「優良物件」を獲得できるチャンスは非常に稀
京都では旺盛な賃貸需要がある一方、厳しい建築制限により賃貸住宅の供給が非常に絞られています。そのため、空室リスクが低く資産性が維持されやすいというメリットがある半面、投資家にとっては「供給数が少ないが故に、優良物件を手に入れにくい」というデメリットもあります。
この背景には、京都の地域特性という問題が関わっています。
そもそも、京都の不動産物件情報は京都の中だけで循環していて、あまり広くは出回りません。いい物件(割安な物件)があれば、まず業者や関係者が買って、差益をのせて転売するというのは他県でも同様だと思いますが、京都の場合は物件の絶対数が少ないので、その傾向が顕著だといえます。
一般の投資家、ましてや県外の人が京都でいい物件を手に入れられるチャンスは非常に稀です。これは、県外の投資家が京都不動産を探すうえでの大きなデメリットと言えるでしょう。
「新書大賞2016」を受賞し、発売1年足らずで24万部を売り上げた『京都ぎらい』(井上章一著・朝日新書)という本をご存じでしょうか。京都には中心部の「洛中」と周辺の「洛外」があり、本物の京都人を自負できるのは洛中育ちだけ、洛外である嵯峨出身の著者は、洛中の文化人からは「京都人」と認定されず、田舎者と見下された・・・。そんな苦々しい経験談をやや自虐を交えながら、京都人の持つ独特の選民意識と排他性について触れています。
この『京都ぎらい』が大ヒットしたのは、「京都が好きだ、憧れる」という方は多いけれども、半面、「京都人は排他的で何が本音か分からない」「プライドが高く付き合いにくい」「意地悪でちょっと怖い」といった感覚を持っている人が多いからなのかもしれません。「京都人は排他的」というのはある面では確かにそうで、京都の祇園などに行くと「一見(いちげん)さんお断り」の、どこが入り口なのか分からないお店がたくさんあります。
一見分からないが、知っている人は知っている――お客様か、それ以外の他人かの明確な線引きがあるのが京都です。例えば祇園で古くからあるお店の前を通り過ぎるとき、店主に「おおきに」と気軽に言えると、京都ではステータスが上がります。要は顔なじみであるということだからです。
ではこうした「希少な京都物件」、それも優良な物件を確実に購入するには、どうしたらいいのでしょうか。
不動産投資の観点から押さえる京都、3つのゾーン
京都不動産に対する認知が広がるにつれ、私のところでも他県から京都不動産に関する相談を受けることが増えてきました。そうした方のほとんどが、観光都市としての京都は知っていても、不動産投資という観点では、まだまだ京都をよく理解されていないようです。
そこで、ここからは土地勘のない人でもすぐに理解できる、京都市の不動産投資上の押さえ方について紹介します。
京都不動産は、京都市を中心に投資エリアを考えていきます。その中で、土地勘のない方でもすぐに京都市の地域特性を押さえるためには、京都市を3つのゾーンに分けて捉えると分かりやすいでしょう。
京都市は特性を踏まえた土地利用の展開を進めており、基本的な市域の活用として「保全」「再生」「創造」という3つのゾーニングを行っています。
まず京都市はこれまでに紹介したとおり、南を除く東山、北山、西山の三山に囲まれており、北部とこの三山周辺が「保全」のゾーンとして位置付けられています。
この「保全」ゾーンは、三山を中心に文化財や史跡の点在する山ろく部、山間部です。景観に恵まれた地域一帯の自然と歴史的な景観を保全すると共に、良好な居住環境の保全・向上や文化、学術、研究機能の集積を図るゾーンとされています。
次に市街地のある市の中心部は「再生」ゾーンとして位置付けられています。京都市内は伝統的な京町家が多く残っていながら、一方で商業機能の集積地です。歴史と伝統のある京都市内の良さを残しつつ、再開発(再生)を図っていくゾーンとされています。
そして最後に「創造」ゾーンと位置付けられるのは市の南部です。この地域は市中に比べるとまだ新たな開発余地が残っている地域で、これからの京都の活力を担う創造の街づくりを進める地域として、今後開発が加速していくと考えられます。
