自身の会社を後継者に承継しようと検討を始める際、その第一歩は、自身の会社の株式がどれくらいの価値があるのか、把握することからです。本記事は事業承継を考える会社経営者に向けて、非上場株式の相続税評価額の計算方法のうち、「純資産価額方式」について紹介していきます。※本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。

株式の相続税評価額の計算方法は4種類あるが…

事業承継を検討するにあたって、株式の相続税評価額の計算方法はある程度理解しておく必要がありますが、株式の評価額の計算方法は、原則的評価方式と特例的評価方式という2種類の評価方法があります。そして原則的評価方式の中には、さらに3種類の評価方法があります。合計で4種類ということになります。

 

[図表1]株式の評価額の計算方法
[図表1]株式の評価額の計算方法

 

今回はそのうち、純資産価額方式について解説していきます。

 

純資産価額方式はシンプルです。一言でいえば、「仮にあなたの会社を解散させた場合に、株主に返ってくる金額をもって、株式の評価額にしましょう」という考え方です。

 

[図表2]純資産価額方式のイメージ
[図表2]純資産価額方式のイメージ

 

会社を経営している方や、会社の経理を担当している方ならピンとくるかもしれませんが、この金額は、貸借対照表(BS)の純資産価額と近い金額となります。

 

純資産価額方式を理解するうえで大切になるのは、「仮に会社を解散させた場合」というシチュエーションを理解することです。多くの社長さんは「会社なんて解散させたことないから、わからないよ」と感じるでしょう。そこで、一緒に会社を解散させてみましょう。

 

たとえば、次のような会社がありました。

 

会社の貸借対照表(BS)

■預金:3000万円

■土地:5000万円

■資産合計:8000万円

 

■借入金:4000万円

■純資産:4000万円

■負債純資産合計:8000万円

 

[図表3]事例会社の貸借対照表(BS)
[図表3]事例会社の貸借対照表(BS)

 

まず会社を解散させる場合にやらなければいけないことは、借入金を返済することです。お金を返さないまま会社を解散させることはできません。まずは借入を返済しましょう。

 

では、借入4000万円を返済していくのですが、この会社の今の状況で、借入4000万円を返済できるでしょうか?

 

会社には預金が3000万円しかありません。このままでは借入金4000万円は返済できないのです。そこで、あなたは、会社で所有している土地を売却してお金を用意しようと考えます。土地を売却しに不動産屋に相談しにいくとこう言われました。

 

「この土地なら1億円で売れますよ」

 

思いのほか高値がつきました。嬉しい誤算ですが、ここでちょっと気になることが。

 

「あれ? BSには5000万円って書いてあるのに、なんで1億円で売れるんだ?」

 

それは、BSに記載されている金額は、土地の購入した時の金額だからです。貸借対照表には、購入した時の金額が記載され続けます。

 

仮に購入したのが50年前であったとしても、BSには購入した当時の金額が記載されるので、現在の時価に換算すると大きくズレることがあるのです。

 

それはそれと、めでたく土地が1億円で売却できたので、会社には1億円のキャッシュが入ってきました。1億円のキャッシュが入金されたことによって、会社の純資産価額は4000万円から9000万円に増加します。

 

[図表4]事例企業の土地が1億円で売れると仮定したら
[図表4]事例企業の土地が1億円で売れると仮定したら

 

そして、4000万円の借入金をすべて返済しました。借入金を返済しただけなので、純資産価額は変動しません。

 

[図表5]事例企業が借入金をすべて返済したら
[図表5]事例企業が借入金をすべて返済したら

 

「これで借金も返済できたし、残ったお金は株主のものになるんでしょ?」

 

と思いきや、実は、まだ払わなきゃいけないものがあるのです。それは、法人税です。先ほど、帳簿価額(BSに記載されている金額のこと)5000万円の土地を1億円で売却しました。5000万円で購入したものが1億円で売却できたので、差額の5000万円、儲け(固定資産売却益)がでたのです。

 

この儲けに対して法人税が課税されます。さらに、法人税の他に事業税や法人住民税なども課税されます。

 

法人税や事業税などの税率は、すべて合わせると最高で約37%です。法人が解散手続きをしている場合であっても、儲けがでたなら税金を払わなければいけません。5000万円の儲けがでるなら、37%分の1850万円を納税することになります。

 

 

[図表6]5000万円の儲けがでるなら、37%分の法人税がかかる
[図表6]5000万円の儲けがでるなら、37%分の法人税がかかる

 

この分の法人税を払って、ようやく残ったお金が株主のもとに返ってくるのです。純資産価額9000万円から法人税等1850万円を支払うので、税引後の純資産価額は7150万円となります。

 

そして、この7150万円が株主に返ってくることになります。

 

[図表7]引後の純資産価額は7150万円に
[図表7]引後の純資産価額は7150万円に

 

今の話をもとに、会社を解散させた場合のお金の流れをもう一度解説します。

 

