YouTube動画に著作権があるなら、相続の対象に
情報機器が発達し、気軽に動画を楽しめるようになった昨今。動画共有サービスYouTube上でオリジナルの作品を公開する「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれる方のなかには、億単位で収入を得ている人もいます。
ところで、このようなYouTuberが亡くなった際、相続税はどうなるのでしょうか? 課税されるとしたら、どれくらいなのでしょうか? 考えていきましょう。
Google 内に、「死去したユーザーのアカウントに関するリクエスト送信する」というページを見つけました。そこには、「Googleは、故人の情報も安全に保管します」など、色々書かれているのですが、注目すべきは「死去したユーザーのアカウントから資金を取得するためのリクエストを送信する」という記述です。
ここから、もしYouTuberの方が亡くなった場合、YouTubeで得られる収入は家族が相続できる可能性が高いと推測されます。そして収入が発生し続けるのであれば、課税するのが日本のシステムです。
国税庁では、以下の通りいっています。
1 相続税がかかる財産
相続税は原則として、死亡した人の財産を相続や遺贈(死因贈与を含みます。)によって取得した場合に、その取得した財産にかかります。この場合の財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。
現行法では、「経済的価値のあるものであれば、なんでも相続税を課しますよ」ということです。
筆者は以前、有名な作家や音楽家の相続税の申告書を作ったことがありますが、著作権には評価額をつけて申告を行います。評価の仕方には算式が決まっており、国税庁では以下の通りいっています。
著作権の評価
148 著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。
年平均印税収入の額×0.5×評価倍率
上の算式中の「年平均印税収入の額」等は、次による。
(1)年平均印税収入の額
課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作物に係る課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。
(2)評価倍率
課税時期後における各年の印税収入の額が「年平均印税収入の額」であるものとして、著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする。
「年平均印税収入の額×0.5×評価倍率」という算式を使って、著作権の金額を計算します。「年平均印税収入の額」というのは、亡くなってしまった年の前3年間の印税収入の平均です。YouTubeの場合、「アドセンス収益」などとなり厳密には印税ではないのですが、性質としては同じなので、同様に考えていくでしょう。
0.5というのは、「将来、これくらいは稼げるだろう」という不確定な収益に対して課税をするので、国の計らいとでも考えればいいでしょう。
評価倍率で重要なのが、「著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする」という箇所です。簡単にいうと、「この作品が何年間収益を生みそうか、著作権に詳しい人に出してもらって、それを掛け算しなさい」ということです。
実際に小説や音楽などであれば、著作権を管理している組織があります。相続の際には、このような組織に問合せをして、進言をしてもらいます。
YouTubeのような動画の場合、「何年も見られて収益を生むか、どうか」というと難しい判断があるかと思いますが。
日本一のYouTubeの相続税は、12億円!?
以上のことを踏まえて、シミュレーションしてみます。
たとえば、年間1億円、YouTubeから収入を得ているYouTuberで、その後、5年間は収益があるだろうと考えられる場合、
1億円(年間YouTube収入)×0.5×4.999(5年の福利年金現価率)=249,950,000円(著作権の相続税評価額)
となります。この金額に相続税がいくらかかるかというと、
73,778,000円(相続人が1人の場合)
になります。
さらに同様の条件で3億円を稼ぐYouTuberであれば、著作権の相続税評価額は「749,850,000円」で、相続税は「326,118,000円」になります。日本一のYouTuberは年間10億円を稼ぐといわれているので、同じ条件であれば、著作権評価額は、「2,499,500,000円」、相続税は「1,288,425,000円」にもなります。
「12億円払え」といわれても、未来を見越しての課税なので、手元にその分キャッシュがあるか、といえば、なかなか大変です。たらればに対しての課税なので「0.5」をかけているわけですが、それでも大変です。
しかし収入が多いYouTuberは、個人事業主ではないでしょう。もし個人であれば、収益に対して所得税と住民税を合算すると55%、個人事業税をプラスすると、さらに高くなります。法人であれば、実効税率33%です。
法人化しているのであれば個人の相続税は関係ないといえば、そうではありません。株式の評価額を計算するときに、やはり著作権の金額も含めて計算することになります。会社の価値を算定するときに評価額がドーンと大きくなるわけですね。個人よりは法人のほうが相続税の負担は軽くなりますが、相続税は逃れることはできない、というわけです。
◆まとめ
今回は、現行法で「YouTuber」に相続が発生した場合を考えてみました。いまや、子供が将来なりたい職業に「YouTuber」が上位にあがり、見られる動画のクオリティもどんどん高くなっています。音楽や小説などと同様に著作権が認められるのであれば、動画作品は相続の対象になります。将来、残された方が困らないためにも、YouTuberのみなさんには、このような論点を頭の片隅にとどめておいてください。
【動画/筆者が「YouTuberの相続税」を分かりやすく解説】
橘慶太
円満相続税理士法人