子どもへの車のプレゼントやマンションの格安売却、夫による妻名義のローンの肩代わり…。「家族だから」と軽い気持ちでしてしまいがちなこれらの行為も、法的には「生前贈与」となり、贈与税の対象になる恐れがあるため、十分な注意が必要です。WT税理士法人代表社員のベテラン税理士板倉京氏が、生前贈与の基礎知識をやさしく解説します。

自動車も財産、価格が110万円を超えれば贈与の対象に

Q 長男に自動車を購入…これって生前贈与になるの?

 

開業医のBさんは、1年前に500万円の自動車を長男に買ってあげたといいます。ちょうど、長男も孫の習い事の送迎用に車が必要だったし、Bさんとしても相続財産も減らすことができて、一石二鳥! と考えたのです。これは生前贈与にあたると思いますか?

 

A 自動車も贈与税の対象となります。

 

贈与というと現金や有価証券、不動産、貴金属をイメージする人が多いと思いますが、贈与の対象はいわゆる財産全般です。自動車も財産であり、基礎控除の110万円を超える自動車を子どもに買ってあげたのであれば、贈与税の申告が必要になります。500万円の自動車を買ってあげたのであれば、贈与税額は53万円となります。

 

「財産」の贈与以外にも、本来の価値よりも低い価格で財産を売買したような場合も、その差額分が贈与税の対象となることがあります。例えば、親の持っている時価3000万円のマンションを1000万円で子どもに売ったような場合、時価と売買価格の差額の2000万円が贈与税の対象です。本当は、3000万円出さなければ買えないものを1000万円で買わせてあげたということは、2000万円あげたということになる、というのが税務署の見解なのです。

 

「あげると贈与になってしまうから、安い値段で売ればいいのでは」と考えてこのような取引をすると、時価との差額相当分の贈与があったとみなされ、高い贈与税を払わされることになります。

夫による妻のローン返済で「定期贈与」指摘の可能性も

Q 「妻名義のローンを返済」は贈与に入る?

 

婚姻25年目のCさん夫妻5年前に古い家を取壊し、自宅を新築しました。夫婦で半分ずつの共有名義とするため、購入価格5000万円のうち2500万円分は妻名義で10年のローンを組みました。返済額は毎年280万円ですが、妻は専業主婦で収入がないので実際は夫がローンを返済しています。このローン返済額は生前贈与にあたると思いますか?

 

A 夫が妻名義のローンを返済した場合、返済相当額を贈与したことになり、贈与税の対象となります。

 

自宅を夫婦の共有名義にする場合、それぞれが持ち分の資金を自分で負担していれば何の問題もありません。

 

資金を出していない人の名義で不動産登記をすると、その時点で「資金を出した人から名義者への贈与」ということになりますが、この場合は購入時には妻の持ち分に相当する資金は妻の名義でローンを組んでいるので、購入時では問題はありませんでした。

 

問題だったのは、妻のローンを夫が返済していることです。贈与税は基礎控除(年間110万円)を超えた金額に対してかかります。仮に年間の返済額が110万円以下であっても、税務署から「定期金に関する権利の贈与(定期贈与)」などと指摘される可能性もあるかもしれません。

 

定期贈与とは、まとまった財産(このケースでは、ローンの残高2500万円)を一括で贈与する意図があったにもかかわらず、分割で何年にもわたって贈与する行為をいいます。

 

このような贈与は、税務上は2500万円のローンを夫が返すと約束して返済をスタートした時点で贈与税の対象となります。仮に2500万円が一括贈与とされた場合、贈与税額は970万円です。

 

年間の返済額が110万円以下でも、税務署から定期贈与を指摘される可能性が…
年間の返済額が110万円以下でも、税務署から定期贈与を指摘される可能性が…

「贈与税の配偶者控除」制度を活用

合法的に贈与税を払わずに、自宅を妻に贈与する方法はあります。「贈与税の配偶者控除」という制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、つまり自宅の贈与かもしくは自宅を取得するための資金の贈与については、2000万円までは税金がかからない特例です。贈与税の基礎控除と合わせて、2110万円までは無税で贈与ができます。

 

つまり、今回のケースでは自宅を購入するときに、妻に2110万円の資金を贈与し、その分を妻の持ち分にしていればよかったのです。もしくは、居住している不動産の2110万円分を贈与するという方法でもよかったのです。ちなみに、妻のローンを夫が返している行為はこの制度の対象外です。

 

 

板倉 京

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

本記事は、WT税理士法人のサイトに掲載されたコラムを再編集したものです。

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