1.まずは会社の所有資産を売却し、会社にキャッシュを用意します

2.1で用意したキャッシュから銀行などの債権者に借入金を返済します。

3.1で売却した場合に儲けが出る場合には、その儲けに対する法人税等を納税します。

4.税金を支払った後の残りの財産が株主に分配されます。

 

※会社に十分なキャッシュがある場合や借入金がない場合には、必ずしも会社の資産を売却しなければいけないわけではありません。ただし、会社の資産を売却したものとみなして、含み益に対する法人税は納税しなければいけません。このプロセスが、そのまま純資産価額方式の計算方法となります。

 

会社を解散させた場合に株主に返ってくる金額とは、会社の純資産価額(借入を返済した後の金額)から、含み益に対する法人税を納めた後の金額ということになります。この金額が、純資産価額方式により計算した株式の相続税評価額になります。

2つのBSを比較して「含み益」があるかをチェック

◆評価をしようとする日を含む事業年度、直前期の決算書(①)を用意

具体的な計算方法の解説に移ります。まずは、2種類のBS(貸借対照表)を作ります。1つは、会社でいつも使っている貸借対照表(BS)です。このBSを帳簿価額による貸借対照表といいます。これは会社の決算書を用意すればいいだけなので、用意するのに手間はいりませんね。

 

いつ時点のBSを使うかというと、評価をしようとする日を含む事業年度の、直前期の決算書を使います。たとえば、毎年3月31日が決算の会社で、平成31年1月1日の評価額を計算したいのであれば、平成30年3月31日時点のBSを使えばOKです。

 

[図表8]帳簿価額による貸借対照表
[図表8]帳簿価額による貸借対照表

 

◆①から時価(相続税評価額)による貸借対照表を作成

そしてもう1つのBSは、時価(相続税評価額)による貸借対照表です。現時点で、会社の資産を売却した場合に、どのくらいの値段がつくのか、という基準で評価し直したBSを作ります。

 

この場合のBSも基本的には、評価をしようとする直前期の決算書をベースに作ります。預金残高や、売掛金などは、直前期末の残高をそのまま使いますが、不動産や子会社株式などを時価に変換する必要があります。

 

帳簿価額によるBSには、不動産は購入した時の金額がそのまま計上されています(建物については減価償却が加味されていますが)。これを、時価に変換します。

 

具体的に時価とは何を指すのかというと、相続税評価額のことを指します。土地については路線価方式で計算をし、建物については固定資産税評価額を使います。

 

会社のBSのうち、土地や建物は、帳簿価額を相続税評価額に修正します。その結果、帳簿価額よりも大きくなる会社もあれば、小さくなる会社もあります。現時点での実態にかなり近づくことになりますね。

 

不動産以外にも、時価に変換しなければいけないものがあります。それは、保険積立金です。法人契約で生命保険に加入している社長も多いと思いますが、支払った保険料のうち、損金に算入されない部分は、BSに保険積立金として記載されます。

 

[図表9]時価(相続税評価額)による貸借対照表
[図表9]時価(相続税評価額)による貸借対照表

 

「この金額を、もし今、その保険を解約したら、いくらの解約返戻金がもらえるか?」という金額に変換しなければいけないのです。

 

他にも、会社が他の会社の株式や投資信託などを持っている場合にも、これを時価に変換する必要があります。投資用として持っている上場株式は楽でいいのです。インターネットで時価は簡単に調べることができるので。

 

大変なのは、子会社などの上場していない会社の株価です。帳簿価額には、子会社株式は、取得した時の金額しか書かれていません。出資して株式を取得した場合には、出資した金額。買収してきた場合には、買収した金額が記載されています。

 

この帳簿価額を、現時点の時価にしなければいけないのですが、この評価額を計算するために、今やっている純資産価額方式や類似業種比準価額方式などを駆使して、子会社の株式の相続税評価額を計算しなければならないのです。

 

つまり、子会社があるような会社の相続税評価額を計算するためには、先に、子会社の株式の相続税評価額を計算しないといけないのです。これはなかなか大変です。孫会社なんてある場合にはさらに大変です。

 

[図表10]子会社がある会社の相続税評価額を計算するためには、先に、子会社の株式の相続税評価額を計算する必要がある
[図表10]子会社がある会社の相続税評価額を計算するためには、先に、子会社の株式の相続税評価額を計算する必要がある

 

他にも細かい論点をあげるときりがないのでこの辺でやめますが、このようにして会社の時価(相続税評価額)による貸借対照表を作り上げるのです。

 

2つの貸借対照表ができましたら、この2つのBSを比較します。

 

◆2つのBSを比較~「含み益がない」場合

たとえば、帳簿価額によるBSと相続税評価額によるBSを比べて、帳簿価額の方が大きい場合には、どのようなことがいえるでしょうか?

