お金持ちの家じゃなくても増えている「相続トラブル」
身の周りで相次ぐ親の遺産相続話を聞いた相子。「私には関係ない」と思っていたものの「まさか自分の家でも……?」と心配になりました。そこで実家に寄った折、父親の宗太郎と母親の圭子とともに、家の相続について話をすることに――。
◆放っておくと大変!相続には「成功」と「失敗」がある
相子 お父さん、うちもそろそろ相続の問題を考えておいたほうがいいんじゃないかしら?
宗太郎 相続? うちは別にお金持ちでもないし家族みんな仲がいいから、必要ないと思うぞ。
圭子 そうよ相子。縁起でもない。
相子 でも、最近の相続トラブルはお金持ちの家じゃなくても増えているみたいよ。お母さんの知り合いも悩んでるって言ってたわよね。
圭子 え? ああ、私が通っている茶道教室のA美さんね。そういえば、会うたびに「相続で失敗した」って嘆いてるわ。
宗太郎 相続に成功とか失敗があるのか?
圭子 あのとき、ああしておけば……という後悔が強いなら相続は失敗でしょう? A美さんは、去年ご主人を亡くしたんだけど、そのとき、ご家族は法律で決められているとおりに財産を分けたそうなの。自分は長年住んできた家を相続して、2人の息子さんには2,000万円あった預金を半分ずつ相続させたのね。家の価値は2,000万円くらいだったから、それで奥さんが半分、子供たちが残りの半分を等分するという法律のルール通りに分けたんですって。
相子 でもそれじゃあA美さん、住む場所はあっても生活費に困るわよね。
圭子 そうなの。彼女、しばらくしてからそのことに気づいて……。家はあっても老後の資金に貯めていた預金がなくなったから、わずかな年金でギリギリの暮らしをするしかないって。
宗太郎 でも、法律で決まっているならしかたないじゃないか。あとは息子さんたちに頼ることもできるだろうし。
相子 うーん。相続財産は「必ず法律のとおりに分けなきゃいけない」のかしら? 長年ご主人と連れ添ったのはA美さんなのだから、息子さんたちが同意すれば、いったんA美さんがすべて引き継いでもいいんじゃないかと思うけど。
宗太郎 ええ? さすがに総取りは難しいんじゃないか?
相子 どっちにしても、一度息子さんたちに相続させてしまったお金を返してくれとは言えないでしょうし、息子さんにお嫁さんがいるとなれば、なかなか生活費を融通してとも頼みづらいでしょうね。
圭子 そうなのよ。それで彼女も困っていて……。近頃は教室の集まりやイベントにもなかなか参加できないのよね。
宗太郎 なるほど。相続については避けがちな問題だが、あまり放っておくとあとに残った者が困ることもあるんだな。ちゃんと事前に準備をしておけば、もう少しうまくやれたかもな。
相子 うちは失敗しないように、きちんと準備しなくちゃね。
3人で話をしていると、相子の弟の相一が珍しくふらりと帰ってきました。宗太郎の飼っている猫のニャン太も、なぜか相続の話に聞き入っている様子。
先祖代々守ってきた土地だったのに…
◆「遺言書」は映画やドラマだけの話ではない
相一 父さん、母さん、それに姉さん、ひさしぶり。相続と言えばこの間、僕の友達のB太郎も相続トラブルで家を失いそうになったって言ってたなあ。
宗太郎 B太郎君のお父さんっていったら、この辺でも有名な地主じゃないか。アパートやら駐車場やらの収入で財産も相当の額になるだろう? なんで家を失うようなことになるんだ?
相一 それが、亡くなったお父さんが「長男であるB太郎に自分が持っていた土地を全部相続させる」っていう遺言書を残していたらしいんだよね。
宗太郎 代々受け継いできた愛着のある土地だから、お父さんとしては「土地は長男に全部相続させたい」ということになったんだろうな。
圭子 でも、B太郎さんには妹さんがいたでしょう? 彼女はどうなるの?