不動産投資の観点からすると、この3つのゾーンのなかでまず押さえたいのは「再生」に位置付けられている市街地となります。京都に本社を置く大手優良企業の会社員や学生といった単身者は、この地域に集中しています。
投資適格エリアの基準は「平安京の内側」
京都の不動産投資でターゲットにすべきは、社会人と裕福な学生といった単身層です。この両方を取り込める場所はどこかと言えば、「再生」ゾーンの市内中心部地域です。
京都市内で一番資産価値の高いエリアは、京都市のど真ん中に位置し、ビジネス街となっている「田の字地区」と呼ばれる場所です。田の字地区については、このあと改めて紹介します。しかし最近の傾向としては、新規開発案件は市内中心部から徐々に西側に立地が移行しています。また、先にも述べたように南側の開発も今後目を離せないところです。
しかし市内中心部は、旺盛なインバウンド需要によるホテル業界の進出などで、ここのところ地価は高騰してきており、レジデンスの新規開発をするのは容易ではありません。また、せっかくの開発用地も厳しい建築制限があるため、高騰する地価に対して採算の合う開発を手掛けるにはしっかりとした投資計画が必要です。そのため、こうした厳しい条件をクリアして建設されるマンションはかなり優良物件である可能性が高く、市内で新規の物件が出れば、ほとんど買いといってもいいでしょう。
とはいえ、市中物件のどこまでを検討範囲とすべきか、ある程度の目安がほしいところです。そこで、一番分かりやすいエリアの目安としては「平安京の内側」を意識して投資エリアを絞るのが良いでしょう。
21世紀の現在に、平安京を基準にするなんて、と思うかもしれませんが、京都の街は平安建都以来、1200年を経た今も平安京造営の際の碁盤目状の道路、街区構成の上に成り立っています。
この平安京の内側のエリアは今でも非常に栄えている地域です。794年に桓武天皇によって遷都された平安京は、東西4.5㎞、南北5.2㎞の長方形に区画造営されています。
平安京の街区は、北端は東西に延びる「一条大路」を境に、東は南北に流れる鴨川の手前「東京極大路(ひがしきょうごくおおじ)」まで、西は「西京極大路(にしきょうごくおおじ)」です。これを現在の京都市に重ねれば、北は北東に位置する京都御所の半分くらいまで、東はやはり鴨川より西側まで、西端は山陰本線の「花園」駅、地下鉄の「太秦天神川(うずまさてんじんがわ)」、阪急京都線の「西京極」あたりまでとなります。
京都市で最も資産価値が高いのは「田の字地区」
先ほども少し触れましたが、京都市で一番資産価値の高いエリアは「田の字地区」と呼ばれるエリアです。田の字地区とは、北は御池(おいけ)通、南は五条通、西は堀川通、東は河原町通、この通りに田の字を描くように囲まれた地域を指します。
この地区はここ数年でバブルと言っていいほどの値上がりを見せ、分譲された新築マンションも即完売するほどの人気です。価格も高いので利回りは出ませんが、資産価値が落ちにくく、空室リスク、家賃の値下がりリスクも低いのでチャンスがあればぜひ購入しておきたいエリアです。
まず田の字地区の中でもど真ん中に位置する「烏丸」エリアは京都のビジネス街として中心的な場所です。金融機関やオフィスビルが集中していて、有名百貨店などの商業施設も集中しています。
東西に走るのは「四条通」で、この下を阪急京都線が通っており、「烏丸」駅があります。そして四条通と南北に走る烏丸通の交差するのが「四条烏丸」の交差点で、南北に延びる地下鉄烏丸線の「四条」駅もあります。
次に田の字地区のど真ん中「烏丸」から東に鴨川手前に位置するのが、「河原町」エリアです。阪急京都線のターミナル「河原町」駅を中心としたこのエリアは、京都の市街地のやはり中心部で、烏丸から四条通をずっと河原町まで繁華街が続いています。さらに鴨川の風景が相俟って風光明媚なスポットとして観光客にも人気のエリアです。四条と河原町通の交差する四条河原町の交差点は、平日でも観光客でいっぱいです。
田の字地区は東京などと比べても非常に地価が高く、限られた場所しかないためにほとんど新規の建設余地がありません。そのため、もし田の字地区の収益物件に出会えれば非常に幸運です。このエリアは、富裕層のセカンドハウスとしての高級マンションなど、坪数百万円という販売価格でマンションが売り出されるケースが多くなっています。