会社支配に必要な「持ち株比率」は何%か?
経営者が100%の持ち株を持つ会社もいれば、複数の株主がいて持ち株が分散されている会社もあります。M&Aを活用した会社の売却、事業承継などを検討する場合、所有している株式の比率は、会社の支配権があるかどうかは大きく変わってきます。
会社を支配できる持ち株を持っているかどうかはM&A、事業承継の成敗を左右するほど、非常に重要なことです。
ところで、そもそも「支配権」とはどのようなことを指すのでしょうか? 株式会社であれば、実質会社を直接に支配できる権利のことをいいます。持ち株が多ければ多いほど、会社を支配できる権利があるということになります。
実際に持ち株の比率によって、どんなような権利があるのでしょうか。見ていきましょう。
「持ち株比率が1割以下」の場合でも、支配できる権利は少ないですが支配権は認められます。たとえば、3%以上の持ち株があれば、「会計帳簿閲覧権」があるので、仕訳帳や総勘定元帳などを閲覧することができます。
「持ち株比率が5割以上」であれば、株主総会の普通議決を自分の一存で決めることができます。経営上の判断もできる権限を有するので、「経営権」ともいいます。普通議決では大きく「役員の選任」「役員の報酬」「譲渡制限株式の承認」などが議決できます。
「持ち株比率が2/3以上」の場合、株主総会の特別議決を自分の一存で決めることができます。特別議決では大きく「定款の変更」「役員の解任」「特定の株主から株式の取得」「合併、株式交換、株式移転」などが議決できます。会社の根幹的な議決をすべて1人で決めることができることから、ほぼ会社の「支配権」を握っているといってもいいでしょう。
「持ち株比率が3/4以上」でないと議決できない「特別支配株主の株式を取り扱う定款変更」、株主全員の同意が必要とする「取得条項の設定・変更をする定款変更」などもあります。
スムーズな事業承継のために、株式の完全所有を目指す
「持ち株比率が2/3以上あれば大丈夫でしょう」
このように考える方も多いですが、実際にスムーズにM&Aによる会社売却、事業承継をする時の持ち株比率は「9割」以上が望ましいです。
なぜならば、9割以上持ち株を持っていれば、万が一会社の売却で異義を持つ少数株主がいたとしても、特別支配株主の株式を強制的に取得できる権利を行使でき、株を取得することができるからです。
つまりスムーズな事業承継を実現するには、十分な支配権を所有する必要があるのです。一般的には、2/3以上の株式を所有していれば経営権がありますが、可能な限り多く保有する、100%と完全所有することが望ましいといえるでしょう。
もし株式が分散して事業承継に支障が出る場合、以下4つの手法を参考にしてみてください。
1.株主から株式を買い集める方法
スムーズに事業承継ができる株式を所有していない場合、分散していた株式を株主から買い集める方法があります。しかし、株価が高い、会社の売上が好調な場合、売却を断る株主もいることを認識しましょう。また、株主から株を買い集めるとなると、十分な資金も準備する必要があります。
2.遺留分減殺請求用に「無議決権株式」を発行する方法
遺留分とは、法定相続人の権利を保障することをいいます。たとえば、遺言書で会社を後継者にすべて相続させると書いても、他の法定相続人はこれに従わない場合も考えられます。そうすると、相続を受けていない法定相続人は遺留分減殺請求をすれば、株の分散に繋がるリスクが出てきます。
遺留分減殺請求の対処方法としては、「無議決権株式」を発行する方法があります。わかりやすくいうと、株の価値はありますが、議決権はない株式のことです。そうすることによって、遺留分減殺請求をした法定相続人にきちんと株式が渡り、会社の経営には支障が出なくて済みます。
3.相続人から株式を買い集める方法
遺言書がないなどの理由によって、株式が相続人に分散してしまった場合、相続人から買い集める方法があります。この場合も、株式を買い集める資金の用意が必要あるのと、相続人のうちに売却を断る人がいた場合、別の方法を考える必要があります。
4.拒否権ありの株式(黄金株)を後継者に保有させる方法
黄金株とは、会社の買収、合併など重要な議案の否決権を持つ株式です。こちらの株を発行して後継者に保有させることによって、後継者はほぼ確実に支配権を所有することができます。
またM&Aの売却価格は、会社の評価価格に対して、将来見込まれる利益として「営業権」などを加味して売却価格に上乗せされます。会社の経営を支配することができる株式の取得する際、「支配権プレミアム」といって、この支配権に対して一定の価格が支払われます(=支配権プレミアム)。コントロールプレミアムとも呼びます。つまり、会社を支配できる株式を持つことで、高く会社を売却することができるといえるのです。
まとめ
持ち株の比率によって、議決できる項目が異なります。M&Aを検討している方、事業承継の事前準備を検討している方は、きちんと自分の持ち株の権限について把握し、会社を支配できる株式として足りない場合、余裕持って株式の買い集めなど対策を立てましょう。