日本企業がいつまで経っても「海外企業に負け続ける」ワケ

経済のグローバル化が進展した昨今、ビジネスにおける海外取引は増加の一途を辿っています。こうして、海外での事業や海外企業との取引が増えるにしたがって高まるのが、「法務リスク」です。そこで本記事では、片山法律会計事務所の菊地正登弁護士が、国外のマーケットで戦うときに注意すべきことを解説します。

海外の「大手企業との交渉」における戦い方

私の見ている限り、海外取引において、日本企業は、知識もあり経験も豊富な海外企業に契約書の面で「してやられる」場合が多いようです。これは、立場の弱い企業が、立場の強い企業に無理を呑まされるという点で、海外取引に限らず多くの契約の場面で見ることができるものです。

 

日本のメーカーが海外進出するのであれば、基本的にはメーカーのほうが販売店よりも立場が強いので、あまり契約で無理を言われることはないでしょう。しかし、相手が全国展開しているチェーン網を持っていたり、アマゾンやウォルマートのような大手のリテーラーだったりすると、たびたびニュースなどで報道されているように、厳しい条件を突き付けられることが多いものです。

 

また、読者のなかには、大手の海外企業から商品を輸入して、日本で小規模な販売店を経営している方もいるでしょう。そのように立場の弱い側が、より良い条件で契約を締結するにはどうしたらよいのでしょうか。契約書作成の面から考えてみたいと思います。

 

まず、契約書というものは双方の合意のもとに締結されるものですが、実務上はどちらかが最初に叩き台となるドラフトを作成します。このドラフトはどちらが用意してもよいのですが、たいていは力関係の強いほうが先に出します。というのも、契約書のドラフトは自社で作成したものを使ったほうが有利な交渉ができるからです。

 

当然、交渉の過程でドラフトには修正を入れることができますが、根本から改定することはない以上、もとのドラフトを作成した側にとって有利な条件が最後まで残ることもよくあります。

 

日本企業が初めての海外取引を行う場合、英文契約書のひな形を持っていることは少ないでしょうから、たいていは相手方の用意したドラフトを使うことになります。この時点で、すでにアウェーの状態からの交渉スタートになるのです。ですから海外取引の経験がある企業は、できるだけ自社でドラフトを作っておき、先に提出するようにしましょう。

 

契約書とは、自社の望むビジネスのかたちを、書面に表現したものです。相手の用意したドラフトを使用すると、相手の用意したビジネスの土俵に乗ることになりますし、それを自社の望むかたちに修正していくのは大変です。

 

また、せっかく相手が用意してくれた契約書のドラフトを、真っ赤に修正して戻すことには精神的な抵抗を感じる人も少なくないでしょう。ですから、自社のビジネスをよく考慮して、自社のビジネスに合った契約書のひな形を作っておくことが、より良い交渉への第一歩となるのです。勝負は、交渉前から始まっていると考えましょう。

 

もとより、取引の当事者双方が、自社のドラフトを使いたいと主張することもよくあります。こうしたドラフトの出し合いはバトルオブフォーム(書式の戦い)とも呼ばれ、まさに戦いです。

 

たいていは最終的に合意してどちらかを底本として修正することになりますが、譲った側は修正を入れやすくなるので、ドラフトを用意する努力がまったくの無駄になるというわけではありません。相手方も、自社のドラフトを底本として使用したことで負い目がありますから、修正に対しても寛容になる傾向があります。

 

また、数多くの取引先を持つ大手企業は、中小企業に対していつも使っているテンプレートの契約書を出してきて、「ほかの取引先との兼ね合いもあるので修正は一切受け入れられない」などと強気に出てくることがあります。

 

特に、規模の大きい企業だと担当者に修正の権限がなくて、無理に修正をお願いすると複雑な稟議を通さなければならなくなり、時間がかかってしょうがないことなどもあります。この場合は、結果として相手の出してきたドラフトそのままの契約書になることも多いのですが、こちらの言い分がまったく通らないわけでもありません。

 

契約書の文章を変えられなくても、契約書とは別に覚書を作成し、そこで契約書の文面に関する但し書きを入れればよいのです。契約を成立させたい気持ちは相手方にもありますから、契約書の文言が変えられないというルールがあるだけなのであれば、契約書とは別の覚書での対応に異を唱えないこともあるでしょう。

 

もちろん、その内容は合理的で、双方が納得できるものでなければなりませんが、覚書において、「契約書の〇条は下記の内容に置き換える」などとすることで、大企業相手でも契約書に実質的な修正を入れることが可能になります。

 

覚書などの作成も許可されない場合は、現場での対応で修正する手もあります。売買基本契約書や、販売店契約書の場合、基本的な売買条件について取り決めるだけで、実際の注文は、毎回、現場での注文書、受注書(PO、POA)にてやりとりします。この注文書に書かれた指示が、売買基本契約書や販売店契約書と異なっていた場合は、新しい指示である注文書とそれを受ける受注書のほうが優先になると契約書に記載されていることが多いです。