 

[図表11]含み損がある場合
[図表11]含み損がある場合

 

このような場合には、会社の時価は帳簿価額よりも低いということになるので、もし財産を売却したとしても儲けはでないということになります。つまり含み益ではなく、含み損がある状態となります。含み益がないということは、それに対する法人税も当然ありません。

 

法人税が発生しないということは、株主に返ってくる金額は、時価による貸借対照表の純資産価額と一致します。そのため、時価による純資産価額が、そのまま株式の評価額となります。

[図表12]含み損がある=法人税が発生しないと、株主に返ってくる金額は、時価による貸借対照表の純資産価額と一致する
[図表12]含み損がある=法人税が発生しないと、株主に返ってくる金額は、時価による貸借対照表の純資産価額と一致する

 

◆2つのBSを比較~「含み益がある」場合

では次に、2つのBSを比べると、相続税評価額によるBSの方が大きくなったとします。この場合にはどのようなことがいえるでしょうか?

[図表13]含み益を抱えている場合
[図表13]含み益を抱えている場合

今度は先ほどと逆になります。帳簿価額より時価の方が大きいということは、もし、会社の財産を売却した場合には儲けがでるということになります。つまり含み益を抱えている状態となります。含み益があるなら、それに対する法人税を払わなければいけません。

[図表14]含み益に法人税がかかる
[図表14]含み益に法人税がかかる

含み益に対する法人税を払う必要があるということを踏まえて、株主に返ってくる金額を考えてみましょう。株主に返ってくる金額は、会社の時価による純資産価額から、含み益に対する法人税を引いた、残りの金額ということになります。この金額が株式の相続税評価額ということになります。

[図表15]含み益から法人税を引いた額が、株式の相続評価額になる
[図表15]含み益から法人税を引いた額が、株式の相続評価額になる

以上が、純資産価額方式の具体的な計算方法でした。

 

実際には、次のような計算表を使って計算していきます。BSの資産の部と負債の部に、それぞれ相続税評価額を記載する欄と、帳簿価額を記載する欄があり、2種類のBSを作っていきます。

 

[図表15]純資産価額方式の計算書
[図表15]純資産価額方式の計算書

 

◆含み益に対しての法人税は?

含み益に対する法人税の金額は、次の算式により計算することとされています。

 

(時価による純資産価額―帳簿価額による純資産価額)×37%

 

37%という割合は、法人税や事業税、地方法人特別税などすべてひっくるめた割合です。法人税率が改正されると、ここのパーセンテージも改正されます。

 

この金額の正式名称は、「評価差額に対する法人税等相当額」というのですが、税理士業界の業界用語では、37%控除と呼んでいます。

 

実は、この37%控除という制度は、納税者にとって非常に有利な取り扱いなのです。

 

純資産価額方式は、「仮に会社を解散させたらいくらの財産が株主に返ってくるか」という考え方を基本としています。確かに、財産価値を測るには、合理的な方法だと思います。

 

なぜなら、実際に会社を解散させるわけでもないのに、解散した場合に発生する法人税を払ったものとみなして、その分低い評価額で株式を計算することが認められているからです。

 

その分、事業用の資産を個人事業主として持っていた場合より、会社として持っていた方が、含み益の37%分を控除してもらえるため、得をすることになります。

 

◆純資産価額がマイナスの場合は?

純資産価額方式により計算した結果、相続税評価額ベースの資産の金額より、負債金額が大きくなるような場合には、純資産価額はマイナスになります。時価に変換すると債務超過状態になっているというケースです。

 

この場合には、株式の相続税評価額は0円になります。株式の評価は、大会社の場合には、純資産価額方式か類似業種比準価額方式のどちらか好きな方を、それ以外の会社は、純資産価額方式か折衷方式の好きな方を選択することができます。

 

[図表16]会社規模別、株式の相続税評価の計算式
[図表16]会社規模別、株式の相続税評価の計算式

 

このことから、純資産価額方式で計算した結果、評価額が0円となった場合には、類似業種比準価額方式で計算した株価がプラスになった場合でも、評価額を0円としていいのです。

 

ただ、これがお得なのかというと、ちょっと微妙です。

 

もし、あなたの会社が100万円の債務超過であったとしても、株価は0円。あなたの会社が10億円の債務超過であったとしても株価は0円で評価されます。株価は0円以下にはならないのです。

 

もし、あなたが10億円の債務超過会社の株式と、5億円の個人資産(土地や預金など)を持っている場合には、株式はあくまで0円で評価されるだけなので、5億円の個人資産に対して相続税が課税されることになります。個人資産に抵当権などがついていても、実際に会社が債務不履行になり、抵当権が実行されない限りは、個人の債務扱いにはならないので、マイナスが取れないのです。

 

もしも、そのような状況にあるなら早めに債務を整理した方がいいです。個人資産から補填をしなければいけないなら、相続が発生する前にやった方がいいですよね。

 

◆まとめ

純資産価額方式の計算のイメージはつかめましたか?

 

会社の時価による純資産価額から、含み益に対する法人税を引けばいいんでしたね。含み益がない会社であれば、時価純資産がそのまま評価額になります。

 

他にも細かい注意点はあるのですが、今回はイメージがつかめればOKです。会社を解散させる時のプロセスが、そのまま純資産価額方式の計算方法となります。

 

 

【動画/筆者が「純資産価額方式」についてわかりやすく解説】

 

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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