部位別死亡数3位は胃がん「ピロリ菌の脅威」への認識不足か?

ピロリ菌と胃がんの関係性が明らかになっていながらも、胃がんは日本の部位別死亡比率の多くを占めています。今回はその理由について見ていきます。本記事では、藤田胃腸科病院理事長・院長の本郷仁志氏が、胃腸の健康に関する正しい知識や、氏が普段の診療の中でアドバイスしている健康維持の秘訣等を紹介します。

衛生環境が改善された現代でも感染するリスク

40代以上は、ピロリ菌保持者の可能性を疑うべし

 

もちろん、ピロリ菌に感染した人すべてが胃がんになるとは限りません。感染していても症状が出ない人も少なくはないのです。それでも「脅威」として考えるか考えないかは大きな分かれ目といえるでしょう。

 

「でも、自分の周りでピロリ菌に感染している人は聞いたことがないけど?」

 

と楽観的に考える人もきっといるはず。しかし、具体的な数字を出せば、日本人でピロリ菌に感染している人は約3500万人といわれています。「自分は感染しているはずがない」と楽観できるレベルの数字ではないということです。

 

また、若い人には少なく、10代から30代は3~15%程度といわれています。上下水道の普及が十分ではなかった時代に生まれた中高年以上の方に感染者が多いという事実があり、このことから幼児期の衛生環境によって感染率が高まることが指摘されています。

 

だからといって「自分は若いから大丈夫」と思うのは賢明ではありません。以前、当院に17歳の患者さんが胃カメラおよび(できれば)ピロリ菌の検査を受けたいと受診されたことがあります。「若いのに珍しいな」と思って理由をうかがったら、お兄さんを胃がんで亡くされたからとのことでした。

 

その患者さんのお兄さんは19歳で発症し、20歳で亡くなったそうです。近しい家族が胃がんで亡くなると、ピロリ菌検査の重要性が身にしみて感じられるはずです。

 

ピロリ菌に感染するのは、免疫機能が未熟な5歳までとされています。その期間内に感染してしまうと、そのまま定着し、除菌をするまで胃の中に定着し続けると考えてください。

 

上下水道が普及し、衛生環境が改善されている今は安心・・・と言いたいところですが、ピロリ菌は経口感染です。例えば、おじいさん、おばあさんが、お孫さんに口移しで食べものを与えたりした際に、意図せず感染させてしまうということもあるのです。

 

当人にとっては愛情表現かもしれませんが、実は胃がんの種を植え付けているのと同じこと。乳幼児を持つ方は特に気を付けるようにしてください。ピロリ菌を次の世代に伝えないことは、高齢の世代の責任なのです。

ピロリ菌検査は低負担・高精度で受けられる

【心得その12】

「いるかどうか」はすぐに分かる。ピロリ菌を確認すべし

 

では、自分がピロリ菌に感染しているかどうかを知るにはどうすればいいのか─。幸いなことに検査方法は6種類もあります。大きくは「内視鏡を使う方法」と「内視鏡を使わない方法」に分かれており、おのおの3つの検査方法が確立されています。

 

内視鏡を使う検査方法には「迅速ウレアーゼ試験」「鏡検法」「培養法」があります。これらは内視鏡で胃の組織を採取し、それをもとに調べるという検査方法です。

 

まず迅速ウレアーゼ試験。ここでいうウレアーゼとはピロリ菌が持つ酵素の一つです。この酵素はアンモニアを作り出すので、その有無によってピロリ菌がいるかどうかを判断します。

 

鏡検法は採取してきた胃の組織を染色して顕微鏡で観察する方法、培養法は胃の組織を培養してピロリ菌が増えるかどうかを調べる検査法です。

 

次に、内視鏡を用いない検査方法を見ていきましょう。こちらにも3つの方法があり、それぞれ「抗体測定」「尿素呼気試験」「便中抗原測定」という名称が付けられています。

 

抗体測定は、血液や尿を採取し、ピロリ菌に関する抗体があるかどうかを調べる方法です。尿素呼気試験では、検査用の薬を服用し、呼気(吐いた息)を調べてピロリ菌に感染しているかどうかを確認します。便中抗原測定は便を採取し、ピロリ菌に対する抗原があるかどうかを調べる検査方法です。抗原が見つかればピロリ菌の感染が疑われます。

