外国語への関心は向上も、外国語に不自由な日本
若者の「内向き」志向が指摘されるようになり久しい。はたして、実態はどうなのか? 海外留学の数など、データから紐解いてみよう。
独立行政法人日本学生支援機構が実施している「協定等に基づく日本人学生留学状況調査」 によると、大学等が把握している日本人学生の海外留学状況は、2017(平成 29)年度で105,301人。対前年度比で8,448人増となっている。同調査では、2009年36302人、2013年69,869人と、留学生数は毎年増加という結果だ。
一方、OECD(経済協力開発機構)「Education at a Glance」およびユネスコの統計では、2004年の82,945人のピークに2011年まで減少傾向にあった(図表1)。この結果が、「若者の内向き」報道の根拠となっている。しかし、この調査は2012 年統計までは、外国人学生(受入れ国の国籍を持たない学生)が対象だったが、2013 年統計より、高等教育機関 に在籍する外国人留学生(勉学を目的として前居住国・出身国から他の国に移り住んだ学生)が対象となったため、 過去の統計との比較はできない。
このように見ていくと、「日本の若者」は内向き志向どころか、海外への関心は高まり続けている、というのが現状に近いといえる。また日本学生支援機構の調査によると、語学研修が全体の約7割を占め、語学習得への興味・関心の高さがうかがえる。
一方で、日本では外国人観光客が急増しているが、多くの外国人が日本滞在で困ったこととして「コミュニケーション」をあげている(図表2)。外国から見ると、日本はまだまだ、言葉に不自由な国なのである。
日本の英語力は急落!? 世界的地位も相対的に低下
語学留学への関心が高まるなか、日本の英語力はあがっている――。そう思いたいところだが、近年、急落しているという報告がされている。
世界116ヶ国で外国語学習や留学などを手がけるEF社発表している「EF英語能力指数」を見てみよう。このランキングが開始された2011年、トップはノルウェーで、北欧を中心としたヨーロッパ諸国が上位を独占していた(図表3)。アジア諸国で最もランキングが高かったのがマレーシアで9位。日本は44カ国中、14位だった。
最新の調査である2019年(図表4)では、トップはオランダで、やはり北欧を中心としたヨーロッパ諸国が上位を占めている。アジア勢のトップはシンガポール、そしてマレーシアと続く。日本は53位にランクインした。
参加国は2011年で44カ国、2019年で100カ国と大幅に増えていることから、順位が下がったことはそれほど問題ではない。むしろ、2011年は「標準的な英語力」と評価されていたのに対し、2019年は「低い英語力」と評価を下げたことが問題だ。ちなみにこのランキングの「低い英語力」とは、「観光客として英語を話す国を旅することができる」「同僚とちょっとした会話ができる」などというレベルである。
また「EF EPI スコア」に注目してみても、韓国、中国、台湾と、近隣諸国は上昇しているのに対し、日本だけが下落しているのである。
もちろん、この調査に関してはテストに参加する人は限られているため、結果だけで日本人の英語力が低下しているとはいえない。しかし同調査で「企業にとって、英語は国際化した市場で競争力を維持し、イノベーションを促進するための重要な要素」としているように、相対的に日本の地位低下が言われているなか、同調査結果には危機感を覚える。
日本の地位低下は、1人当たりのGDPを見ても明らか(図表5)である。2011年と2018年を比較すると、中国の170%増を筆頭に、アジア各国が軒並み増え、日本だけが減少している。日本の低い経済成長率、低いインフレ率が、相対的な地位低下の要因となっている。国際競争力に直結する英語力向上なくして、日本の地位向上は望めないのではないだろうか。
小学校の英語教育が、日本を救う⁉
英語力向上が命題であることは、古くから言われてきた。平成15年の 「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(文部科学省)では、急速にグローバル化が進行するなか、「絶えず国際社会を生きるという広い視野とともに、国際的な理解と協調が不可欠」とし、平成18年の 「教育課程部会審議経過報告」(文部科学省)では、学校教育において国家戦略として取り組むべき課題として、外国語教育をあげている。
また英語の重要性は世界認識であり、 2004年のAPEC教育大臣会合共同宣言では「英語及び他の外国語の学習の重要性は、伝統的な意味での生徒に限らず、それを労働者、中小企業家、女性、不利な立場にある人々がグローバル化した世界とうまく交流できるように拡大することである」としている。
そのようななか日本では学習指導要領が見直され、2020年から小学校で英語教育が本格導入となる。現在、高学年(5、6年)で行われている外国語活動を中学年(3、4年生)で行い、高学年では英語は正式教科となる。
学習要領によると、小学校の英語教育の目標は、以下の通りとしている。
第1の(1):外国語を通して、言語や文化について体験的に理解を深め、日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に 慣れ親しむようにする
第1の(2):身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考え や気持ちなどを伝え合う力の素地を養う
第1の(3):外国語を通して、言語やその背景にある文化に対する理解を深め、相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う
具体的には、中学年では基本担任による年35時間の「外国語活動」が行われ、英語と触れ合い、楽しむことを主目的となる。高学年では、教科として年70時間、「読み書き」の加わった英語授業が行われる。担任に加え、専任教員で授業を実施し、正式教科なので、当然、通知表にも記載される。
国際的には、国家戦略として小学校段階における英語教育を実施する非英語圏の国が増加しており、1996年タイ、97年韓国、2001年には中国が段階的に必修化に踏み切っている。日本もやっとスタートラインに立ったというわけだ。
日本では、英語教育は盛んだが、実際に英語を習得できるものではないとされてきた。今回の教育改革により、英語力の向上、さらには相対的な日本の地位向上につながるか、期待が高まる。