9月のトピック
7月の景気ウォッチャー調査によると景況感の足を引っ張ったのは①米中貿易摩擦、韓国などの海外要因、②消費税引き上げ、③天候要因など。マインド指標は弱いが、実態の消費指標は天候など一時的要因を除けば、まずまず。身近なデータも景気の底堅さを示唆するものが多い状況続く
3カ月連続悪化で、微妙な水準まで低下した7月の景気ウォッチャー調査の現状判断DI(季節調整値)
いわゆる街角景気の景況感はかなり微妙なところにきている。7月の景気ウォッチャー調査は8月8日に公表されたが、景況感の方向性を示す現状判断DI(季節調整値)は41.2と3カ月連続で悪化した。41.2は熊本地震が発生した16年4月以来、3年3カ月ぶりの低水準だ。季節調整値のある02年1月以降211カ月中で、低い方から39位タイである。これより低い数字のほとんどは09年までのもので、10年以降は東日本大震災のあった11年3月、4月、5月と、消費税率が引き上げられた14年4月の計4回しかない。9月9日発表の8月調査の結果が注目される。なお参考値である7月の現状水準判断DIは40.2で、これは歴代74位にとどまる。また、先行き判断DIは44.3で、歴代50位である。
消費税引き上げ1年前の昨年10月分から11カ月連続悪化の消費者態度指数。高齢者のマインドは連続悪化
景気ウォッチャー調査と同様にマインド系の指標はこのところ弱含んでいる。内閣府「消費動向調査」の二人以上世帯の消費者態度指数は季節調整値が18年9月の43.3以降、また原数値が18年9月の43.5以降、消費税引き上げ1年前の18年10月から11カ月連続悪化し、19年8月でそれぞれ37.1、37.2まで低下している。二人以上の世帯の年齢階級別(10歳刻み)のデータ(原数値)をみると、70歳以上が18年9月42.0から19年8月の35.6まで低下した。▲15.2%という下落率は全年齢階級のうち一番大きい(図表1)。もともと低めであった、年金暮らしの高齢者の消費者態度指数が先行き不安感から一段と悪化しているようだ。
7月景気ウォッチャー調査で最も注目された要因は「消費税・増税」、「2000万円」問題は6月・7月とマイナスに作用
景気ウォッチャー調査は現状の景況判断を「良くなっている」「やや良くなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」の5段階で回答する。DIを作成する時には0.25刻みでそれぞれ1から0までの点数を与え、これらを各回答区分の構成比に乗じて、DIを算出する。50が景気判断の分岐点である。日本経済の縮図になるよう、バランスよく選ばれた地域と分解・業種の2つの軸から景気ウォッチャーは、なぜそう判断したかの理由を明記するので、判断理由に含まれるキーワードから、どういった要因が注目され、判断にどう影響したかがわかることになる(図表2)。なお、比較対象は原数値になる。7月の現状判断DIは(原数値・参考)41.7、先行き判断DIは43.9である。
7月の景気ウォッチャー調査で最も注目された要因は「消費税・増税」だった。「消費税・増税」関連現状判断DIをつくると43.5と全体の現状判断DI41.7よりやや高く、124名が回答した。先行き判断では578人と全回答者1,856人中(回答率90.5%)約3割強の人が「消費税・増税」に触れ、そのDIは39.1であった。6月調査の450人より増加し、DIも48.2から大きく低下した。6月調査では先行きの駆け込み需要に期待する向きも多かったが、2~3カ月先の判断ではマイナスの影響が意識されたことがわかる。
また、6月に公表された金融庁の報告書により老後資金「2000万円」問題が注目されたこともマイナスに作用した。「2000万円」というキーワードは6月に初めて11件登場した。6月の「2000万円」関連現状判断DIは31.8である。このキーワードで約0.1ポイント分全体の現状判断DIを押し下げたとみられる。6月全体の現状判断DI下落幅はわずか0.1ポイントだったので、「2000万円」問題が生じなければ、3カ月連続の悪化はなかったとみられる。7月では「2000万円」を採り上げた景気ウォッチャー調査は6名に減少したが、関連DIは16.7まで低下した。
生活者短観で前回調査比連続して増加している項目は「マスコミ報道を通じて」「景気関連指標、経済統計をみて」
生活者短観と呼ばれる四半期調査、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、現在の景況感DIは18年6月が直近のピークで▲9.9だったが、1年後の19年6月には▲25.0に低下した。1年後の景況感DIは18年3月が直近のピークで▲15.2だったが、19年6月には▲36.1まで低下した。景況判断の根拠については、「自分や家族の収入の状況から」「勤め先や自分の店の経営状況から」を理由に挙げる人が多いが、直近の19年6月は19年3月に比べどちらも低下した。18年12月、19年3月、6月とこのところ前回調査比連続して増加している項目は「マスコミ報道を通じて」「景気関連指標、経済統計をみて」という理由である(図表3)。米中貿易戦争などを伝える報道や、景気動向指数の機械的な景況判断が一時的に「悪化」になったことなどが影響している可能性がありそうだ。
また、「ESPフォーキャスト調査」8月特別調査で、「半年から1年後にかけて景気上昇を抑える可能性がある要因」(3つまで)の回答で、8月調査の第1位は「中国景気の悪化」、第2位は「円高」、第3位は「消費税率引き上げ」となった。
7月景気ウォッチャー調査では多くの海外要因がマイナスに作用した。7月に「中国」を判断理由にした人は11人だったが、「中国」関連現状判断DIは31.8と低水準だ。「貿易摩擦」DIは20人で33.8とこちらも低い。7月には「韓国・日韓」関連現状判断DIが28.3で判断理由に挙げた人も5月0人、6月3人に比べ30人に急増した。3人が「香港」について触れ、同関連現状判断DIは33.3である。
