東京:大型移転は一巡し、コワーキングが出店は加速
◆オールグレード空室率が上昇
日本経済は、今年1月で、戦後最長の「いざなみ景気(73ヵ月)」を超えたとされている。各シンクタンクの発表では、2019年度の景気減退を不安視する意見を多く目にするが、人手不足に伴う省力投資が景気の支えとなっているようだ。実際、総務省統計局が発表する完全失業率も、2019年5月時点で、前月と同じ2.4%と低水準で推移している。
東京のオフィス市場では、今年に入り大型移転や館内増床は一巡した感があり、既存ビルの空室は館内増床では決まらず、一般募集になるケースが増えた。しかし、これまで一般募集が極端に少なかったこともあり、物件によっては候補テナントが多数集まる状況である。新築ビルでは、引き続き誘致が順調に進んでいるものの、昨年と比べて、賃料水準の高い物件を中心に、検討スピードがやや緩やかになってきたように感じる。
2019年6月期の東京オールグレード*ビルの空室率は、対前期(同年3月期)比0.1ポイント上昇した。こうしたマーケットの変化を、賃貸人・賃借人共に敏感に察知しているものと思われる。
*グレードについては、記事下の資料を参照
◆コワーキングオフィスの出店急増
2018年9月に発表した『コワーキングオフィスに関するレポート』によると、都内の市場規模は推計6.6万坪。2000~2016年までに開設された面積が3.3万坪だったことを考えると、この2年間で急拡大したことは明らかであり、賃貸オフィスマーケットにおける存在感は非常に大きくなっている。
以前は、数名規模のスタートアップや短期プロジェクトのための利用が多かったが、最近では、50~100名規模の本社移転を、賃貸オフィスからコワーキングオフィスへ、といった事例も出てきた。背景には、コワーキングオフィスの大型化もあると思われるが、この動きはまさに働き方改革の一端であり、オフィス(働き方)に対する企業の意識改革が見て取れ、大変興味深い事例と言えよう。
また、Googleも、日本法人本社を置く「渋谷ストリーム」に、世界で7拠点目となる「Google for Startups Campus」を年内にオープンすることを発表して、注目を集めている。コワーキングオフィスの新規出店は、年内も続くと見込まれており、賃貸オフィス市場における存在感は、今後どこまで高まっていくのだろうか。
横浜:需給逼迫状況が継続、空室率はさらに低下
◆みなとみらいで空室消化進む
2019年6月期の横浜オールグレードの空室率は1.2%となり、対前期(同年3月期)比0.4ポイント低下した。
「横浜駅周辺」エリアの今期の空室率は1.1%と、対前期比0.1ポイント上昇した。横浜駅周辺でいくつか新規の空室が出たため、空室率は上昇したが、ほとんどの物件に商談がある状況で、オフィスを確保しづらいマーケットに変わりはない。
「みなとみらい」エリアの今期の空室率は1.2%と、対前期比0.9ポイント低下した。新規開設や拡張移転といったプラス需要で空室を消化する動きが顕著である。「横浜駅周辺」エリアと同様、ほとんど募集がないことに加え、一つの空室に対して複数の企業が移転検討の意向を示している事例が多く、空室が少ない状況が続いている。
「新横浜」エリアでは、100坪前後の新規空室がいくつか出てきているが、募集が出るとすぐに移転を検討する企業が現れ、物件の確保が難しい状況が継続。オフィスビルの新規供給がないこともあり、ここ数年の品薄感は、今後もしばらく続いていくであろう。
◆市役所移転による影響
「関内」エリアでも、空室率は引き続き低下し、面積を問わず満室になる傾向にある。ただし、来年は横浜市役所の移転に伴う二次空室の顕在化を控えていることもあり、賃料水準を引き上げづらい状況にあると考えられる。今後予想される空室率の上昇に伴う、街の構成要素の変化を素早く察知することが、マーケットの動きを把握する鍵となりそうだ。
「川崎」エリアでは、ここ数ヵ月間、企業の移転意欲が以前より抑制傾向にあることがうかがえる。その要因としては、賃料水準の上昇が考えられるが、空室は引き続き少ない状況である。
どのエリアも、依然として逼迫したマーケットが続いている。しかし、前述の通り、来年には「関内」エリアで横浜市役所の移転に伴う二次空室が顕在化、その翌年には、「みなとみらい」エリアで延床面積約84,000㎡の大型物件、「横濱ゲートタワー(58街区)」が竣工予定である。移転を検討する企業にとっては選択肢が増えることが予想され、今後の市況動向が注目される。