売掛金にも時効がある…「回収不能」のリスクを避ける方法は?

会社間の信用取引において、「お金が支払われない」リスクは絶対に避けなければなりません。また、対策を講じた上で、売掛金等が回収できなかった場合、税務上の処理はどうなるのでしょうか? 税理士法人中央会計の辛島政勇氏が解説します。

信用取引をする前に商業謄本や不動産謄本を確認する

私たちの生活では、モノを購入した時にお金を支払うのが通常ですよね。

 

しかし会社間での取引の場合、その都度お金を支払っていては、時間も手間もかかってしまいます。そのため、支払いを取引の度にするのではなく、信用に基づき「将来のある一定期日に代金を支払ってもらう」と約束して、モノの売買やサービスの提供をする「信用取引」を採用しています。

 

たとえば、「当月末締め翌月末回収」等は信用取引の支払方法を表す表現で、当月中の取引分はまとめて翌月末に回収するという意味です。ここで問題となるのが、信用に基づいて取引しているにも関わらず、約束の期日が過ぎても、お金が振り込まれない等のトラブルが発生することです。

 

では、そのような事態を防ぐためにはどうすればよいか、そして万が一回収不能になったらどうしたらいいのかを、解説していきます。

 

1.売掛債権とは?

 

売掛債権とは、信用取引において販売した側が「販売代金を請求することができる権利」をいい、手形を受け取った場合は受取手形、そうでない場合は売掛金となります。

 

※手形を受け取った時は、その手形を銀行に預けていないと期日にお金が入金されないので、必ず銀行に持って行きましょう。

 

2.まずは与信管理

 

まずは、取引先と信用取引を行う前に、ちゃんと期日に支払いをしてくれる会社かどうかを判断しましょう。

 

◆判断のポイント

 

●営業担当者からの情報

 

営業担当者に会社の情報を集めてもらいます。

 

・会社の雰囲気は?

⇒ もし整理整頓ができていないオフィスなら、こちらから送った請求書をちゃんと管理できていないかもしれません。

 

・社長の性格は?

⇒ もし社長が浪費家なら、支払いに必要なお金を置いていないかもしれません。

 

●商業登記簿謄本(履歴事項証明書)からの情報

 

商業登記簿謄本は誰でも法務局で取得することができます。取得して確認してみましょう。

 

・本店所在地や代表者がコロコロ変わっていないか?

⇒ コロコロ変えることで、これまでにも債務の支払いをうやむやにしてきた可能性が……。

 

・資本金の額は?

⇒ 資本金の額が1円等の低資本では、十分な支払い能力があるのかが懸念されます。

 

●不動産謄本からの情報

 

もしその会社が不動産を所有していたら、不動産の謄本も確認してみましょう。不動産を持っていること自体はプラス材料ですが、謄本を見てみると、思わぬ落とし穴があるかもしれません。

 

・担保として莫大な(根)抵当権が設定されていないか?

⇒ 抵当権が設定されていると、不動産を担保に借入れをしている可能性があります。

 

・通常の金融機関以外の(根)抵当権がついていないか?

⇒ 通常の金融機関以外の(根)抵当権が設定されている場合、より悪い条件で借入れをしている恐れがあります。

 

・差押え等の登記がされていないか?

⇒ 差押え等をされた事実がないか確認しておきましょう。

 

・所有者は誰になっているか?

⇒ 所有者の名義を確認しましょう。

 

上記の項目で問題があっても、信用取引をする必要がある場合は、与信枠を下げ、与信枠を超える部分については、先に入金してもらう等のリスクヘッジをしましょう。

 

3.信用取引を開始したら

 

信用取引を開始したら、必ず売掛債権の管理をしましょう。

 

会計ソフトに取引先別の登録をし、「売掛金の発生」「売掛金の回収」を記帳して、回収状況がすぐわかるようにしておきます。期日に入金がない場合等はすぐに相手先に連絡をいれ、支払い状況がどうなっているのかを確認しましょう。

 

※会計ソフトに記帳するのが難しい場合は、エクセル等でも大丈夫です。

 

4.期日が守られなかった時に回収する方法

 

期日までに回収ができなかった場合、以下のような対応策を取るようにしましょう。

 

4-1.まずは電話で催促

 

まずは電話等で期日までに入金がない旨を伝えましょう。支払いができないことに、何らかの事情があるかもしれません。「遅れた理由」「いつの支払いになるか」を確認してください。

 

ただし、支払うと約束してくれた期日に入金があるかはしっかり確認して、それでも入金がない場合は、必ず再度電話しましょう。

 

4-2.時効対策!

 

売掛金にも時効があります。原則として5年(商品売買の売掛金は2年)ですので、売掛金が消滅してしまわないように、時効の中断を検討しましょう※。時効は、①請求②差押え・仮差押え又は仮処分③承認によって中断します。

 

※2020年4月1日以降に生じた債権についての消滅時効期間は、権利を行使することができることを知った日から5年、もしくは、権利を行使することができる時から10年のいずれか早いほうとなります。

 

たとえば、売掛金の一部回収(③承認)、債務承諾書の作成(③承認)でも中断させることができますので、一部売掛金の支払いをしてもらうか、返済計画を立ててもらい、債務承諾書を書いてもらいましょう。売掛金の一部回収、債務承諾書の作成で、時効はリセットされて再スタートします。

 

4-3.内容証明を送る

 

何度電話をしても正当な理由がなく入金してくれない場合、内容証明郵便(いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって郵便局が証明する郵便)を送りましょう。詳しくは郵便局のホームページをご覧ください。

 

※内容証明郵便だと、時効完成は6ヵ月先に延びます(①請求)。

 

4-4.少額訴訟をする!

