ピロリ菌により罹患リスクの高まる胃潰瘍や胃がん。どちらもピロリ菌検査が予防の一歩であり、また他の胃の病気と共通する症状があるからこそ、きちんと受診し適切な処置を受けることが重要です。今回は、胃潰瘍の諸症状や胃がんの早期治療の重要性について解説します。※本記事では、藤田胃腸科病院理事長・院長の本郷仁志氏が、胃腸の健康に関する正しい知識や、氏が普段の診療の中でアドバイスしている健康維持の秘訣等を紹介します。

ピロリ菌に感染している人は胃潰瘍が起きやすい⁉

【心得その1】

胃潰瘍の予防の近道は「ピロリ菌検査」にあり

 

胃潰瘍とは胃の表面が深く傷つき、ただれた状態になること。胃酸によって胃の粘膜が溶かされてしまうことなどから起きる病気です。

 

胃は粘液をバリヤーとして胃酸から身を守っているという話をしましたが、何らかの原因で胃粘液の分泌が少なくなり、胃を守る力が弱まると、胃は自らの胃液で傷ついてしまいます。

 

胃潰瘍の主な原因としては「ピロリ菌」と「非ステロイド性抗炎症薬」「ストレス」が挙げられます。

 

ピロリ菌に感染している人は胃の粘膜に炎症が起こり、それに伴って胃粘液の分泌が減ります。結果として胃潰瘍が起きやすくなるわけです。

 

もう一つの非ステロイド性抗炎症薬ですが、この薬は熱を下げたり、痛みを鎮めたり、炎症を抑えたりすることを目的に服用されるものです。ただ、胃の粘膜を保護するプロスタグランジンという物質を抑えてしまうので、胃の粘膜が胃酸によって傷つきやすくなります。

 

非ステロイド性抗炎症薬でよく処方されるのは、アスピリンやロキソプロフェンなどです。

 

胃潰瘍になると、みぞおちのあたりに鈍い痛みを感じるようになります。空腹時に痛みを感じる人が多く、食事を取れば症状が軽くなることがあります。ただ、なかには食後に痛みを感じる人や痛みをまったく感じないという人もいるので、ひとくくりには語れない病気です。

 

痛みのほかにも、胸焼けや吐き気、ゲップなどの症状があります。胃の病気ですから、機能性ディスペプシアなどに共通する症状が多いというわけです。だからこそしっかりと受診をして、自分が何の病気にかかっているのかをハッキリさせることが大切だともいえます。

 

胃潰瘍が悪化すると、潰瘍部分の出血から、血を吐いたり、吐いたものに血が混じったりということも。また、血の混じった真っ黒な便が出てくることもあります。

 

ここまでくるとさすがに「放っておいてもそのうち治まるだろう」とのんびり構えてもいられません。すぐにでも診察を受けてください。

 

厚生労働省の調査によると、胃潰瘍の人は約30万人(平成26年)。ピーク時の平成5年が約120万人ですから激減したといえます。

 

一番の理由はピロリ菌の感染者が減ったこと(除菌をした人も含みます)。ほかに消化性潰瘍に効く薬が出てきたことなどが挙げられます。

 

胃潰瘍の検査には内視鏡とバリウムを用いるエックス線検査がありますが、私は内視鏡での検査を強くお勧めします。内視鏡のほうがより精度の高い検査ができるうえに、出血を伴っていた場合は止血処置も行えるからです。

「早期胃がん」は適切な処置を施せば助かる確率が高い

【心得その2】

早期発見なら「胃がん」だって怖くない

 

胃がんに関しては1冊の本が書けるほど情報が豊富にあり、実際に、書店に足を運べば、胃がんに関連した書籍が数多く並んでいます。

 

この病気に関して私が何よりも多くの人に知ってほしいこと。それは、「胃がんは(早くに見つけさえすれば)助かる病気」ということです。決して恐れるべき病気ではない、ということを特に強調したいと考えています。

 

胃がんが部位別死亡数で3位ということにはすでに触れました。多くの人にとって胃がんは恐怖の対象でしかないでしょう。しかし、怖いからといって目を逸らしていては、助かるものも助からなくなってしまいます

 

恐れずに直視すれば、安心できる情報もたくさん目に入ってきますから、まずはしっかりと見据えることから始めましょう。

 

胃がんには早期がんと進行がんがあり、両者の違いは「胃のどの部分までがんになっているか」によります。

 

胃は5つの層から成り立っています。一番内側が「粘膜」です。順に、外側に向かって「粘膜筋板」「粘膜下層」「固有筋層」「漿膜(しょうまく)」となります。

 

胃がんはまず、一番内側の粘膜に生じます。その後、徐々に大きく深く広がっていきますが、粘膜から粘膜筋板、粘膜下層までのものが「早期胃がん」、それより先(外側)の固有筋層、漿膜(外)まで広がっていると「進行胃がん」となります。

 

早期胃がんのうちに適切な処置を施せば恐れる必要はほとんどありません。図表2のデータによると、早期胃がんの3年生存率は96.1%。5年生存率は94.9%となっています。

 

生存率とは、治療後、一定の年数が経過しても生存している人の率を意味します。3年生存率なら100人のうち96.1人が、5年生存率なら94.9人が生きているということは、ほぼ全員の胃がんが治ると考えていいでしょう。

 

一方、これをステージⅢ以降の進行がんで見ると、3年生存率、5年生存率ともに急激に減少します。早期治療がいかに大切かを実感していただけるはずです。

 

国立がん研究センターの統計より
[図表1]胃がんの発生 国立がん研究センターの統計より

 

注)ステージⅢは、胃壁外浸潤、リンパ節転移   ステージⅣは、遠隔転移等のあるもの 国立がん研究センターの統計より
[図表2]胃がんの生存率 注)ステージⅢは、胃壁外浸潤、リンパ節転移
  ステージⅣは、遠隔転移等のあるもの
国立がん研究センターの統計より

 

胃腸づくり50の心得 悩める現代人へ、専門医が贈る正しい胃腸の知識と守り方

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本郷 仁志

幻冬舎

食物繊維の取りすぎで便秘が悪化⁉ 間違った情報をうのみにしていると不調が引き起こされることも…。阪府高槻市で50年間にわたり地域の健康を守り続けてきた専門医による胃腸のバイブル。年間1万2000件の内視鏡検査を行う藤田…

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