※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2019年9月4日に公開されたものです。

公的年金財政検証が公表。たぶん不安ばかりがよぎるでしょうが実は違う

公的年金は5年に一度財政検証を行うことになっています。5年に一度チェックを行い、必要に応じて軌道修正をすることで、公的年金の財政が健全に維持されるようチェックする仕組みです。

 

5年前の2014年には6月に公表されていたものが、今年は(おそらく)選挙の影響もあって、公表が8月下旬にずれこみました。早速、新聞報道になっていますし、これからしばらくはテレビや雑誌がこれをネタにすることでしょう。

 

今のところ見ていると、「財政の不安がある」というような切り口がすでに見られます。実は、前回の財政再計算より最悪のシナリオでも年金財政は好転する試算となっています。というのも少子化問題に一定の歯止めがかかり、高齢者や女性の雇用の進展は進み、この5年間の国内経済については、基本的にいい方向で推移したからです。

 

しかし、「20%下がる」というような、不安を煽(あお)るような文字がニュースで使われるのは、相変わらずだなあと思います。実はこれも10年以上前から決まっていたマクロ経済スライドの影響が示されているだけだからです。

 

SNS(交流サイト)などの反応を見ていると、公的年金についてはやはり誤解が多いように思います。きちんと解説してくれる人が少ないこともまた、不安を減少できなかった理由の一つです。

 

公的年金の基礎的な理解は、「老後に2,000万円」のような老後資産形成を考える前提ですし、適切なリスクを取るためにも必要だと思います。

 

今回は、ここで公的年金について「これだけは知っておきたい最低限の知識」をまとめてみたいと思います。

公的年金、つぶれはしないが減るは減る

公的年金の破たんはまずありません。一時期の雑誌やテレビの「年金破たん論」は現実的にはウソでした。それを証拠に当時、破たん論を述べていた経済学者のほとんどが今では口をつぐみ、年金破たんに関するコメントをしていません。

 

そもそも論で言えば、社会保障制度は国が存続する限り維持されます。それは国の生存権の保障にもつながる話であって、そんなに簡単に破たんしません。

 

現実の公的年金制度は、マクロ経済スライドなどの政策を織り込み済みで、これは少子化や長寿化を考慮済みということです。簡単に言えば、長期的に制度全体の収入(保険料)と支出(年金給付)のバランスを取る仕組みがあるので、破たんすることのほうが難しいくらいです。

 

もちろん「減るは減る」ということは間違いありません。マクロ経済スライドを実施することにより「毎月」の給付水準は20%程度下がるとしています。しかし、70歳まで働ける世の中になって年金を繰り下げて増額してもらったり(70歳からもらえば42%アップ)、長寿化により今の年金受給者より4~5年長く受け取ることができれば(男性65歳の平均余命が19年から25年に伸びれば31.5%アップ)、こうした給付減も取り戻すことも不可能ではありません。

公的年金は何十年長生きしてももらえるところが「得」と考える

公的年金は社会保障制度の一つです。基本的には働いて十分な所得を得る力が弱まってきた高齢者の所得減少をカバーするためのものです。

 

しかし、これを「払った保険料をもらえるか」という損得ばかりで議論するから誤解がたくさん生まれてしまいました。

 

そもそも、長生きされなかった方と、人より長生きされた方との間には男女も世代も関係なく「損得」は生じています。それは団塊世代やそれ以上の年代でも同様です。

 

例えば60歳代後半から70歳代前半で亡くなった場合、基本的には「損」です。平均寿命よりもずっと長く長生きし、90歳代を超えて100歳まで年金をもらった人は何年生まれの世代であっても全員が「得」でしょう。

 

これをもし「本人の払った保険料分、年金をもらったらそこで打ち止め」としたら、むしろ不安な制度になってしまいます。年金というのは保険的なものであり、何年長生きできるかは分からないという老後の不確定さを社会全体で支え合うシステムなのです(ちなみに、公的年金の保険料率や給付については男女差別がありません。ということは平均寿命の長い女性のほうが、相対的に年金で得する可能性も高いことになります。不健康な生活を送っている人は、平均より長生きするよう、自らの生活改善をすることが一番の「年金で得する方法」かもしれません)。

