英語教師・真穂、自分の英会話レベルを思い知らされる

もしも高校四年生があったとしたら、そのぶん英語は上達するのか? 個人レッスン、オンライン英会話、どれをやっても英会話ができなかった英語教師・桜木 真穂が、風変わりな英会話教室で、新しい英語学習法を学びます。本連載は、金沢 優氏の小説『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』から一部を抜粋し、これからの英会話学習法をご紹介します。

 

 (物語の主な登場人物は、ここをクリック) 

 

唯一のネイティブ講師が「ほとんど英語を話さない」!?

「Can you work next Monday? We’re going to open the school.」

「Let me think…Yes, I’m free. I can work.」

 

私は、ネイティブ講師のエリザベスと有紀君のポンポンと流れるような会話を、ポカンと口を開けながら聞いていた。有紀君、やっぱり英語がペラペラだ。

 

学院長さんと入れ違いに入ってきたのが、このエリザベスだった。私はネイティブ講師の姿が確認でき、思わずホッとした。やはりここは英会話教室でよかったのだ。しかし、何て高齢なんだろう。七十歳くらいだろうか。動きが全体的にスローだ。

 

エリザベスは有紀君との会話を終えてから、私に向かって、

 

「So, you’re interested in this school, right?」

 

「・・・イ、イエス、イットイズ。いや、イエス、アイアム」

 

「Nice to meet you. I’m Elizabeth. May I have your name?」

 

「あ、ハ、ハイ、いや、イエース。マイネームイズ、マホサクラーギ」

 

初対面のネイティブとの英語対応はいつだって緊張しちゃう。簡単な会話なのに、私は何度も噛んでしまったことが恥ずかしかった。

 

それから会話を少し交わし、エリザベスは奥の対面式の机の一つに座った。あそこがネイティブ講師の席なのだろう。であれば、残りの二つは学院長さんと有紀君の席か。そうすると、ここは三人体制でティーチングを行うスタイルの教室なのだろうか。

 

「あれが、ここの唯一のネイティブ講師のエリザベスです」

 

「へー・・・え! 唯一? それって・・・大丈夫なんですか? だって、一日中教えていたら、お疲れになると思うんですけど・・・」

 

「あ、大丈夫です。だって、ほとんど何も話さないですから」

 

サラリとしたその返答に、私は「はい?」と声が裏返った。何を言っているんだろう。もしもネイティブ講師が何も話さなかったら、職務怠慢もいいところじゃないか。

 

「それがここの教育方針なんです。何故なら生徒さんは、英語を聞くためではなく、話すためにここに来ているんですからね」

 

私は思わずハッとした。

 

「学院長はよく言うんです。『レッスンで喋りすぎるネイティブ講師は、生徒さんが英語を話す機会と、話せる自信を奪っているにすぎない。それは、怠慢以外の何ものでもない』って。だって、話す方が楽ですからね。でも、講師は生徒さんに『話させる』ことが仕事なんです。そして、そっちの方が、はるかに難しいんです」

 

ふと私は、ジェームスとのレッスンを思い出した。彼は私が沈黙すると、レッスンが終わるまでずっと話していた。彼には私に『話させる』という視点は全くなかった。

 

「もちろん、『会話』とは相手が言うことを聞いて、それについて返す、という一連のプロセスです。だから、聞くことだって会話の一つです。ただ、配分を考えてみて下さい。基本的に日本人は英語を話せないので、会話では受身になります。この時点で七対三の割合で、ネイティブが話すことになります。三人のグループレッスンであれば、その割合は単純計算で、七対一対一対一になります」

 

私が通ったスクールのレッスンは四人だったので、一未満だったのかもしれない。

 

「でも実際、ネイティブ講師はもっと喋ります。何故なら解説も必要ですし、授業も仕切らないといけませんからね。そうなってくると、バランスがさらに悪くなります。そして、特に生徒さんが、初心者であればあるほど英語を話せないので、ネイティブはさらに喋ります。それこそ、九対一くらいになる時があります。逆に初心者ほど、九対一の割合で話さないといけないのに。そして残念なことに、日本人もネイティブが話すのを、喜んで受け入れちゃうんです。だから、レッスンをネイティブに委ねてしまうのは、僕たちは無責任だと思っています。そのため、エリザベスには極力『話さないように』と、声かけをしているんです」

