需要が常に供給を上回る、京都の単身者向けマンション
京都には、旺盛な賃貸需要があります。一番の特徴として、賃貸需要が常に供給よりも大幅に上回っていることがあります。別の言い方をすれば「空室リスクが常に低く保たれている」わけです。では、なぜ京都ではこのような状況が生まれるのかを以下に解説していきます。
まずは、京都のマンションが実際にどのくらいの供給数なのかを見てみましょう。マンション販売戸数を見てみると、東京と比べて京都の供給戸数は大きく下回っています。東京都の一般的な分譲マンション(ファミリー向け含む)の供給戸数は、2016年から2018年までで年間1.5万戸前後で推移しています。
一方、京都市内の供給戸数はファミリーマンションを含めても約10分の1です。これは不動産経済研究所調べの数字ですが、東京との人口比が6分の1であるのに対して、供給戸数は10分の1以下という数値になっています。
面積40㎡以下のいわゆる単身者向けのマンションでは、東京は2018年で約1万2000戸の供給があったのに対して、京都市は約26分の1の457戸です。東京23区と比較すると、京都市の供給量は際立って少ないことが分かります。
美しい街並みを保全する厳格な建築規制「景観条例」
京都は東京と比べてなぜこれだけ供給戸数が少ないのか―その答えは、京都にある多くの世界遺産や国宝、重要文化財の存在が深く関係しています。
京都では、こうした歴史的建造物が至る所に存在しています。それに加え「京都」という街自体の歴史的価値を保つために、さまざまな努力が行われているのです。
例えば、京都の建築物には美しい街並みを保全するために非常に厳しい建築規制が設けられています。
京都市が1972年に日本で最初の景観条例・市街地景観条例を施行して以来、この規制は改正されるごとに厳しさを増しています。これだけ広い範囲に、これだけ厳しい建築制限がかけられている都市は、日本では恐らくほかにないでしょう。
京都市はおよそ1200年前につくられた平安京がベースになっています。三方を山で囲まれた盆地に市街地があり、市内を流れる桂川、宇治川、鴨川は南部で合流し、大阪湾へと続いています。これがまさに当時の首都に最良の場所として、都市計画がなされたわけです。
京都はその後、長い歴史を遡っても街全体が焼失するような大きな戦争の被害に遭っていません。従って1200年前の平安京の形がそのまま残って現在に至っており、平安京の町と今の町を重ね合わせるとほぼ一致します(図表3)。
通りの名称なども残されているので、歴史好きの人には地図を見るだけでもたまらない街となっています。
戦後、高度経済成長からバブル景気を経て現在に至るまで、京都以外の日本の大都市は軒並み開発の波にもまれ、その姿を大きく変えてしまいました。それは鎌倉、金沢、奈良など長い歴史を有する街でも例外ではありません。
京都が経済発展の波にもまれながらも、1200年前から続く古都の姿をここまで維持できたのは、悠久の歴史のなかで守られてきた都市としての価値、景観に重きを置いてきたことにあります。それを端的に表しているのが、まさに景観条例です。この条例による厳しい建築規制と、それを遵守してきた住民の努力が京都の世界有数の都市景観を保っている所以なのです。
では、その京都市独自の建築規制について詳しく見ていきます。京都市の観光地ブランド戦略に最も重要といわれているのが、2007年から実施されている「新景観政策」です。
京都市は、観光都市としてのブランド戦略の一環として、この歴史ある京都市の優れた景観を「守り、育て、50年後・100年後の未来へと引き継いでいく」という理念のもとに、建物の高さやデザイン、屋外広告物などを厳しく規制しています。これは「努力目標」ではなく、「町並みと不調和であれば建築済みでも撤去もある」という、徹底した「規制」です。
◆容積率制限
この政策のなかでは京都市独自の「容積率制限」が定められています。容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合で、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)とともに、どこの地域でも制限が設けられています。例えば、東京都では200~1300%の容積率の規制が場所によってかかっていますが、京都市は上限が700%です。
通常、新築マンション建設のターゲットになるのは近隣商業、商業、準工業の3つの地域ですが、商業地域の中心、最もビルが密集しているような地域でも容積の上限が700%であるうえに高さ制限もあるため、京都市では東京のような超高層ビルやタワーマンションを建てることはできません。
POINT
●京都は土地の高度利用を抑制する考えのため、市街地(商業地域)でも容積率制限が厳しい
●京都市内には幅員が狭い道路が多いため、容積率はさらに削られる
例)前面道路が6m、商業地域の場合→6×6/10=36/10(360%)
◆京都中心部の高さ規制
京都市にはこの容積限に加え、さらに厳しい「高さ制限」もあります。「京都の美しい景観を阻害するような建物を建ててはいけない」ということで、幹線道路、からすま丸通り、五条通りなどの幅員が広い大通りに面した一等地でも、建築物の高さは最大で31mまでに制限されています。
31mとは大体10階建て相当の高さです。京都市内はくまなく高さ制限がかかっているので、京都市内には11階以上の建物は建設できないということになります。図表6の黒線の地域、幹線道路に囲まれたこのエリアは「田の字地区」と呼ばれている京都市で一番の繁華街です。
田の字を作っている幹線道路沿いの土地の高さ制限は31m、少し中に入ると制限が厳しくなり15mになります。高さ15mというのは5階建て相当になりますので、かなり小規模な物件しか建築できません。
このような建築制限により高層マンションが建てられないため、京都は東京や大阪に比べて賃貸物件の供給戸数が大幅に少なくなっているのです。しかしながら、第1章で紹介したような好立地、かつ需要の安定性から見ると、物件価値は大変高いと言えるでしょう。
◆前面道路幅の問題
京都市は平安京がベースになっており、現在の市街や碁盤の目状に整った街路も、当時と大きくは変わっていません。ただ、街路が昔のまま残っているということは、道幅が狭いということでもあります。「道路幅」は今の建築基準においては容積率に密接に関係しているため注意が必要です。
現行(2019年5月現在)の建築基準法では、前面道路(敷地に接する道路)の幅員が12m未満の場合には、都市計画で定められた容積率と前面道路の幅員に対する容積率の算式で算出された数値の小さいほうが適用されます。その算式は用途地域により異なりますが、近隣商業地域や商業地域では、前面道路の幅員×0.6×100となっています。
商業地域で都市計画による容積率が700%と定められている場所でも、前面道路の幅員が6mの場合だと6m×0.6×100=360となりますので、容積率が360%の建物しか建てられません(図表6参照)。
前面道路幅員による算式
●近隣商業、商業、準工業、工業専用地域⇒(前面道路の幅員×0.6×100)
●その他(居住系)の地域⇒(前面道路の幅員×0.4×100)
京都市は軒並みこんなところばかりなので、狭い前面道路によって削られた容積率のなかで、いかに効率的にマンションを建てていくか、京都のマンション開発業者としては非常に頭を使うところです。