少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、親族内承継について考えていきます。

家業として次世代に継ぐ「親族内承継」

何十年も続けてきた会社、できるなら親族内で承継したいと考えている経営者は多いもの。やはり家業として代々繋いでいけることに、大きな魅力を感じているのでしょう。また親族承継であれば、前もって後継者を選出し、育てることができます。きちんと後継者として会社で修業していれば、社員やクライアントにも受け入れやすく、スムーズに承継できます。後継者としての素質を見極めるためにも、余裕持って入社してもらうといいでしょう。

 

一方で、親族内承継を考えるうえで問題もあります。そもそも子供に会社を引き継ぐ意思がなかったり、経営者としての素質がなかなかったりと、親族内に後継者の適任者がいないケースが考えられます。

 

帝国データバンクの調査によると、国内企業において後継者がいないと回答した企業は7割にものぼりました。「自分には子供がいるので安心」などと思わずに、早い段階で子どもや親族に話をしておくようにしましょう。

 

また会社の債務は現経営者が連帯保証人となっているケースが一般的で、後継者が会社を継ぐときには連帯保証も引き継がないといけません。しかし現経営者を信用してお金を貸している金融機関は、実績がない、財産がない、などの理由で、現経営者についている連帯保証が継げないことがあるので、注意が必要です。

生前贈与、相続、買収…親族内承継3つの方法

親族内承継には大きく分けて3つの方法があります。1つずつ、見ていきましょう。

 

■親族内の会社承継法1「生前贈与」

まず「生前贈与」。言葉の通り、現経営者がいるうちに後継者に会社を贈与する形で承継する方法です。生前贈与での会社を承継には、大きく二つのメリットがあります。まず「後継者を育てることができる」ことです。一般的に、後継者にしばらく会社で働いてもらい、会社の事業から経営まで一通り教える必要があります。もちろんケースバイケースですが、この期間は10年前後が一つの目安だそうです。

 

また「税金対策になる」こともメリットです。生前贈与の場合、毎年110万円の非課税枠があります。こちらの非課税枠を活用することで、税金対策には繋がります。

 

一方、生前贈与のデメリットも大きく二つあります。まず「贈与税が高くなる可能性が大きい」ということです。上記の非課税枠を活用しての税金対策と記しましたが、中小企業でも会社の評価額は数千万円から億単位までいくケースが多く、実際に会社を承継した時は、多額の贈与税を課税される場合があります。

 

たとえば、6,000万円の評価額が出た会社を生前贈与によって取得した場合、贈与税は「28,395,000円」もかかります。なお、贈与税対策として、贈与額の2,500万円までは非課税で、それを超えた金額に対して一律「20%」と課税する「相続時精算課税制度」という制度を利用することができますが、相続する財産によって、相続税が高額になる場合もあるので、専門家に相談するようにしましょう。

 

また相続とは違い、生前贈与の場合、「後継者は変更不可」です。従って、後継者を指定する前に、きちんと後継者にふさわしいか見極めることが非常に重要です。

 

■親族内の会社承継法2「相続」

2つ目の方法は、相続により会社を承継する方法です。この方法は前出の生前贈与と比較し、二つのメリットがあります。まず「非課税枠が多いため、税金が安くなる」場合があります。相続税の場合「3,000万円+600万円×法定相続人」と、大きな非課税枠があります。実際は、具体的な計算をしないといけませんが、贈与税より税金を安くなる場合が多いと言えます。

 

次に、相続であれば「後継者は変更可」です。一度指名したあと、実際に一緒に働いてみるとやはり会社を引き継がせることに不安になった場合、他の選択肢を選ぶことができます。

 

一方、相続による会社承継にも大きく二つのデメリットがあります。まず「相続税を支払うための現金を用意する必要」があります。非課税枠が大きいとはいえ、支払わなくていいというわけではありません。もちろん相続する財産にもよりますが、相続税を支払う現金を用意する必要があること認識しておきましょう。

 

また「株が分散される可能性がある」というデメリットがあります。現経営者が急に他界し遺言書がない場合は、会社は法定相続の対象となります。法定相続人が複数いる場合、株が分散してしまい本来の後継者は経営権が得られない可能性があります。そうならないためには、事前に遺言書を作っておくといいでしょう。確実性を高めるために「公証証書遺言書」の作成がおすすめです。

 

さらに「遺留分減殺請求の可能性」もあります。遺留分とは、法定相続人の権利を保障することですが、たとえば、遺言書で会社を後継者にすべて相続させると書いても、他の法定相続人がこれに従わない場合も考えられます。そうすると、相続を受けていない法定相続人が遺留分減殺請求をすれば、株の分散に繋がるリスクが出てくるのです。

 

遺留分減殺請求の対処方法としては、「無議決権株式」を発行する方法があります。わかりやすく言うと、株の価値はありますが、議決権はない株式のことです。そうすることによって、遺留分減殺請求をした法定相続人に株式が渡っても、会社の経営は出ません。

 

■親族内の会社承継法3「会社買収」

3つ目の方法は、後継者が会社を買収する方法です。後継者より会社を買収するとなると、単なる売買になり、相続税も贈与税も一切関係なくなります。また株が分散するなどのリスクもすべてなくなります。

 

しかし会社を買収するとなると、ファイナンスが最も大きな課題となります。さらに買収の場合、会社が現在抱えているすべての債権を買うことになるので、金融機関から認めてもらえない可能性があります。また会社の売買では、現経営者に「会社売却益×30%」の法人税が課税されることも忘れてはいけません。

 

 ◆まとめ 

親族内承継を成功させるためのポイントをまとめました。

 

1.余裕を持って準備をスタートする

実際に事業承継となった時に、後継者がいなくて途方に暮れるという事態にならないよう、余裕持って準備を進めることが大切です。

 

2.遺言書などの書類をきちんと用意する

1人の後継者が会社を継ぐ場合、他の法定相続人から不満が出る可能性があります。渡ラブル回避のためにも、前もって遺言書を作成しておきましょう。

 

3.税金対策をきちんと立てる

生前贈与にしても、相続で会社を継ぐにしても、贈与税と相続税を課税されます。

 

4.無理をして親族内承継をしない

継ぐ意思もないのに無理やりに承継させると成功しません。後継者候補に考える余裕を持たせるとともに、継ぐ会社を経営できるように、バックアップすることが大切です。

 

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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