「自宅もその他の財産分も取得する」と主張する長男
高齢の父親が交通事故により亡くなり、子供である5人兄妹を相続人とする、相続が開始しました。
交通事故に関しては、相手方の保険会社より相応の金額が支払われ、特に問題は生じませんでした。
遺産として、土地・建物(約1,500万円相当)、預貯金(合計約5,500万円)、出資金(約800万円)があり、これに交通事故の保険金(約3,000万円)を加えたものを兄妹5人で分けることになりました。
5人はいずれも同一県内に住んでおり、長男が最も父親に近い場所に暮らしていましたが、実際に父親の面倒をみていたのは長女と次女でした。
当初から、長男を除く4人は、土地・建物を売却してお金に換えた上で、法定相続分どおり5分の1ずつ取得するということで意見が一致していました。
しかし長男は、別途持ち家があるにもかかわらず、「土地・建物は売らずに自分が取得する。さらに、その他の財産分も取得する」といって譲らず、父親の死後1年以上が経過しても合意できない状態が続いていました。
弁護士から長男の話を聞いてみたところ…
そこで弁護士が介入し、長男の説得を試みました。
本来であれば、生前父親の面倒をみてきた長女と次女は、長男に対して、法定相続分以上の財産をもらいたいくらいだという思いだったことでしょう。しかし、それを譲歩してきっかり平等に法定相続分だけでよいといっているので、その意を汲んでもらいたいとも弁護士から伝えました。
しかし一方で、長男の話をよくよく聞いてみると、長男は父親の自宅に深い思い入れがあることが分かりました。自分の子供達が大きくなったあと、自分がそちらに移って住みたいと希望していたのです。
そうした長男の気持ちを、弁護士から長女らに伝えたところ、そのような希望を持っているとは知らなかったということでした。
結局、土地・建物は売却せずに長男が取得し、その他の財産については兄妹5人が法定相続分どおり5分の1ずつ(長男の分については土地・建物の価値相当額を引いた金額)を取得するということで、分割の合意がととのいました。
本事例からも分かるように、相続の際には相手の真意までを確かめることが重要となります。いざとなってみると、相続の取り分ばかりの話をしてしまい、お互いに分かりあうための話し合いが抜け落ちてしまいがちです。冷静に、お互いの意見を交し合うことから始めてみましょう。