誰もが不安を抱えながらこなしている子育て。なかでも子供が直接口にする「離乳食」は、作るのも与えるのも大変で、ストレスを感じやすいポイントです。そんななか「離乳食は作らなくてもいいんです」と言っているのが、小児科医であり2児の母である工藤紀子氏。手作りの離乳食が一般的であるなか、なぜ、市販の離乳食を推奨するのでしょうか。本連載では、そのような考えに及んだ経緯と、実際に市販の離乳食を活用した子育てについて解説していきます。今回は、日本の離乳食事情と課題について説明します。

鉄不足になりがちな日本の赤ちゃん

娘のときは、離乳食作りに四苦八苦し、挙句の果てには、ストレスが頂点に達し、娘のお尻をパチーン。一方、アメリカで出産・子育てをした息子の時は、充実したアメリカの市販の離乳食事情に、親子ともども笑顔で食事を楽しみました。

 

「離乳食は無理に作らなくてもいいんですよ」

 

「市販の離乳食を活用しましょう」

 

ママたちを苦労から解放できると意気揚々と帰国しましたが、日本の事情は少々変わっていました。

 

小児科医として勤務しているなかで、どこかモヤモヤすることがありました。しばらくして、その理由がわかりました。それは生後7ヵ月の赤ちゃんがたまたま採血をすることがあり、採血の結果を見てママに「お子さんは鉄不足なんで、気を付けてくださいね」と話をしたときのことです。

 

そのママ、どこか釈然としない表情で帰っていきました。そのとき、ふと思ったのです。

 

「わたし、鉄不足に気を付けてと言ったけど、どうしろというんだろう」

 

日本では、6ヵ月前後で離乳食をはじめ、鉄を多く含む赤身の肉類は9ヵ月前後であげましょうと指導しています。日本では、生後6ヵ月の赤ちゃんの鉄不足を離乳食をもって解決することは難しいのです。

 

「鉄を制するもの、育児を制する」といってもよいくらい、鉄は成長に欠かせない大事な栄養素です。鉄には主に「体中に酸素を運ぶこと」「エネルギーを効率よく手に入れること」「心のバランスを保つこと」といった、3つの役割があります(関連記事:『子どもに食べさせたい!離乳食期に必要な栄養素』)。

 

鉄が不足すると身体中が酸欠状態になり、脳が酸欠だと頭が痛くなり、筋肉が酸欠だと疲れやすくなります。食べ物からのエネルギーを効率よく手に入れることができないと、体も大きく育ちにくくなります。心のバランスを保てず、癇癪を起こしやすくなったり、グズりやすくなったりします。鉄欠乏が言語機能、視覚認知、空間記憶など学習機能、運動機能に影響を及ぼすということは広く知られています。

 

ではこの鉄不足、一体いつから起こりうるのでしょうか。

 

「正期産で生まれた赤ちゃんは、生後早期の月齢では必要量を十分に補えるだけの鉄分を持って生まれるが、この貯蔵鉄は生後約 6 カ月までに使い果たすため、生後 6 カ月以降は鉄を含む補完食が必要となる」と2000年にWHO(世界保健機関)で報告されています。(補完食とは離乳食のことです)日本でも、2019年3月、厚生労働省が出している『授乳と離乳の支援ガイド』が12年ぶりに改定され、「母乳育児の場合、生後6ヵ月の時点で、ヘモグロビン濃度が低く、鉄欠乏を生じやすいとの報告がある」(同ガイド32ページから抜粋)と記載がされるようになりました。

世界では生後6ヵ月と推奨、日本では…

では鉄不足にならないようにするには、どうすればいいのでしょうか。6ヵ月から1歳の子の場合、日本では1日に必要な鉄の量は5mgとされています。鉄を含む食材には、吸収率の高いヘム鉄のものと、吸収率の低い非ヘム鉄のものがあります。

 

吸収率が高いヘム鉄を多く含む食材には、レバーや肉、魚があります。肉や魚は、赤いほど鉄が豊富に含まれています。魚であれば、「カツオ」「マグロ」「イワシ」などがあります。

 

しかし肉や魚の与え始めは、離乳食の進め方によると目安として生後9ヵ月前後とされています。生後6ヵ月以降は積極的に鉄を摂取したいのに、国が推奨する基準に合わせると、鉄欠乏は避けられないのです。

 

では市販の離乳食で鉄を補給するとしましょう。残念ながら、生後6ヵ月程度を対象とする国産の離乳食は、鉄のことは考えられていません。肉や魚の摂取が、生後9ヵ月とされているためです。

 

わたしたちにできることは、「9ヵ月以降を対象とした製品でも、子どもが食べられるなら食べさせる」、または「鉄が添加されている海外の離乳食を使用する」「赤身の肉や魚を食べさせる」ということです。

 

海外のほとんどの先進国では、離乳食開始時から鉄を摂取するように指導され、衛生面の管理、添加物、農薬の基準なども厳しく設けられていますし、塩や砂糖は加えないようにしている国もあります。

 

6ヵ月以降は吸収率の高いヘム鉄を多く含む牛肉、豚肉、鳥もも肉、マグロ(ツナ)、カツオなどを少量ずつ与え、市販の離乳食を活用するなら生後9ヵ月以降対象の製品に、少しずつ慣れさせていきましょう。

子供の一瞬一瞬の成長を見逃さないために

鉄は子供の発育にとって、重要な栄養素です。欧米諸国や東南アジア、南米の各国では、主食の小麦や米、トウモロコシなどの原料にあらかじめ鉄を添加しています。またアメリカでは栄養の教育も進んでいて、鉄がいかに重要かを、子供でも知っています。

 

残念ながら、鉄の添加プログラムや鉄の積極的な教育が遅れている日本は、「鉄の後進国」といわざるをえません。そのため筆者がアメリカで実践した「離乳食を作らない子育て」は、日本製のものだけで、日本の基準で遂行するには今の日本では難しい環境にあります。

 

しかし離乳食の時期に大切なのは「ご飯を食べるときの家族の笑顔」です。食事の際に「笑顔」で満たされると、赤ちゃんは「食べることは幸せなことなんだ」と理解し、食事を楽しむようになります。

 

大切なのは家族が「笑顔」でいられること
大切なのは家族が「笑顔」でいられること

 

そのために市販の離乳食を活用していただきたいのですが、それでも自分がいっぱいいっぱいになる時が来るとおもいます。そんな時は、周りの誰か信頼できる家族や友人、一時預かりのサービスを利用して、短時間で良いので子どもを預けてみましょう。自分のための時間を持つと心が軽くなって、子供と向き合えるようになることがあるからです。

 

ポイントは、辛くなってから預け先を見つけるのではなく、辛くなる前に辛くなった時用に準備をしておくという点です。少し話しは逸れますが、預けた後のオススメの行き先は美容室です。久しぶりに頭を洗ってもらう、ちょっと素敵にしてもらう、と気持ちがぐんと上がりますよ。

 

乳児期の赤ちゃんは、人生のなかで一番成長します。生まれたときの体重が約3キロ、身長が50cmだったのが、1歳半には体重は約10キロ、身長は約80cmになります。泣いて寝てだった赤ちゃんが、ママ、パパと言うようになります。コロンと寝ていた赤ちゃんが一人で歩くようになるのです。そして昨日できなかったことが今日できるようになります。

 

そんな瞬間を、涙をためて見逃すことは、非常にもったいないことです。「できた、できた!」とたくさん喜んで笑顔で過ごせるようにと願っています。

 

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