 

少額訴訟とは、通常の訴訟と違い、少額の金銭について簡便な方法かつ短期間に決着をつけるための制度です。以下のような特徴があります。

 

●1回の期日で審理を終えて判決をすることが原則

●60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用できる

●訴訟の途中で「和解」することもできる

●判決書又は和解の内容が記載された和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができる

●訴訟費用が安く抑えられる

 

4-5.支払督促を申し立てる

 

支払督促とは、裁判所から、取引先へ支払いをするよう命令を出してもらう制度です。以下のような特徴があります。

 

●金銭の支払い又は有価証券若しくは代替物の引渡しを求める場合に限り利用できる

●相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる

●書類審査のみなので、訴訟の場合のように審理のために裁判所に行く必要がない

●手数料は、訴訟の場合の半額で済む

●債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、民事訴訟の手続きに移行する

回収不能になった売掛金を損金算入するには条件がある

5.税務上の処理は?

 

回収不能が起こった場合の税務上の処理について確認します。

 

◆貸倒損失の計上

 

売掛金の回収ができないと見込まれる場合、貸倒損失を計上することになります。しかし、無条件に貸倒損失を計上できるわけではなく、税務上計上が認められるのは、以下のような場合に限られています。

 

●法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)

(1) 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
(2) 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関等のあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
(3) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

 

●事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)

債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合、その明らかになった事業年度において、その金銭債権の全額

(担保物がある時は、担保物を処分したあとでなければなりません)

(金銭債権の一部の金額について、貸倒損失を計上することはできません)

 

●形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)

(1)債務者との取引を停止した時や最後の弁済時等から1年以上経過した場合、売掛債権の額から備忘価額を控除した金額

(2)同一地域の売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払いを督促しても弁済がない場合、売掛債権の額から備忘価額を控除した金額

※形式上の貸倒れの対象となるのは、継続的取引を行っていた場合の売掛債権に限られます。

 

◆貸倒引当金の計上

 

貸倒損失が認められる範囲はかなり限定されていますので、ほかにも回収できないと見込まれていても、上記の要件を満たしていない金銭債権はたくさんあります。

 

このような金銭債権のうち、個別評価金銭債権に該当する場合は、一定の貸倒引当金を計上することができましたが、平成24年4月1日以後開始事業年度から、損金算入が認められる法人が、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下中小法人等、銀行・保険会社等、リース債権等を有する一定の法人に限定されました(※詳しくは国税庁「貸倒引当金の繰入対象となる個別評価金銭債権の範囲について」をご覧ください)。

 

これに伴い、上記以外の法人については、平成24年度から平成27年度の間経過措置が講じられましたが、その後は貸倒引当金制度の適用が原則廃止されています。これらの法人かつ、以下要件を満たす場合、損金算入が認められています。

 

●個別評価金銭債権の場合の貸倒引当金繰入限度額

(1)会社更生法、民事再生法、特別清算等の事実に基づいて、弁済が猶予されている金銭債権で、事業年度終了の日から5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額

(2)債務超過状態が相当期間継続し、かつ、その事業に好転の見通しがない等、金銭債権の一部の金額について、回収の見込みがないと認められる金銭債権で、見込みがないと認められる金額

(3)債務者に会社更生手続きの申立て、民事再生手続きの申立て、破産の申立て、特別清算開始の申立て、手形交換所による取引停止処分の事由が生じている場合、その金銭債権の額の50%

※実質的に債権とみられない金額、担保権の実行等により取立可能な部分は除く

 

また、回収不能となる見込みがない健全な金銭債権でも、将来の貸倒れに備える必要があります。このような金銭債権を一括評価金銭債権といい、一定の貸倒引当金を計上することができます。

 

●一括評価金銭債権の場合の貸倒引当金繰入限度額

(1)資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人のうち100%子法人等を除く法人等は、貸倒引当金の設定対象事業年度末の一括評価金銭債権の帳簿価額に、過去3年間の貸倒損失発生額に基づく実績繰入率を乗じて計算した金額

(2)1億円以下の普通法人かつ資本金が5億円以上の法人、相互会社又は受託法人よる完全支配関係がない普通法人等は、繰入限度額の計算により算出した金額

※詳しくは国税庁「No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」をご覧ください

 

[図表]
[図表]

 

◆まとめ◆

せっかくお仕事したのに、お金が回収できないのは避けなければいけません。代金の回収まで含めて仕事の完了です。しっかり与信管理、回収管理をして、回収不能を防ぐようにしましょう。そして、万が一回収不能になった場合にも、適切な対策ができるように行動しましょう。

 

税務上、貸倒れの規定は複雑になっています。貸倒れの可能性がある場合は早めに税理士さんに相談してください。

 

 

辛島 政勇

中央会計株式会社/税理士法人中央会計 税理士

 

中央会計株式会社/税理士法人中央会計
辛島行政書士事務所
株式会社First Step  税理士

昭和52年8月25日、大阪生まれ。
起業成功塾を始め、京都大学経営管理大学院・商工会議所等の起業セミナーの講師多数。
税理士事務所在籍中、起業支援サービスを提供するため、事務所のメンバー数名で株式会社First Stepを立ち上げ、「フジサンケイ ビジネスアイ」「賢者の選択」などのメディアに取り上げられる。起業支援実績年間300件。
現在、中央会計株式会社/税理士法人中央会計、株式会社First Stepの役員を務める。

著者紹介

連載「仕事」でも「私事」でも節税したい人に!税金にまつわる基礎知識

本記事は、『中央会計株式会社』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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