夫の給料で妻が資産運用、子どもにお金を貸す・・・ちょっとしたことが「生前贈与」とみなされ、贈与税の支払いを求められる可能性があります。本記事では、生前贈与の基礎知識をWT税理士法人代表社員でベテラン税理士の板倉京氏が解説します。

夫の財産を妻に変えると、贈与税の対象となることも

Q 夫の給料で資産運用・・・投資の収益は生前贈与になるか?

 

セレブ奥様のA子さんは、仕事ばかりしている夫に代わって、A子さんが資産運用をしています。「管理しやすいから」とA子さんの名義の口座で株や投資信託などに投資し、「がんがん稼いで相続税の納税資金を作らないと!」と張り切っていますが、この預金や投資の収益は生前贈与にあたると思いますか?

 

A 夫の財産を妻名義に変えると贈与税の対象となる可能性があります。

 

夫の稼いできたお金を単に妻名義の預金(家計費用の預金やへそくりなど)にした場合、相続の現場では「名義預金」として夫の財産とされていますが、この夫の名義預金から生前に妻が有価証券や不動産を購入すると、その時点で「贈与」と指摘される可能性があります。相続税法の基本通達でも、他の者の名義で不動産や株式などを取得した場合には、原則として贈与として取り扱うこととしています。

 

もちろん、自分の資金で投資をする分には何の問題もありません。ただ、実際には贈与かどうかの判断は難しいところです。というのも、贈与は「あげる」人と「もらう」人の意思疎通があり、実際にその財産が移転することではじめて成立するとされています。

 

では、果たしてセレブ妻のA子さんが夫の名義預金を元手に投資をし、収益を上げているという事実をご主人は認識しているたでしょうか。もし両者の認識が「贈与」ということで一致していなければ、この運用している資産は夫のものということになり、夫が亡くなった場合は夫の相続財産となります。

 

そもそも、「もらった」という認識があるならば、年間110万円を超えれば贈与税を払わなければいけません。ちなみに贈与税の時効は、6年(悪質な場合7年)です。

 

ただし時効は、「贈与という事実があった」と認定されてこその問題であり、「贈与という事実が認定されない」場合には、贈与税の時効という概念はありません。その場合は、「たまたま妻名義になっている夫の財産」ということになるのです。

 

当たり前のことですが、生前に妻名義で株式などに投資をした時点では「贈与ではない」といって贈与税を払わず、相続の時点では「これは夫からもらったものだ」と贈与税は時効だと主張するのでは筋が通りません。

 

夫婦間であっても、贈与かどうかをはっきりさせておくことが肝心です。そして、贈与があったというのであれば、贈与契約書を作成する、贈与税の申告をするなど、あとから「贈与があった」と立証できるようにしておいていただきたいと思います。

 

あああ
妻が夫の名義預金を元手に投資して、収益を…?

親子間の金銭貸借は「贈与」とみなされないよう慎重に

Q 子どもが家を新築! 資金を貸したが、贈与にあたるのか?

 

子煩悩なDさんは、長女が家を新築することになり、Dさんが2000万円を貸すことにしました。ただ、長女には「無理して返さなくてもいい」と伝えています。長女も返済する気はなさそう・・・これって贈与になると思いますか?

 

A 借りたお金を返さないなら、贈与とみなされます。

 

親子間で金銭の貸借をする場合は、税務署に贈与とみなされないよう細心の注意が必要です。親が子にお金を貸してはいけないということではありません。あくまでも「あげた」のではなく「貸した」のだ、ということを立証できるようにしておけばよいのです。

 

では、どうすれば「貸した」と立証できるのでしょうか。具体的には、まったくの第三者にお金を貸した時と同様だと考えれば大丈夫です。仮に、第三者にお金を貸すことになれば、借用書を作成し、返済予定を決めたうえで、利息も取りますよね。

 

そしてもちろん、返済してもらうことは大前提です。返済は現金ではなく、証拠を残すため口座を通して行うといいでしょう。こういったことが整えば、税務署に対して「あげたんじゃない、貸したのだ!」と主張することができます。

親が子どもの自宅を共有で持つと、節税になる理由

借用書も存在しない、返済もしていない状態では、その金銭は貸したのではなく、実質的に贈与だとみなされてしまいます。また、貸付金だということが認められたとしても、そのあとに返済を免除すれば、「債務免除」として免除分が贈与税の対象となります。

 

高額な相続税が見込まれる人の場合、贈与を避けて相続税負担を減らすには、子どもが自宅を購入する際に、親が子どもの自宅を共有で持つという方法があります。

 

現金を贈与すると、基礎控除(110万円)を超える部分(住宅資金贈与の特例などがあるときはそれを超える部分)には、贈与税がかかることになります。しかし、資金援助する分を親の持ち分にしてしまえば、その時点では、贈与税はかかりません。親の共有分は後に相続税の対象になりますが、不動産の評価は現金の評価よりも低いため、現金で相続するよりも相続税を減らす効果があるのです。

 

特に家屋部分の評価額は建築費の5~7割とされ、土地のように価値が上がったりする心配もありません。しかも、家屋は減価償却する資産であるため、親が長生きすればするほど資産価値は落ちていくというわけです。

 

どうでしたか? 思わぬものに贈与税がかかることがあります。知らないと思わぬ損をすることがありますから、注意が必要ですね。

 

 

板倉 京

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

本記事は、WT税理士法人のサイトに掲載されたコラムを再編集したものです。

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