ノーベル賞受賞者が口にする、日本の基礎研究の未来
来月10日、スウェーデン・ストックホルムでノーベル賞5部門(医学・生理学、物理学、化学、文学、経済学)の授賞式が行われる(「平和賞」のみノルウェー・オスロ)。
日本人としては、今年、吉野彰・旭化成名誉フェローがノーベル化学賞を受賞。携帯電話や電気自動車などで利用されるリチウムイオン電池を開発し、情報化社会の広がりとクリーンエネルギーの普及に貢献したことが評価されてのことだった。
これまで日本人、および、日本にルーツを持つ人のノーベル賞受賞者は、以下の通り。
1949年 湯川秀樹(ノーベル物理学賞)
1965年 朝永振一郎(ノーベル物理学賞)
1968年 川端康成(ノーベル文学賞)
1973年 江崎玲於奈(ノーベル物理学賞)
1974年 佐藤栄作(ノーベル平和賞)
1981年 福井謙一(ノーベル化学賞)
1987年 利根川進(ノーベル生理学・医学賞)
1994年 大江健三郎(ノーベル文学賞)
2000年 白川英樹(ノーベル化学賞)
2001年 野依良治(ノーベル化学賞)
2002年 小柴昌俊(ノーベル物理学賞)
2002年 田中耕一(ノーベル化学賞)
2008年 小林誠・益川敏英(ノーベル物理学賞)
2008年 南部陽一郎(ノーベル物理学賞)
2008年 下村脩(ノーベル化学賞)
2010年 鈴木章・根岸英一(ノーベル化学賞)
2012年 山中伸弥(ノーベル生理学・医学賞)
2014年 赤崎勇・天野浩・中村修二(ノーベル物理学賞)
2015年 大村智(ノーベル生理学・医学賞)
2016年 大隅良典(ノーベル生理学・医学賞)
2017年 カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞)
2018年 本庶佑(ノーベル生理学・医学賞)
2019年 吉野彰(ノーベル化学賞)
2000年以降のノーベル賞受賞者の出身大学で見ると、京都大学が世界15位にラインクイン。アジアに限ってみると、1位は京都大学で19人、2位が東京大学で16人、4位に名古屋大学で6人となっている。
ちなみに2001年に「科学技術基本法」に基づき策定された「科学技術基本計画」には、以下の通りノーベル賞に関する記述がある。
<こうした国(=知の創造と活用により世界に貢献できる国)を実現していくためには、我が国に科学を根付かせ、育て上げる取組みが必要である。そのため、科学的なものの見方・考え方、科学する心を大切にする社会的な風土を育むとともに、知の源泉である人材を育成し、知を国の基盤とする社会を構築していくことが必要である。
具体的には、例えば、投資に見合う多数の質の高い論文が発表され、国際的に評価の高い論文の比率が増えること、ノーベル賞に代表される国際的科学賞の受賞者を欧州主要国並に輩出すること(50年間にノーベル賞受賞者30人程度)、優れた外国人研究者が数多く集まる研究拠点が相当数できることなど、世界水準の質の高い研究成果を創出し、世界に広く発信することを目指す。>
2001年以降のノーベル賞受賞者は14人。50年で30人という政府目標に向けて、順調に推移しているというカタチだ。
しかし、昨今受賞者の口から出てくるのは、日本の基礎研究に対する危機感である。これまでの受賞は過去30年の賜物であり、研究費の予算も削除されているなか、日本の科学技術力は凋落するというのだ。
そこで日本の研究開発費について、詳しく見ていこう。⽇本の研究開発費は、年間約19兆円(図表1)。研究主体別では企業が全体の約7割、⼤学が約2割を占めるという構図で、この割合は一定に推移している。主要国の研究開発費総額の推移(図表2)を見てみると、中国が急伸し米国に追い付こうとしているなか、日本はこの10年ほぼ一定という状況だ。
一方、対GDP比率の推移(図表3)を見ると、韓国や中国、台湾で伸びているが、日本は3%程度で推移してきた。先進国はおおむね一定であるのは、大きな国策の転換はなく、予算に対して一定の研究開発費が充てられているためだろう。
これらから日本の研究開発費は減らされているわけではなく、低成長が続くなか、増えていかない、という事情が見えてくる。今後、研究開発費の増額のためには、力強い経済成長が必須だといえるだろう。
日本の子供たちは「科学」への関心は、世界的にも低い
一方、よく日本の子供たちの学力は低下している、という主張を耳にするが、研究開発と根底なる「教育」はどうなのだろうか。
経済協力開発機構(OECD)は、国際的な学習到達度に関する調査、PISA(学習到達度調査)を2000年から3年ごとに行っている。直近では2015年、72カ国54万人を対象に実施され、日本では義務教育を終えた高校1年生約6,600人が受験した。
「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野に対し、選択式と記述式で構成されるテストで、受験者平均が500点、標準偏差が100点になるように換算される。
平均得点(図表4、5、6)を見ると「科学的リテラシー」が2位、「数学的リテラシー」は5位と順位を上げたが、「読解力」は8位と順位を下げた。読解力の低下については、「コンピュータ使用型調査に対する戸惑い」とし、学力向上の対策として「学習指導要領の改定による子供たちの資質・能力を育成する教育の実現や国語教育の充実」と「読解力向上に向けた対応策」に基づく学習の基盤となる言語能力・情報活用能力の育成」を挙げている。
このように課題はあるものの、日本の子供たちの学力は世界でも高水準であり、今後の研究開発においても、明るい材料が揃っていると言えるのではないだろうか。
しかし、ひとつ不安要素を上げるとすれば、日本の子供たちは科学に対する興味・関心が低い。同調査では「生徒の科学に対する態度」を調査しているが、日本はOECD平均を大きく下回る(図表7)。以前から問題視され改善に努めているが、まだまだ平均まで遠く及ばない。科学への関心の低さは、いわゆる「理系離れ」を生み、結果的に日本の研究開発力の低下を招くだろう。
日本の研究開発力の向上には、子供たちの科学への関心を高めることは不可欠だ。そのためには「科学=楽しい」という教育を施すことはもちろん、「科学者=儲かる」となることが必要である。ノーベル賞受賞者30人という政府目標のためにも、科学者への報酬を見直し、科学者の地位向上は、早急に行うべき対策だといえる。