 

私がお勧めするのは精度が高くて負担が少ない尿素呼吸法です。また、つけ加えるなら、どれか一つだけではなく、複数の検査を受けることが望ましいと考えています。そのほうがより正確な判断を下せるからです。なお、内視鏡検査を数多く経験している医師が胃の中を見ると、ピロリ菌がいるかいないか、かつては存在していたか否かといったことまで分かります。

 

検査でピロリ菌感染が分かったという人の約7割が人間ドックがきっかけというデータがあります。人間ドックでは健康保険が使えないので自費となりますが、次のいずれかが当てはまる人は、健康保険の適用対象となります。

 

・ピロリ菌による慢性胃炎の方

・胃潰瘍または十二指腸潰瘍の治療中または治療経験のある方

・胃MALTリンパ腫の方

・突発性血小板減少性紫斑病の方

・早期胃がんに対する内視鏡的治療後の方

 

ややハードルは高くなりますが、それでも受けないことで生じるリスクを考えると、ためらう理由はないはずです。まずは医師に相談してみてください。

 

[図表1]保険診療で認められている検査法

胃がんに怯えつつもピロリ菌という原因を知らない若者

<若い人の80%近くがピロリ菌と胃がんの関係を知らないという事実>

 

日立システムズの従業員約1万人を対象とした、ピロリ菌に関する意識調査を行ったデータがあります(芹澤宏、斉藤義正ら[JDDWおよび日本ヘリコバクタ学会2018]による)。一般の人がどれだけピロリ菌を知っているかを明らかにするための調査です。

 

[図表2]アンケートの調査結果

 

それによると、40%の人は「ピロリ菌が胃がんの原因になることを知らない」ということが分かりました。ピロリ菌という名前は聞いたことがあるものの、それがどういうものかは知らないという結果です。特に、早めに除菌すべき20~30代の80%近くが「名前を知っているのみ」「名前も知らない」という結果になりました。それに伴ってピロリ菌検査の受診率も低く、3人に2人は受けていないことも明らかになっています。

 

ちなみにピロリ菌の名前を聞いたことがあるという人の情報源の多くがテレビ番組でした。名前は耳に入ってきたものの、詳しい情報を知るまでには至っていないことがうかがえます。恐らく、こうした状況は日立システムズの従業員の方に限ったことではないでしょう。まだまだピロリ菌の情報は一般の人々に行き渡っていないのが現実のようです。

 

当院の患者さんに関していえば、ピロリ菌が胃がんの原因になっていることを知っている人は80%、検査を受けたことがある人は60%を占めました。胃腸科病院に通院するくらいですから、ピロリ菌に関する意識が高かったのだと考えられます。

 

それでもピロリ菌が胃がんの原因だと知らない人は20%、検査未受診の人は40%を数えます。医師の一人として、必要な情報はしっかり伝え、同時に啓発にも努めていかなければならないと実感しています。

藤田胃腸科病院 理事長・院長

1963年生まれ。1989年、大阪医科大学を卒業。2003年より藤田胃腸科病院院長に就任。2009年より理事長も兼務。2019年より、大阪医科大学臨床教育教授。胃腸科および内科の専門病院として「早期発見・早期治療により患者様の信頼に応える」を基本理念に、日々診療に励む。地域での啓発活動も積極的に行っており、セミナーやイベント、講演会等で発表多数。胃がん・大腸がん検診に長年携わり、大阪府がん対策推進委員、病院のある大阪府高槻市では胃内視鏡検診導入・検討委員長や高槻消化器疾患談話会代表世話人を務めている。

著者紹介

連載快食・快眠・快便を実現!不調・病気知らずの「胃腸」をつくるための心得

胃腸づくり50の心得 悩める現代人へ、専門医が贈る正しい胃腸の知識と守り方

胃腸づくり50の心得 悩める現代人へ、専門医が贈る正しい胃腸の知識と守り方

本郷 仁志

幻冬舎

食物繊維の取りすぎで便秘が悪化⁉ 間違った情報をうのみにしていると不調が引き起こされることも…。阪府高槻市で50年間にわたり地域の健康を守り続けてきた専門医による胃腸のバイブル。年間1万2000件の内視鏡検査を行う藤田…

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