被相続人が亡くなった際、相続人に引き継がれる権利や義務のうち、相続または遺贈により承継される財産を「相続財産」といいます。そこには、不動産や金融財産のみならず「負債」も含まれることがあるので、生前からしっかりと財産の内訳を把握することが大切です。本記事では、資産家の相続対策をサポートする、株式会社財産ブレーントラストの代表取締役・成島祐一氏が、「相続財産」のイロハを解説します。

プラスの財産のみならず「マイナスの相続財産」を知る

相続財産といっても、その種類は意外とたくさんあります。家を守るために必要な財産を必要な人に分けるためには、まずプラスの相続財産とマイナスの相続財産を分けることからスタートしてください。

 

プラスの相続財産は不動産(自宅など)、現預金・有価証券(株式や投資信託など)、その他の資産(貸付金、死亡保険金、死亡退職金など)があります。

 

マイナスの相続財産とは、主に借入金や買掛金、未払金などです。借入金はキャッシングローンなどの少額の借入金もあれば、住宅ローンや収益不動産のアパートローンなどの高額な借入金もあります。個人事業主であれば、取引先からツケで購入している商品などがある場合、買掛金という負債が残っている場合があります。

 

未払金はその名のとおり、払い終わっていないお金のことで、単発的に発生した負債になります。例えば、広告宣伝費やリベートのお金などが相当します。

 

マイナスの相続財産の項目で書き忘れることが多いのが、自分の借金ではなく、お付き合いなどで連帯保証人になった多額の負債などです。

 

このような負債は、負債を負った本人が経済的に破たんしない限り、請求は連帯保証人のところにこないので、その事実を忘れてしまいがちです。相続後、債権者からの連絡で初めて被相続人が負債を負っているという事実に気づくというケースが少なくありません。そうした問題を避けるためにも、被相続人である親がマイナスの相続財産を漏れなくきちんと記載をし、概算でよいのでそれぞれの評価額を算出しておきましょう。

不動産、有価証券…それぞれの評価方法は?

① 不動産

 

不動産は土地や建物のことです。自宅、収益不動産、駐車場、工場などがあると思います。不動産の評価は建物と土地のそれぞれの評価を出して、加算して不動産の評価額を算出します。駐車場は更地で評価をします。

 

土地(宅地)の評価については、基本的に路線価によって相続税評価額が決まっています。路線価とは道路に面した宅地の1㎡あたりの評価のことです。路線価は、国税庁から毎年7月1日に発表されます。国税庁のホームページから路線価図、評価倍率表によって調べることができます。

 

自分の住所を調べて、その不動産に面している路線価に面積を掛けて、評価額を出します。なお、路線価が定められていない場所の評価は倍率方式といって、固定資産税評価額に国税庁が出した倍率を掛けて算出します。

 

家屋の評価額は、毎年春頃に市区町村役場から送られてくる固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価をします。固定資産税評価額が書かれた書類をなくしてしまった場合には、所在地の市区町村役場に行けば確認することができます。

 

アパートやマンションなどの収益不動産を所有している場合、建物は貸家となります。貸家は借家人の権利(借家権割合)の分だけ、評価額が下がります。貸家の評価額は固定資産税評価額から、借家権割合を控除した額になります。借家権割合は30%ですので、貸家の評価額は固定資産税評価額の70%評価となります。

 

土地は貸家建付地の評価となり、更地の評価より減額があります。計算式は次のとおりです。

 

貸家建付地の評価額=自用地としての評価額×(1−借地権割合×借家権割合30%)となります。土地の評価が高いと借地権割合も変化しますが、概算でだいたい固定資産税評価額の80%程度として計算すると良いでしょう。

 

例えば、固定資産税評価額で建物5000万円、路線価評価で土地5000万円の、合計1億円のアパートを所有しているとします。この場合を計算してみましょう。貸家の評価額は固定資産税評価額の70%となります。5000万円に70%を掛けると3500万円になります。貸家建付地の評価額は、5000万円×80%で4000万円となります。このアパートの相続税評価額は7500万円になる、というわけです。

 

② 有価証券など

 

有価証券は、上場株式(証券取引所に上場されている株式のこと)、自社株式、投資信託などがあります。上場株式については取引市場での相場がありますので、実際は相続発生日の過去3カ月のなかで一番低い価格で算出しますが、まずは現在の株価で評価をします。投資信託は証券会社等から送られてくる取引レポートを参考にすると良いでしょう。

 

評価の難しいのが自社株式です。正式には会社の規模や利益等に応じて、純資産価格と類似業種比準価格の割合で求めますが、概算で計算するときには会社の決算書の貸借対照表(BS)の純資産額を基に自分の保有割合で参考数字としてつかんでおきましょう。

 

③ その他の資産

 

その他の資産には、不動産や有価証券以外の相続財産を記載しておきます。その他の資産には、現預金、死亡保険金や死亡退職金などがあります。ただし、死亡保険金については、保険金の受取人である相続人固有の財産でみなし相続財産と呼ばれており、遺産分割の対象になりません。遺産分割のための財産一覧表に入れるかどうかは、自分の判断で行いましょう。

 

また、死亡保険金および死亡退職金には相続税の計算上、おのおの非課税枠が設けられています。500万円×相続人の数です。従って、相続人が3人の場合、非課税が各々500万円×3人=1500万円あるので、死亡保険金1500万円、死亡退職金1500万円以内であれば相続税の課税対象にはならないという特典があります。

 

◆他人に貸したお金も含まれる?

 

他人に貸したお金なども、貸付金としてもちろん相続財産として評価されます。自分や家族等が代表の会社などに貸したお金についても同様です。資金繰りがうまくいかなかったときに自分の会社に対してお金を貸していることはよくあります。知らない間に膨れ上がっていますが、自分の会社なのであまり気にしていない人も多いようです。

 

貸付金が回収不能であると見込まれた場合にのみ、相続財産から除外することができますが、そうでなければ額面そのものが相続財産として評価されてしまいます。従って、いわゆる同族会社への貸付金も相続財産にカウントされてしまうのです。相続発生前に貸付金の解消をするなどの対策を取っておきましょう。

本記事は、2018年12月20日刊行の書籍『相続財産は"不平等"に分けなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は"不平等"に分けなさい

相続財産は"不平等"に分けなさい

成島 祐一

幻冬舎メディアコンサルティング

相続争いは分けるお金が少ない人の方が深刻化?家族の誰もが納得できる爽やかな相続―“爽続”に導く1冊 2016年、家庭裁判所に申し立てられた遺産分割事案の8割近くは、遺産額5000万円以下の案件でした。 これは分ける財…

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