 

そこで当初の契約では力関係で負けてしまったとしても、契約を続けるなかで徐々に信頼を獲得し、より有利な条件を注文書に但し書きして、それを受けた受注書をもらうかたちで契約を上書きすることも可能です。

 

このように、交渉とは契約書作成の段階だけにとどまるものではありません。契約書作成時にできるだけ有利な条件を得ておくことがもちろん最も有効な手段ですが、力関係などでどうしてもそれができなかった場合は、契約を続けながら条件面の交渉を続けていく努力も必要です。そして取引を通じて対等に交渉できるだけの力を蓄えたら、次回の契約更新時に再び交渉をすることも可能です。

 

開国時の日本も、無知で力が弱かったために、関税自主権や領事裁判権がないなど、諸外国との間で不利な条約を締結させられましたが、その後の努力で条約改正にこぎつけました。諦めずに試合を続けていくことが大切なのです。

「訴訟で勝つ=問題解決」ではない

また、日本では、弁護士は訴訟のためにいると考える人が、一定数存在しています。

 

そういうと、日本の訴訟件数は諸外国に比べて少ないので、むしろ訴訟以外で必要とされているのではないかと疑問を呈す方もいらっしゃいますが、実際にみなさんがどんなときに弁護士を必要とするかを考えてみれば、たいていはすでに何らかのトラブルが起きていて、それを法的に解決する手段を求めて弁護士のところに相談に訪れるという人が多いのではないでしょうか。

 

実際に裁判になるケースは少ないとは思いますが、訴訟が紛争解決の手段であることは間違いありません。しかし、現実に事件が起きてから弁護士に頼んで法的解決にあたらせるよりも、事が起きる前から法的な解決を見据えて弁護士に依頼して、トラブルを回避していったほうが、コスト的にもリターン的にもずいぶんパフォーマンスが良いのではないでしょうか。

 

これを「予防法務」といいます。少し難しくいえば、将来的に法的紛争が生じないように、事前に法的措置を施しておくことを指します。トラブルが起きてから法的措置を検討しても、被害を完全に回復することがたいへん難しいため、「予防法務」は重要です。

 

もし仮に、海外で裁判や仲裁をすると、多額の費用がかかります。その大半はタイムチャージ制の外国人弁護士の費用ですが、彼らがいなければ外国での裁判は事実上不可能でしょう。また、ひとたび訴訟となると、判決が出るまでに何年もの時間を要します。

 

経営者が、多大な時間と労力を裁判に取られて、健全な経営を維持することができるでしょうか。裁判となると、金銭的なコストだけでなく、時間や人手といったコストがかかることは、往々にして見逃されています。

 

そこまでして法的措置をとって、いったい何が得られるのでしょうか。通常は、例えば損害賠償請求訴訟で勝訴となれば損害賠償金を支払ってもらえる権利を得ることができますが、このお金は相手方が素直に支払ってくれなければ、不良債権となり、結局は回収不能となってしまうことがあります。

 

そして、裁判で判決まで闘う気力を持った相手が、たとえ敗訴になったからといって、素直に損害賠償金を支払うでしょうか。和解せずに判決まで争ったということは、相手方はかなり強くこちらの態度や見解に不満を持っています。それは裁判官による判決が出たからといって、簡単に変わるものではありません。ですから、むしろ支払いに応じないケースのほうが多いのです。

 

時々勘違いされている方もいますが、裁判所は国家権力ではありますが、損害賠償金の回収までは手伝ってくれません。もちろん、強制執行という制度はありますが、それも現地の裁判所に申し立てしなければならないので、別途、費用も時間もかかります。さらに強制執行の対象となる財産は、日本を例にすると申立人が調査しなければならないので、財産を隠されている場合には回収が難しいのです。

 

このとおり、裁判に勝っても、みなさんが想像しているほど簡単には支払いは受けられないことがよくあります。ましてや、裁判で負けるという可能性もあります。

 

あなたが、「100%、ウチが正しい」と考えていたとしても、第三者である裁判官もそのように判断するとは限りません。裁判官は業界の慣習に詳しくないかもしれないし、十分な証拠が揃っていないと考えるかもしれません。紛争の解決を法的措置に委ねることは、意外とリスクの大きい行為なのです。

 

そのため、海外取引においては、トラブルが起きないように、法律知識を使って事前に予防しておくことが非常に大切なのです。

 

例えば、取引先を選ぶにあたっても、声をかけてきてくれた会社をすべて信用したりはしていませんか。営業に汲々としていると、注文や取引の打診はたいへんありがたいものですが、なかには詐欺師のような会社や情報を盗みたいだけの会社もあります。ですから最低でも、その会社がきちんと存在していて、継続的に営業を続けていて、特別に悪い評判もないという程度のことは確認しなければなりません。

 

