「子の数が増えると節税になる」と…養子縁組のトラブル事例

日本の相続税は、法定相続人が多いほど安くなります。そのため、養子縁組を活用した節税対策を行う富裕層もいます。しかしこの方法は、各相続人の取り分が減少するため、トラブルの種になりがちです。また、事情が変わって養子縁組を解消したくなっても、双方の合意がなければ難しく、万一負債がある場合は、相続人が背負い込むリスクもあります。本記事では、養子縁組によくあるトラブルや注意点を、WT税理士法人代表社員でベテラン税理士の板倉京氏が解説します。

ある御曹司の、代理母を活用した相続対策の例

以前、某通信会社の御曹司が海外で代理母を使い、16人もの子どもを出産させていたというニュースがありました。「毎年10人~15人ずつ子どもをもうけて、最終的には100人、1000人の子を持ちたい」という壮大な計画を立てていたといいます。噂では、相続税対策も目的のひとつだったとか…。

 

なぜ、子どもをたくさん持つことが相続税対策になるのでしょうか? それは、日本の相続税が「法定相続人が多いほど税金が安くなる」仕組みになっているからです。相続税の計算上、基礎控除や生命保険の非課税枠、また、相続税の総額を計算するときにも法定相続人の数が関係してくるのです。

 

では、資産70億と噂されるこの御曹司が、仮に100人の子ども(法定相続人)を持った場合、相続税はどのくらい節税できるのでしょうか。下記の図表1で数字を見てみましょう。

 

[図表1]相続人1人の場合と100人の場合の相続税額の違い

 

上記の図表1からもわかるように、彼の壮大な計画通り、子供を100人作ることができたなら相続税は約27億円も節税できる可能性があったのです。

 

とはいえ、このようなことは普通の人にできる芸当ではありません。その代わり、簡単に(?)法定相続人を増やすことができる方法として「養子縁組」があります。

 

では、養子縁組の節税効果について改めて具体例で見てみましょう。相続財産が5億円、実子1人のみの場合と、実子と養子がそれぞれ1人いる場合の比較です。

 

 (注)通常養子は相続税の2割加算の対象とはならないが、孫養子は2割加算の対象となる。    その孫が代襲相続人となっている場合2割加算はない。
[図表2]相続財産5億円、「実子1人」と「実子・養子各1人」それぞれの相続税額 (注)通常養子は相続税の2割加算の対象とはならないが、孫養子は2割加算の対象となる。
   その孫が代襲相続人となっている場合2割加算はない。

 

上記の図表2からもわかるように、養子縁組には大きな節税効果が見込めるのです。

昭和63年、行き過ぎた節税目的の養子縁組にストップ

民法上、養子縁組は何人としてもかまいません。「そんなに効果があるなら、たくさんの人と養子縁組すればいい」と思うかもしれませんが、相続税法では、普通養子については、法定相続人の数に含める人数に制限があります。

 

法定相続人の数に含める養子の数


①被相続人に実子がいる場合………1人まで

②被相続人に実子がいない場合……2人まで

 

しかし、相続税法上も民法と同様、養子縁組した人すべてを法定相続人の数に入れることができた時代もありました。

 

その時代であれば、冒頭の御曹司ではないですが、大量に子(養子)を持つことで大きな節税効果が期待できたのです。当時は租税回避目的の行き過ぎた養子縁組が散見されたといいます。なかには、亡くなる前日に5人もの養子縁組を行ったという強者もいたとか…。

 

このような行き過ぎた租税回避行為を防ぐため、昭和63年の改正で、相続税法上は法定相続人の数に含める養子の数に制限を設けることとなりました(この制限はあくまでも、相続税法上の話であり、民法上の養子縁組の効力や相続人としての権利を否定するものではありません)。

 

ただし、この制限人数の範囲内であっても、相続税の負担を不当に減少させる目的と認められる場合は、その養子の数を法定相続人の数に含めることはできないとされています。

 

具体的には、先ほどのように亡くなる直前に特段の理由もなく養子縁組を行ったとか、被相続人に意思能力がない時期に養子縁組を行ったようなケースが想定されます。それ以外でも、親子関係を築く意思がなく節税だけを目的にしている場合などの養子縁組は否認される可能性があるといえます。

養子縁組で困ったトラブル

養子縁組は確かに節税効果があります。自分で申請するなら、費用もほとんどかかりません(裁判所に支払う手数料は800円。その他戸籍謄本等の実費)。また、通常は孫などかわいがっている身内を養子にするケースが多いため、養子縁組に対する心的なハードルも低いといえます。

 