 

私はエリザベスの方を見た。先程から机に座って、ペンを手に用紙と向き合っている。何かを添削しているように見えた。

 

「学院長も言っていたように、英語を話せるようになるためには、自分が話す練習をしないといけません。だから日本人は英会話を習う時、『自分がどれだけ話す時間を取れているか』に、もっと意識しないといけません。そうじゃないと、結果は絶対に出ませんよ」

 

うーん、なるほど。私は改めて有紀君を見つめた。見習い扱いとはいうものの、この子は人に説明するのが上手い。私はいつの間にか話に引き込まれているのが分かった。

聞いて話せるようになるのは「リスニング上級者」だけ

「そもそも、ネイティブ講師に過度の期待をしちゃいけませんよ、桜木さん」

 

いきなりの直球に、私は「え?」と声を漏らした。

 

「英語をどれだけ聞いていても、話せるようにはなりませんからね。これだけは絶対に勘違いしないで下さい」

 

「どれだけ聞いていても、話せるようにはならない・・・」と、私は小さく繰り返した。

 

「はい。まず、僕たち日本人は英会話というと、真っ先にネイティブ講師に走ってしまいます。彼らの英語を聞いていると、英語表現がどんどん吸収され、話せるようになるって勘違いしちゃうんです」

 

「え・・・違うんですか?」

 

「誰にでも当てはまるわけではありません。リスニングスキルにも長けた『上級者』に限られます。でもこの場合、『上級者』の定義を間違えないで下さいね。受験英語がたとえどれだけできても、スピーキングが全くできないのであれば、その人は上級者ではなく、初心者です。そもそも挨拶一つ満足にできないのであれば、上級者であるはずがありませんから」

 

正しく自分のことを言われているような気がした。

 

「英会話とは基本的な会話力があってから、新しい表現を足して運用していくものです。聞いたものをそのまま吸収して、使えるようになるという行為は、あくまで土台のある上級レベルのことなんです。そして・・・すみません、桜木さんはまだ初心者レベルなんです」

 

有紀君はかなり申し訳なさそうだったが、中学校から英語を勉強してきて、十六年目に言われるセリフとしては、かなり残酷である。

 

「そもそも英語を聞いて、それが使えるようになるのであれば、桜木さんは今頃ネイティブレベルに達しているはずですよ。だって、子供の頃からずっと英語を聞いてきたわけじゃないですか。それこそTOEIC だとか英検だとか英会話スクールだとか。洋画や海外ドラマだって、沢山見てきたわけでしょう? 計算すれば、きっと数千時間以上ですよ、リスニングに充てられてきた時間は。それでも簡単な挨拶すら詰まってしまうんでしたら、もう結論を出してもいいんじゃないでしょうか。『どれだけ英語を聞いたところで、話せるようにはならない』って。少なくとも今の英語レベルじゃ」

 

確かに、私は今まで沢山の英語素材をネイティブの口を通して聞いてきた。それで、先程のエリザベスとの拙いやり取りである。であれば、リスニング量とスピーキングは比例関係にはないことになる。有紀君の言う通りであれば、少なくとも今の私の英語レベルでは。私は目の前にかかっていた霧が晴れ、視界が明るくなってきたような気がした。

 

(次回に続く)

 

英会話講師・脚本家

石川県出身。上智大学法学部国際関係法学科卒業。第13回、31回シナリオSIグランプリ入賞。第31回入賞作を大幅に加筆修正し、『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』を出版。

著者紹介

連載英語教師が立ち向かう新しい英会話学習~『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』より

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

金沢 優

幻冬舎

英会話スクール、オンライン英会話、ハウツー本・・・。すべてに挫折してきて、教育指導要領改定に戦々恐々とする英語教師・桜木真穂。ネイティブスピーカーの同僚を羨み自分に自信を失う中、偶然であった英会話教室で「今まで…

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