「節税ファースト」になっていませんか?節税はあくまでも副次的に

「節税ファースト」になっていませんか?節税はあくまでも副次的に

※本記事は、2019年5月24日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

「節税」という言葉には不思議な魅力があります。でも、節税を重視することにより本来取るべきではない行動を取っていませんか?

節税のために個人で生命保険に入る人はまずいない

会社員、自営業者に限らず、個人の方が節税できる制度は数多くあります。例えば生命保険の保険料の場合は、一定額まで所得控除が可能な「生命保険料控除」という制度になります。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料のそれぞれにつき4万円まで、最大12万円を限度に所得控除が受けられます。

 

では、この所得控除を受けるために、わざわざ生命保険に加入するかといえば、普通はそんなことはしないでしょう。自分にとって必要だから生命保険に加入し、その保険料に対して生命保険料控除という恩恵があるから利用している、というのが実情だと思います。

 

また、住宅ローンの年末残高の一定割合につき税額控除を受けることができる「住宅ローン控除」も同様です。家を買うつもりはなかったのに、住宅ローン控除を使いたいから無理に家を買う、という人もまずいないはずです。もちろん、もともと家を欲しいと思っていた人に対する動機づけとしては機能していると思います。

 

筆者は、節税をするのであれば、住宅ローンと同じ観点であるべきだと思います。つまり「節税のために何かを買ったりお金を出したりする」のではなく、もっと本質的な目的のために支出をし、それに対してたまたま税優遇の制度が設けられているから利用する、という形です。

そもそも減らすことのできる税金はありますか?

筆者は税理士の仕事をしていますから、確定申告時期になるとさまざまな相談を受けますし、数多くの確定申告を受けています。よくあるのが、医療費の領収書を大量に送ってくるものの、そもそも税金がゼロなので、医療費控除を受けることができないケースです。

 

実は、「医療費控除は医療費の一部を返金してもらえる制度」と勘違いしている方が結構います。そうではなく、医療費控除は「医療費の一部につき所得控除を受けることができる制度」です。

 

所得控除ですから、税算出時の所得が減少します。その結果、所得に税率を乗じて計算される税額を減少させる効果があるものです。

 

しかし、元となる税金がかかるだけの所得がなければ、いくら所得控除を受けたところで税金を減少できないため、確定申告しても税金の還付は受けられません。

iDeCo加入でどれだけ節税効果があるか理解していますか?

これと同じことがiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)にも当てはまります。iDeCoによる節税とは、支払った掛け金の一部が戻ってくるのではなく、あくまでも所得控除により税算出時の所得が減少し、その結果、税額を減少させる効果のことです。

 

したがって、専業主婦など、そもそも所得税・住民税がゼロの方はiDeCoに加入しても掛け金の所得控除による節税効果はありません。

 

また、所得金額が少ない方も、節税効果はかなり小さくなってしまいます。よく、「掛け金の30~50%の節税効果あり!」などといわれていますが、それはかなり所得が高い方の場合です。どれだけの節税効果があるかは自分の所得次第で変わります。

 

もちろん、所得が少ないため掛け金にそれほどの節税効果が期待できなくても、将来に向けて老後の生活資金を自助努力で確保したい、という本来のあるべき目的でiDeCoに加入するのであれば、真っ当な考え方です。

 

一方、「節税効果」にひかれてiDeCoに加入したものの、思っていたほどの効果が得られなかったというのでは本末転倒です。やはり、本来の目的である老後資金の形成のためiDeCoに加入し、副次的に節税の効果を享受するという形が望ましいと思います。

 

iDeCoは原則として60歳まで引き出しできません。自身の節税効果がどのくらいあるかも調べずになんとなく加入した結果、若いうちに自由に使えるお金が減ってしまうことにもなりかねませんので、十分に注意してください。

節税の有無で投資や資産運用のルールを変えるのはおかしい

NISA(ニーサ:小額投資非課税制度)についても十分に注意が必要です。NISAは5年間継続して株式などを保有し続けることが前提の制度です。そうしなければ配当金や売却益に対する非課税の恩恵を十分に受けることができません。

 

そのためどうしても、NISA口座で買った株が値下がりしても売却せずに持ち続けてしまいがちです。その結果、多額の含み損をかかえた塩漬け株となってしまい、節税の効果を享受するどころか大きな損失を被ってしまいかねません。

 

もし、筆者のように株価のトレンドに従って売買をするルールを持っているのであれば、NISA口座であっても通常の口座であっても下降トレンドになったら保有株を売却すべきです。

 

でも、NISA口座で売却すると非課税の恩恵を受けられなくなるので下降トレンドになっても我慢して持ち続けようという意識が働いてしまいます。

 

しかし、筆者は節税効果の有無により投資ルールを変えるべきではないと思います。節税効果を重んじるばかり、大きな損失を被ってしまうリスクが高まるのであれば、それは問題です。

 

筆者もNISA口座で株式を保有していますが、株価のトレンドに従って売買するという投資ルールを変えることはありません。保有株が下降トレンドになった場合は保有数量と同数を空売りすることで下落をヘッジしています。

 

税金の各種優遇制度は有効に活用すべきだということは間違いありません。しかし、節税ありきで行動していたり、逸脱した行動を取ってしまうことは好ましくありません。

 

まずは自分自身に必要なものなのかという本質的な部分を重視して意思決定をしましょう。その上で、副次的に節税効果があるならば活用するようにしてください。

 

 

足立 武志

足立公認会計士事務所

 

※本記事は、2019年5月24日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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