相続した異なる不動産の評価額が同じであればいいが…
相続が発生したときの揉め事の中で、いちばん多いのが不動産に関するものです。
相続財産が現金だけであれば、相続割合に応じて均等に分けることができますので、揉めることは少ないのですが、不動産が絡むと均等に分けることが難しくなるため、揉めることが多いのです。
たとえば、子供たちが相続する不動産が、親の住んでいた家だけとしても、
「その家を誰が相続するのか?」
「誰が住むのか?」
「共有にするのか?」
「売却するのか?」
「誰かに貸すのか?」
といった問題が発生しますので、話し合いがまとまらなければ揉めることになります。
しかし、それ以上に揉めるのが、不動産がいくつもある場合です。
両親の自宅のほかに、田舎に土地があったり、別荘があったり、マンションがあったりする場合、誰がどれを相続するかで揉めるケースがほとんどです。兄弟が2人いて不動産が2つあった場合、2つの不動産の評価額が同じであれば、揉めることは少ないでしょうが、そういうケースはまれです。
たいていの場合は、不動産の評価額に差が出ますので、不動産を1つずつ相続した場合は、必ず評価額の低いほうの不動産を相続する人から不満が出ることになります。
このとき、差額分を補てんする現金があればいいのですが、それがない場合は揉めに揉めて、最後には不動産を全部売って現金に変えて均等に分けようという話になることもあるのです。
したがって、不動産がいくつもある場合は、親が元気なうちに、誰にどの不動産を相続させるかを決めて、子供たちに言い含めておくか、遺言書に書いておく必要があるでしょう。
そうしないと、相続が「争続」になり、それまで仲の良かった兄弟姉妹が相続を機に険悪な関係になることがよくありますので、できるだけ不満が出ないように、親が決めておくことが重要なのです。
親が元気なうちに「不動産の実勢価格」を調査すべき
相続が発生した場合、不動産の評価額は路線価を基準とした相続税評価額で計算し、それをベースに相続財産を決めるのが一般的です。
たとえば、都内にある50坪の自宅の相続税評価額が3000万円で、地方の300坪の別荘の相続税評価額が2000万円だった場合、この金額をベースに財産の分け方を決めるわけです。
ところが、じつはこの相続税評価額が実勢価格(実際に売れる価格)と合っていないケースがほとんどで、これが「争続」の火種となるのです。
先ほどの例で言うと、相続税評価額3000万円の自宅を兄が相続し、弟が相続税評価額2000万円の別荘を相続し、差額分の1000万円を弟が現金でもらったとします。
これで2人とも納得するわけですが、弟が別荘を販売しようとして不動産会社に査定してもらったときに、問題が表面化するのです。
というのは、別荘は相続税評価額よりも実勢価格のほうが低いからです。場所にもよりますが、近年、別荘の値下がりが激しく、弟が相続した別荘の実勢価格も500万円くらいです。
さらに言うと、兄が相続した都内の自宅は、実勢価格のほうが高いケースがほとんどで、実勢価格は3500万円くらいです。
つまり、実勢価格で比較すると、2人が相続した不動産には3000万円もの差があったというわけです。そして、このことがわかった瞬間、2人の兄弟の関係は最悪になるのです。
では、このようなことが起こらないようにするためには、どうすればいいかというと、相続の際に不動産の評価を、相続税評価額ではなく、実勢価格で計算することです。そのためには、不動産会社に査定してもらうことです。
税理士は、相続税評価額は出せますが、実勢価格はわかりません。不動産鑑定士は、鑑定理論に基づいて不動産の価値を正しく算定できますが、それが実勢価格と合っているかというと、一概にそういうわけでもありません。
ただ、なかには不動産業をやっている不動産鑑定士もいますので、そういう人に頼めば実勢価格がわかります。
不動産の実勢価格は、相続が発生してから不動産会社に査定してもらってもいいですが、できれば親が元気なうちに、所有している不動産の実勢価格を調査しておくことをおすすめします。