換価分割は、相続する故人の財産を売却し、その売却額を分け合うという方法です。これは不動産を分割する際によく行われます。
デメリットは、早急に売却ができるメドを立てなくてはならない点です。売却することがなかなかむずかしい財産では、不向きな分割方法といえます。
また、売却の時期によっては財産の価値が目減りし、想定していたより低い金額になってしまうケースもあります。そのほか、売却した際の売却益に所得税が課され、また、売却額からは一定の費用控除がされて資産価値が目減りする点もデメリットといえます。
③財産を相続した相続人が他の相続人に金銭などを渡す「代償分割」
代償分割は、相続の際に他の相続人よりも多くの財産を相続した相続人が、他の相続人に金銭などを渡すことで、相続人間の公平を図ろうという分割方法です。
たとえば、不動産を1人の相続人が取得し、他の相続人には公平になるようにお金を渡す方法が一般的です。引き続き不動産を利用したい場合のほか、売却による資産価値の目減りを避けたい場合に適した方法といえます。
なお、代償分割は、財産を多く相続する人(代償する相続人)に、代償できるだけの支払い能力がないと、実際には選択することがむずかしいといえます。
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