しかし、養子にするということは、法定相続人になるということ。節税になるだけではなく、財産を相続する権利も持つということです。つまり、もともとの法定相続人からすれば、自分の相続分が減る可能性があるということです。

 

自分のもらう分が減ることを喜ぶ人なんて、そうそういるものではありません。安易な養子縁組が思わぬトラブルを招く可能性はとても高いのです。

 

実際の事例を見ていきましょう。

 

 トラブル事例①  長男の子のみと養子縁組をしたため、長女・次女が大反発

 

Aさんは長男の子(Aさんの孫)を養子にしました。目的は節税です。Aさんには娘も2人いて、その娘にもそれぞれ2人ずつ子どもがいました。しかし昔気質のAさんは、遺産は長男が相続するものだと考え、2人の娘には相談もせず長男の子と養子縁組をしてしまいました。

 

いざ相続となったとき、はじめてこの養子縁組の話を聞いた娘2人は大激怒。「お父さんをだまして、財産を多く取ろうとした」と長男に詰め寄ったといいます。

 

確かに、家族のあり方にかかわる大切なことが、何の相談もなく行われれば、愉快ではありません。結果、遺産分割の話し合いがまったくつかない状態になってしまいました。

 

養子縁組には、ほかの家族への配慮が必要となります。養子縁組をする場合は、家族全員でしっかり話し合う必要があるのです。

 

 トラブル事例②  娘夫婦が離婚…元娘婿が養子縁組解消を渋るうちに相続発生

 

娘婿を養子にしたBさん。地主のBさんの子どもは娘1人のみでした。先祖代々の土地を守りたいという思いから、節税になるならと養子縁組を決めました。

 

娘婿も快く了承してくれたし、もともと子どもは娘1人ですから、遺産分けでモメるという心配もないと思っていました。

 

しかし数年後、この娘夫婦が離婚してしまったのです。娘と離婚したのだからと、元婿に養子縁組の解消を申し出たものの、のらりくらりとかわされ、なかなか手続きが進みません。そうこうしているうちにBさんが亡くなってしまい、元婿に一定の財産を渡すことになってしまいました。

 

養子縁組の解消は、簡単ではありません。ゆくゆくどんなリスクがあるか、その場合の対象方法は…ということも踏まえたうえで養子縁組を行うことが必要です。

 

 トラブル事例③  せっかく養子にした孫が、あわや大借金を背負うハメに…

 

夫と息子に先立たれたC子さんには、夫の連れ子で養子縁組をしている義理の娘が1人いました。しかし、この娘はお金にうるさく、底意地が悪いのです。自分の財産をその娘に取られると思うと腹が立ちますが、養子縁組の解消をいい出す勇気もありません。

 

そこで、亡き息子の子(C子さんの孫)を養子にすることで、義理の娘の取り分を減らそうと考えました。

 

代襲相続人である孫を養子にした場合、孫は代襲相続人としての法定相続分と養子としての法定相続分の権利を持つことになります。もちろん、遺留分に配慮した遺言書も残しました。C子さんの相続では、若干のいさかいはあったものの、遺言書通りに無事財産をわけることができたそうです。

 

しかし、この養子縁組が後々大問題に発展してしまいます。実はその意地悪な義理の娘には多額の借金があったのです。

 

義理の娘は独身。つまり、義理の娘が亡くなると養子になった孫がきょうだいとして、その多額の借金を相続することになるのです。幸いにも事前にその借金の存在がわかり、孫との養子縁組の解消をすることができましたが、知らなければ大変なことになっていました。

 

養子縁組は、相続税の節税目的だけではなく、C子さんのように遺産分割対策として利用するメリットもあります。また、同性カップルのなかには婚姻の代わりに養子縁組をする人もいると聞きます。

 

ただし、養子縁組は家族関係に重要な影響を及ぼす行為であり、養子縁組をしたことでほかの家族とのいさかいが起こる可能性があるということを踏まえ、慎重に検討していただきたいと思います。

 

 

板倉 京

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士 

成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒業後、保険会社勤務を経て、税理士資格取得。朝日税理士法人などで経験を積み、平成17年独立。
平成21年、女性開業税理士で組織された㈱ウーマン・タックスを設立、代表取締役就任。平成30年、WTパートナーズ株式会社に名称変更。「相続問題など、家庭やお金の問題には女性の視点が役に立つ」との思いから相続を中心に個人の資産に関する業務に力を注いでいる。税理士業務以外に、NHKあさイチなどのテレビ出演や、各種講演・セミナー、執筆活動なども精力的に行っている。一児の母。
主な著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)、『親と一緒に考えるかしこい相続』(日本経済新聞社)がある。

著者紹介

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