日本と同様、海外にも会社の登記制度のようなものはありますし、帝国データバンクのような調査会社もあります。わざわざ現地に行かなくても入手できますので、最低限その程度の情報を確認してから、契約の打ち合わせに臨むとよいでしょう。

 

また、サンプルを送ったり、製品を送ったりする際には必ず、「情報を第三者に開示しない」や、「中身を解析しない」などを明記したNDA(秘密保持契約書)を交わしておくべきです。NDAを交わしても約束を破る会社は存在しますが、何もないよりは抑止力として機能しますし、あとでその会社の約束破りを責めることもできます。

 

そして、契約書においてはできれば裁判などの管轄と準拠法を日本にしておきたいものです。何かあったときに日本で裁判ができるというだけでも、かなり安心感があります。とはいえ相手があっての契約なので、それが無理な場合は、せめて相手の国ではなく、第三国を選びましょう。相手が自分の国の法律と裁判所で訴訟ができるとなると、裁判を起こすハードルがぐっと下がってしまうからです。

 

裁判管轄と準拠法を第三国のものにするだけで、感情的にこじれたときでも、訴えられる危険性は大きく下がります。ビジネスマインドでいうならば、どうしてもという場合を除いて、できるだけ訴訟は回避するべきなので、お互いにとって良いといえます。

 

また、最終的に裁判に訴えなくても済むように、支払条件については前払いとするなど、確実に回収できる方法を強く主張しましょう。売り掛けにしておいて、支払いが滞ったら訴訟をすればよいという発想は、コストを考えれば無駄の多い手段です。前払いでなければ取引しないと言っても、信頼される傾向にある日本企業の場合は通ることが多いと思います。

 

最終手段として法的措置に訴えざるを得ない場合も、訴訟ではなく仲裁という手段があることを知っておくと便利です。実は海外取引においては裁判よりも仲裁のほうが制度としてはよく使われています。

 

仲裁(アービトレーション)とは、「Alternative(代替的)」な「Dispute(紛争)」の「Resolution(解決)」(ADR)の一つです。このADRは日本では仲裁よりも離婚調停などの調停のほうでよく知られています。

 

訴訟も仲裁も、第三者に介入してもらって冷静な話し合いをする場面があるところは同じなのですが、公務員である裁判官に判定を委ねる訴訟に比べると、仲裁の場合は、自分たちで民間の仲裁人を選ぶことができて、短期間で解決まで持っていけることも多いので、弁護士費用も安くなる傾向があり、使い勝手の良いものとなっています。先進国のなかには、裁判よりも仲裁のほうが主流になっている国もあるくらいです。

 

さらに、裁判でいうところの判決にあたるのが「仲裁判断」というものなのですが、仲裁判断のほうが外国の企業に対して強制執行をする際に、判決よりも手続きが容易なため、海外取引で仲裁を選択することは特にメリットが大きいのです。

 

これに対して、訴訟の場合は、裁判官を自分たちで選ぶことができないので、ややもすればその問題についてあまり詳しくない人が選ばれるリスクがあります。また訴訟の場合は公正さが強く求められるために、長期化しやすいうえ、判決に納得しない側が上訴というかたちで再戦が可能です。また、訴訟は誰でも傍聴可能なので、企業秘密については詳しく開示できませんし、スキャンダルが業界の内外に広まってしまいます。

 

仲裁を選択すると、知識があり信頼できる仲裁人を自分たちで選んだうえで、密室で和解に向けての話し合いができるため、裁判に比べて短期間で終わります。お互いの言いたいことを十分に言い尽くさせて、どのあたりで和解したらよいかを仲裁人が判断して和解を勧めるのが一つのパターンで、予定調和ではありますが、問題が解決するのであれば、それに越したことはありません。

 

もちろん弁護士に代理してもらえますので、口下手でも心配は無用です。また、もし最後まで争って仲裁判断が出された場合、その判断が最終結論になるので敗けたほうは再戦ができません。しかし、繰り返しになりますが、本来は、仲裁に至る前に、話し合いで解決するのがコストパフォーマンス的にはベストです。

 

お互いの弁護士同士で話し合っても、どうしてもまとまらないときに、次善の策として第三者を入れるのが仲裁だと考えておいてください。

片山法律会計事務所 弁護士

2001年、早稲田大学法学部卒業、2003年に弁護士登録。2009年に渡英。University of Southampton LL.M.(法学修士)コースワークに参加し、英米法、比較知的財産法、コーポレートガバナンスなどを学ぶ。2010年には法律事務所Hill Dickinson LLP(ロンドン)にて勤務研修を経験する。2012年に帰国。2017年、片山智裕弁護士とともに片山法律会計事務所を設立。豊富な海外経験を活かし、英文契約書の作成・リーガルチェック・翻訳、海外展開のアドバイザリー業務など、国際的なビジネスを展開する企業の法務をサポートしている。

著者紹介

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菊地 正登

幻冬舎メディアコンサルティング

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