たくさん稼いでたくさん払う人ほどたくさん年金がもらえる

「国の年金をたくさんもらう方法はない」と多くの人が思っています。「どうせ、自分はもらえないんでしょう?」と。

 

しかし、たくさん年金をもらう方法は実はあります。実は厚生年金について言えば、むしろ個人個人の年金制度との関わり具合が、年金額を大きく変える仕組みだからです。

 

厚生年金額は、大きく3つの数字の積み重ねによって決まります。

 

1:給与(ボーナスも)に応じて保険料を納付した履歴

2:保険料を納付した期間(年数)

3:生年月日によって変わる乗率

 

それでは、いくつかの簡単なモデルで説明してみましょう。

 

モデルa

 

同じ年度に生まれ、同じ年数を働いた二人がいたとします。

 

Aさんは「平均賃金20万円」で、Bさんが「平均賃金40万円」だったとしたら、年金額は2倍の差がつきます。「年金額に2倍差がつく」というと意外な感じがしますが、「保険料を2倍払ったので、年金額も2倍になる」わけです。

 

モデルb

 

同じ年齢のCさんとDさんの二人がいます。どちらも平均賃金が同水準で、「厚生年金に20年加入し、その後フリーランス(国民年金のみ)」のCさんと、「厚生年金に40年加入」したDさんでは、やはり厚生年金額が2倍相当の年金額の差となってきます。

 

また、パートやバイトなどで厚生年金を納めていなかった人はさらに差がつきます。厚生年金保険料が高くなるからと年収を抑えて働いていると、実は厚生年金をもらう権利がないことになるからです。

 

現状でモデル年金を見ると、満額の国民年金(老齢基礎年金)は77.9万円ですが、これに厚生年金を加えると187.6万円に増えます。この「年収100万円の差」が、ずっと老後にわたって続くわけです。

 

あなたが年金を多くもらいたければ「長く働き」「たくさん稼いでたくさん保険料を納める」ことがカギなのです。

公的年金をベースに自助努力の老後資産形成は考えることが大事

上記のモデル年金額を見れば分かるとおり、老齢基礎年金額だけでは老後は暮らしていけません。夫が働き、妻は専業主婦の場合のように「夫婦で基礎年金二つ+厚生年金一つ(年265.5万円)」は欲しいところですし、できれば共働きをして、厚生年金も二つもらいたいところです(年375.2万円)。

 

ここでいう数字は標準的な厚生年金額ですから、人より稼いで、人より多く保険料を納めた人は厚生年金額も高めになります。しっかり仕事をすることは、税金も年金保険料も引かれますが、究極的には老後の経済的余裕を作ることになるのです。

 

そして、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の口座を開設して自助努力をしたり、退職金・企業年金をもらえば、かなり余裕が生まれる老後となります。iDeCoやつみたてNISAを始めることがきっかけで、老後のための計画を現実的に考えることができるでしょう。

 

また、ライフスタイルによっては自助努力の重要性はより高まります。

 

たとえば「おひとりさまで基礎年金一つ+厚生年金一つ(年187.6万円)」の場合、真剣に老後資産形成を考えておいたほうがいいことが分かります。これは年金制度の問題ではありません。おひとりさまで暮らすということは「ひとり分の年金」で老後を過ごすということだからです。

 

独身の正社員の場合、40~50代で散財していることがありますが、ライフスタイルを改善して、ガッツリ老後のために資産形成をしておくことをオススメします。

 

以前、退職金・企業年金を知らずに「老後に2,000万円」を考えるのはおかしいとコラムを書きましたが、公的年金がどれくらいになるのかを知らないのもまたナンセンスです。

 

財政検証のニュースを見ていると、「そもそも知っておきたい年金知識」がブレていることで、不要な不安になっているように思います。

 

知識不足で不安だけ抱えている人ほど、あやしい金融商品にだまされて最悪の場合お金を増やすどころかなくすことになってしまいます。

 

皆さんは投資を行い、将来の経済的余裕を作っていくにあたって、ぜひ公的年金について「適切な理解」をもっていただければと思います。

 

 

山崎 俊輔

フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2019年9月4日に公開されたものです。

 

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