7月の景況感に梅雨明けの遅れなど天候要因が作用。8月の消費関連指標で持ち直しているものも
今年は九州南部から東北北部にかけて全国的に梅雨明けが7月24日頃から7月31日頃となって平年よりも遅かった。7月景気ウォッチャー調査で「梅雨」関連の現状判断DIは6月45.1(46人)だったが、7月は前年同月の約5倍弱の125人が判断理由に挙げた。ちなみに19年7月の「梅雨」関連の先行き判断DIは45人で56.1と、梅雨明け後の天候に期待していることが読みとれる数字となった。
「気温」関連の現状判断DIは6月が52.1(12人)だったが、7月は33.8(74人)に大きく低下した。一方、7月の同先行き判断DIは52.8(18人)で、判断分岐点の50を上回っている。低温などによる夏物商戦のマイナス作用は一時的であることがわかる。
ナウキャストのJCB消費NOWの前年同月比は、7月が▲1.190%と17年2月の▲0.278%以来2年5カ月ぶりのマイナスになったが、気温が上昇し夏物商品が売れた8月前半は+1.603%とプラスに転じた(図表4)。また、主要百貨店大手5社の8月売上高(既存店ベース、速報値)は三越伊勢丹、高島屋、そごう・西武、阪急阪神百貨店の4社が前年同月比増加となった。台風や大雨で一時的に営業時間を短縮する店舗があったが、消費税引き上げ前で宝飾品などの高額品が堅調、また気温の上昇で夏物衣料品や雑貨の売上高が良かったようだ(図表5)。
毎年8月上旬に開催される、青森ねぶたまつり、秋田竿燈まつり、仙台七夕まつり、山形花笠まつりの人出は今年多かった。東北4大まつりの人出の合計は739万人で昨年の710万人を上回った(図表6)。
笑点視聴率の動向が示唆した4~6月期GDPでの実質個人消費堅調。7~9月期も9月1日の週まで、堅調示唆
消費者マインドに関する指標は弱いものが多いが、実際の消費関連指標はしっかりしているものが多い。令和最初の四半期である19年4~6月期実質GDP成長率・第1次速報値は、内需主導で前期比+0.4%、前期比年率+1.8%と3四半期連続のプラス成長になった。その6割弱を占める最大の需要項目の実質個人消費は前期比+0.6%の増加。現行統計で遡れる80年からの4~6月期の平均の+0.3%の倍の伸び率になった。10連休での旅行需要や、令和婚に絡んだ需要などが出たものと思われる。
4~6月期の個人消費が高めになったことと整合的な身近な指標がある。日本テレビ系列で毎週日曜日の夕方5時半から放送される「笑点」の視聴率が、4~6月期はビデオリサーチ関東地区の「その他娯楽番組」の週間ランキングで1回も第1位となることがなかったことだ。「笑点」の視聴率は消費税引上げがあと1年となった18年10月からビデオリサーチのその他娯楽番組の中で1位になることが多くなった。買い物やレジャーなどの外出をしないで、日曜夕方5時半からのテレビを見ている人が相対的に多いことを示唆していた。しかし1~3月期の半ばから状況が変わった。そして4~6月期は一度も第1位になったことはなかった。第1位をとったことのない四半期は今回の景気拡張局面で17年1~3月期以来4度目だが、これまでゼロ回の時は個人消費の前期比はしっかりした伸び率になっていた(図表7)。19年4~6月期も堅調な伸び率になった。ちなみに7~9月期も9月1日現在、「笑点」の視聴率がビデオリサーチのその他娯楽番組の中でその週の第1位をとっていない。
景気ウォッチャー調査で、4月58.2、5月55.2と高水準だった「改元」関連現状判断のDIに変わる明るい材料としては、「ラグビーワールドカップ」が挙げられよう。7月では現状判断では1人しか回答がない(DIは50.0)が、先行き判断DIは61.4で11人である。9月の開幕に向けて増加が期待される。
競馬売上、プロ野球ペナントレース、粗大ゴミ、金融機関店舗強盗、もやしなど身近なデータには景気の底堅さを示唆
7月の自殺者数が前年同月比+0.6%と5カ月ぶりに増加に転じたものの、1~7月の累計前年比は▲2.7%と10年連続の減少に向けて推移している。自殺者数のように一部に若干陰りがあるものもあるが、身近なデータには景気の底堅さを示唆するものが引き続き多い。JRA日本中央競馬会の売上(売得金)は9月1日までの年初からの累計で前年比+4.5%で、8年連続増加へ向けて順調に推移している。プロ野球9/2時点で、パリーグはソフトバンク、セリーグでは巨人が首位をキープしている。クライマックスシリーズがあるものの、このまま行って、日本シリーズの対戦カードが人気1位同士の組み合わせになれば、消費税引き上げを乗り越えて景気拡張局面継続のシグナルとなる。
東京23区清掃一部事務組合の1作業日当たり粗大ゴミの前年同月比は18年11月から19年7月まで9カ月連続増加している。09年から11年頃に実施されたエコポイントの活用により購入されたテレビは平均使用年数(19年3月調査)の9.7年を迎え、買い替えが出ていることを示唆していよう。金融機関の店舗強盗件数は7月20日までで6件と18年同時期の12件の半分にとどまっている。17年は26件、18年は17件だったが、19年はさらに減少が見込まれる状況である。不況期や野菜の値段が高い時期に購入が増えるもやしの1カ月の購入金額は、直近のデータである19年6月の家計調査で77円と18年6月の81円を下回っている(図表8)。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『9月のトピック 7月の景気ウォッチャー調査によると景況感の足を引っ張ったのは』を参照)。
2019年9月3日
宅森 昭吉
株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト