9月分鉱工業生産指数前月比+1.4%。7~9月期・前期比▲0.6%は最近のパターン通り
9月分の経産省の基調判断は8月分に引き続き「生産はこのところ弱含み」に。先行き不透明
9月分景気動向指数・一致CI前月差は上昇に転じるものの基調判断は「悪化」継続見込み
(鉱工業生産)
●鉱工業生産指数・9月分速報値・前月比は+1.4%と2カ月ぶりの増加になった。15年を100とした季節調整値の水準は102.9と、19年5月分(104.9)以来の指数水準になった。また、前年同月比は+1.1%と2カ月ぶりの増加になった。
●9月分鉱工業生産指数では、汎用・業務用機械工業、生産用機械工業、電気・情報通信機械工業等の7業種が前月比増加。化学工業(除. 無機・有機化学工業・医薬品)、自動車工業、電子部品・デバイス工業等の7業種が前月比減少、その他工業が前月比横這いだった。
●7~9月期の前期比は▲0.6%と減少になった。このところ鉱工業生産指数は四半期ごとにみると前期比増減を繰り返している。
●経済産業省は基調判断を4月分以降の「総じてみれば、生産は一進一退」から、8月分で「総じてみれば、生産はこのところ弱含み」に下方修正した。9月分では「総じてみれば、生産はこのところ弱含み」に据え置いた。
●鉱工業生産指数の9月分製造工業予測指数・前月比+1.9%の増加であった。また、経済産業省は過去の修正パターンを機械的に反映させた鉱工業生産指数の先行き試算値を発表している。9月分の前月比は最頻値で+0.3%の増加、90%の確率に収まる範囲は▲0.7%~+1.3%になっていた。実績は前月比+1.4%で、製造工業予測指数を下回ったが、先行き試算値の上限を僅かに上回る伸び率となった。
●9月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+1.3%で2カ月ぶりの増加となった。前年同月比は+2.0%で2カ月ぶりの増加となった。指数水準は102.5で19年7月の102.5以来の水準である。
●9月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲1.6%の減少になった。3カ月連続の減少である。前年同月比は+0.7%と11カ月連続の増加となった。
●9月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲2.4%で2カ月ぶりの前月比低下となった。9月分の指数水準は107.5、19年7月の107.5以来の水準である。
●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期以降、45度線を上回って推移し、「在庫積み上がり局面」が続いている。19年4~6月期は出荷の前年同月比が▲2.7%、在庫が同+3.0%であった。19年7~9月期では出荷の前年同期比が▲0.1%、在庫が同+0.7%と、依然として45度線を上回っているものの、だいぶ接近し、在庫調整の進展が期待される状態にあることが確認された。
●業種によっては明るい動きが見られるものがある、電子部品・デバイス工業の在庫サイクル図をつくると、19年1~3月期は出荷の前年同月比が▲2.5%、在庫の前年同月比が+5.5%で「在庫積み上がり局面」であったが、19年4~6月期は出荷の前年同月比が▲9.2%、在庫が同▲9.7%と「意図せざる在庫減局面」に移行した。19年7~9月期では出荷の前年同期比が▲3.3%、在庫が同▲17.8%と、引き続き「意図せざる在庫減局面」の状態にあり、在庫調整が進んでいることが確認された。
●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると10月分は前月比+0.6%の増加、11月分は同▲1.2%の減少の見込みである。但し、過去のパターン等で修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、10月分の前月比は最頻値で▲1.6%の減少にとどまる見込みになる。90%の確率に収まる範囲は▲2.6%~▲0.6%になっている。なお、台風19号などの自然災害の影響は調査時点の後の現象なのでこうした数字には含まれていない。
●先行きの鉱工業生産指数を、10月分は先行き試算値最頻値前月比(▲1.6%)、11月分を前月比(▲1.2%:製造工業予測指数)、12月分を横這いで延長するすると、10~12月期の前期比は▲1.0%と減少になる。このケースだと鉱工業生産指数の四半期ごとに前期比増減を繰り返すという最近のパターンが崩れることになる。
●また、10月分は製造工業予測指数前月比(+0.6%)、11月分を前月比(▲1.2%:製造工業予測指数)、12月分を横這いで延長すると、10~12月期の前期比は+0.3%の増加になる。このケースだと鉱工業生産指数の四半期ごとに前期比増減を繰り返すという最近のパターンが維持される。
(9月分景気動向指数、一致CIは前月差上昇に戻るも、基調判断は「悪化」継続に)
●9月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+0.7程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、10月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列である。最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差プラス寄与に、消費者態度指数1系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新規求人数、新設住宅着工床面積の2系列では、新規求人数が前月差プラス寄与に、新設住宅着工床面積が前月差マイナス寄与になると予測した。
●9月分の一致CIは前月差+2.0程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列のうち、10月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の6系列で、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の5系列が前月差プラス寄与に、耐久消費財出荷指数1系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る有効求人倍率1系列は前月差マイナス寄与になると予測した。
●一致CIを使った景気の基調判断をみると、5月分・6月分・7月分と「下げ止まり」の判断だったが、前月8月分で「悪化」に下方修正された。予測通りだと9月分では3カ月後方移動平均が4カ月ぶりに上昇に転じ、かつ当月の前月差の符号がプラスとなるものの、3カ月後方移動平均の前月差が予測通りだと0.50程度にとどまり1標準偏差分の0.90にとどかないため、「下げ止まり」には戻れないと思われる。基調判断は「悪化」継続になると予測する。
●9月分の先行DIは33.3%程度と5カ月連続して景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、10月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列で、最終需要財在庫率指数、マネーストック、東証株価指数の3系列がプラス符号に、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは33.3%以上55.6%以下となることが確定している。残る新規求人数、新設住宅着工床面積の2系列はともにマイナス符号になると予測した。
●9月分の一致DIは78.6%程度と景気判断の分岐点の50%を4カ月ぶりに上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列のうち、10月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の6系列で、生産指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の5系列がプラス符号に、鉱工業生産財出荷指数1系列が保合いになることが判明している。一致DIは78.6%以上92.9%以下と50%超になることが確定している。残る有効求人倍率1系列はマイナス符号になると予測した。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2019年9月分「鉱工業生産指数・速報値」の分析』を参照)。
2019年10月31日
宅森 昭吉
株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト