海外移住等で注意すべき「国外転出時課税制度」
◆国外転出時課税の概要
国外転出時課税とは、有価証券等の資産を1億円以上持っている一定の方が国外に転出する際に、その資産を譲渡又は決済したとみなして所得税及び復興特別所得税を課税する制度です。まずは、対象者・対象資産・申告手続き・納税方法について詳しく説明していきます。
●対象者
国外に転出する際、下記の両方に該当する方が対象になります。
① 所有等している対象資産の合計額が1億円以上
② 原則、国外に転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している
●対象資産
有価証券(株式・投資信託等)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・発行日取引・デリバティブ取引が対象となります。
●申告手続き
納税管理人の届出をするかしないかで申告の手続きが変わってきます。納税管理人とは、国外に転出する人に代わって税務署からの通知を受けたり、確定申告を行ったりする人のことを指します。
・納税管理人の届出を国外転出までにしている場合
国外転出時の価額で対象資産を決済したものとみなします。算出した利益の額又は損失の額に相当する金額の合計額で、翌年の確定申告期限までに申告します。
なお、国外転出予定日から起算して3ヵ月前の日から国外転出までに新たに対象資産を取得又は契約した場合は、取得時又は契約締結時の価額で対象資産を算定します。
・納税管理人の届出を国外転出までにしていない場合
国外転出予定日から起算して3ヵ月前の日の価額で、対象資産を決済したものとみなします。算出した利益の額又は損失の額に相当する金額の合計額で、国外に転出するまでに申告しなければなりません。
なお、国外転出予定日から起算して3ヵ月前の日から国外転出までに新たに対象資産を取得又は契約した場合は、取得時又は契約締結時の価額で対象資産を算定します。
届出を出せば、納税まで5年間の猶予が与えられる
◆納税猶予制度
国外転出時までに「納税管理人の届出書」を提出した方は、一定の要件の下、国外転出時課税の適用により納付することになった所得税及び復興特別所得税について、国外転出の日から5年を経過する日まで納税が猶予されます。
●納税猶予の特例の適用を受けるための要件
確定申告期限までに、一定の書類を添付した確定申告書を提出し、かつ、納税猶予分の所得税及び利子額に相当する担保を提供する必要があります。
◆納税猶予期間中の手続きについても注意!
納税猶予期間中は、各年12月31日において所有等している適用資産(納税猶予の特例を受けている対象資産)について、(1)適用資産の種類、(2)名称、(3)銘柄別の数量等を記載した「継続適用届出書」を、同日の属する年の翌年3月15日までに、所轄税務署に提出する必要があります。
なお、提出期限までに提出しなかった場合、その期限から4ヵ月を経過する日に納税猶予期限が確定してしまいます。納税猶予されていた所得税及び利子税を納付することになるので、必ず、期限内に届出書を提出してください。
これらの手続きにより、納税猶予期限を5年延長することが可能になります。そして、「延長届出書」を国外転出の日から5年を経過する日までに所轄税務署に提出すれば、延長することができます。
◆各種減額措置等
国外転出時課税にはいくつか納税額を減額等する措置が認められています。また、減額措置には、上記で説明した納税猶予を受けている場合に使えるものと、納税猶予を受けていなくても使えるものがあります。
●納税猶予の特例の適用を受けていることが条件になっていないもの
国外転出日から5年を経過する日(期限延長をしている場合は10年を経過する日)の期間で、帰国する時まで引き続き所有する対象資産等(※)について、国外転出時課税の適用がなかったものとして、国外転出をした年分の所得税を再計算できます。
再計算するためには、帰国等をした日から4ヵ月以内に更正の請求をする必要があるので、注意してください。
※引き続き所有する対象資産又は贈与、相続若しくは遺贈により移転した対象資産等
●納税猶予の特例の適用を受けていることが条件になっているもの
下記に掲げる場合に該当する時は、減額措置等を受けることができます。ケースごとのフローチャートもあるので、併せてご覧ください。
辛島 政勇
中央会計株式会社/税理士法人中央会計 税理士