相一 うーん。たしか遺言では、土地をすべてB太郎に相続させる代わりに、銀行預金や株なんかは全部妹さんに相続させるように、と書かれていたと聞いたよ。
圭子 妹さんだけ相続できるものがないんじゃかわいそうだから、仕方ないわね。
相一 だけど母さん、話はそう簡単じゃなかったみたいでさ。実はB太郎が相続した土地がずいぶん値上がりしていて、相続税を納めるのが大変だったらしいんだよ。
相子 そうか。土地は相続したけれど、相続税を納めるための現金に困ったのね。
相一 正解、すごいね。姉さん。B太郎はお父さんからの援助を受けずに、自分で働いて貯めたお金を頭金にして最近自宅を購入したばかりだったんだ。だからローンの返済もあって税金を払う余裕なんてなくて……。それで、銀行預金を相続した妹さんに少し貸してくれないかって頼んだそうなんだけど、断られたって言ってたよ。
圭子 まぁ、昔はよく兄妹で一緒に出かけてたじゃない? 仲のよい兄妹だと思っていたのに、お金が絡むと家族でもそんなことになるなんて……なんだか悲しいわね。
相一 うん。妹さんとはB太郎が家を出てからは疎遠になっていたみたい。そんなわけで、そのあとB太郎は自宅を売ろうとしたらしいんだけど、今度は奥さんに猛反対されちゃって。結局は相続した土地の一部を売り払って、なんとか相続税を納めるための資金を作ったんだって。
宗太郎 なんだ。なんとかできたならよかったじゃないか。
相一 それが全然よくないんだよ。「協力してくれなかった」ということで妹さんとの関係は悪くなってしまったし、亡くなったお父さんに対しては「先祖代々守ってきた土地を失って申し訳ない」って気持ちが強いみたいで、ひどく落ち込んでたよ。
宗太郎 家族を思って書いたはずの遺言書がトラブルのもとになるなんて、財産を残すほうも大変だな……。なんだかワシも不安になってきたよ。
◆親から子への「積み立て」も違反すればペナルティ対象
宗太郎 そういえば、会社時代の先輩だったC夫さんの家族も以前に相続トラブルを経験していたな。
圭子 C夫さんといえば、ずいぶん厳しいことで有名だった方よね。たしか、脳梗塞で倒れてそのまま亡くなったんじゃなかったかしら。
宗太郎 ああ、とても厳しい人だったよ。C夫さんは部下だけじゃなく、家族にも厳しくてね。息子さんが2人、娘さんが1人いるんだが、生前は頼まれても金を渡したり、貸したりすることはなかったそうだ。
圭子 そうなの。娘に甘いお父さんとは大違いね。
相子 ちょっとお母さん、お父さんのどこを見て言っているのよ。結婚するときだって最後まで大反対されたんだから。
圭子 あら、それこそ娘への甘さの裏返しじゃない。
宗太郎 まあまあ……。それで、C夫さんの話だがな。ところがC夫さんが亡くなってから金庫を開けると、子供3人名義の預金通帳と印鑑が出てきてね。C夫さんは直接資金を渡すことはなかったが、毎年、子供たちのために積立預金をしていたらしい。
相子 子供さんのことを本当は考えていたのね。C夫さんの愛情がわかって、家族はみんな喜んだんじゃない?
宗太郎 そう思うだろう? でも、実際は大変だったんだ。C夫さんが亡くなって2年ほどしたある日、税務署の調査が入って、ずいぶんな追徴課税をとられてしまったと言っていたよ。
圭子 ええ!? 生前からコツコツ積み立てた預金にも相続税がかかっちゃうの?
宗太郎 うーん。ワシにもそのあたりはよくわからないんだが、どうやら子供たちの財産ではなく、C夫さんの相続財産と見なされてしまったらしい。だから相続税をちゃんと申告していなかったということで、ペナルティ分や支払いが遅れた延滞分が加算されて、ずいぶんな額になったそうだよ。
相子 相続税って財産が多くなるほど税率も上がるのよね?
宗太郎 ああ。C夫さんにしてみれば、何かあったときのためにと以前から相続人名義の積立預金をしていたと思うんだが、結果的にまったく意味がなかったってことだろうな。それどころか、延滞分が追加されているから、余計に税金がかかっているはずだよ。
相子 対策のはずが、増やしちゃってたなんて……。
圭子 しかも、亡くなってから2年後に調査が入るなんて……。
まとめ
●相続は「自分には関係ない」と放っておくと、あとで大変なことになる恐れがある
●不動産の相続は納税資金のことを考えないとトラブルの原因になりかねない
●遺言書には強い効力があるため、慎重に書かなければいけない
●生前からの相続人名義の積立預金も課税対象。しっかりとした知識がないと、相続税対策が裏目に出てしまうこともある