※本記事は、2019年9月5日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

5年に1度発表される公的年金の財政検証。ここから見えてきたのは将来の年金給付の水準が今より低下すること。そして資産運用をするうえでの新たなリスクでした。

公的年金の財政検証が発表!

8月27日、厚生労働省から財政検証が発表されました。これは、5年ごとに作成される、公的年金(国民年金及び厚生年金)の財政の現況および見通しを示したものです。

 

言い換えれば、公的年金が今後も持続可能かどうかを定期的に確認するための報告書です。

※厚生労働省のウェブサイトに詳しい資料が掲載されています。

 

この財政検証を「個人投資家目線」で見ていきます。

将来は所得代替率が50%を維持できない!

ここで一つ覚えておいていただきたい用語があります。それは「所得代替率」です。これは公的年金の給付水準を示す指標で、現役男性の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表されます。

 

所得代替率=(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男性の平均手取り収入額

 

政府が国民に対して一応の約束をしているのが、「所得代替率50%の維持」です。現役世代の収入の50%は、年金によって賄うようにしよう、というものです。

 

現状は、この所得代替率が61.7%となっていますが、これが今後どう変化するかの予測を、経済成長率等の推移をもとにケースⅠからケースⅥまで6パターン挙げています。

 

このうち、最も経済成長が好調に推移するケースⅠであっても、2046年度に所得代替率は51.9%に低下してしまいます。さらに、ケースⅣ~Ⅵにおいては、所得代替率50%を維持することができず、ケースⅥでは将来的に38%程度まで下がってしまうと試算されています。

 

ただ、これらの試算も、物価上昇や賃金上昇が今後も生じ続けるという前提です。そのため、エコノミストや有識者の中には、これでも検証結果は甘すぎると指摘している方もいます。

これからの日本では経済成長は期待薄?

筆者が個人的にとても気になる点があります。それは、ケースⅠからⅥまでの試算の前提となる、実質経済成長率がかなり低いことです。

 

ケースごとの実質経済成長率は以下のとおりです。

 

・ケースⅠ0.9%

・ケースⅡ0.6%

・ケースⅢ0.4%

・ケースⅣ0.2%

・ケースⅤ0.0%

・ケースⅥ▲0.5%

 

最も経済成長が順調に推移するとされるケースⅠでさえ、実質経済成長率が1%にも満たない低さなのです(2018年度の実質成長率は0.7%)。これは、日本政府が今後の日本の経済成長はほとんど期待できない、と言っているようなものと筆者は認識しています。

 

そして、厚生労働省ウェブサイトに掲載されている「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」には、以下のような記述があります。

 

「経済成長と労働参加が進まないケースⅥでは、機械的に調整した場合、2052年度に国民年金の積立金が無くなり、完全賦課方式に移行。ただし、ケースⅥは、長期にわたり実質経済成長率▲0.5%が続く設定であり、年金制度のみならず、日本の経済・社会システムに幅広く悪影響が生じ、回避努力が必要」

 

公的年金は、国民から集めた保険料を運用し、その運用益を年金の支払いに充てています。

 

ところが、経済成長率がマイナスになれば、当然株価にも悪影響を及ぼします。下手をすると、年金積立金の運用もマイナスとなり、年金の給付がさらに厳しくなってしまう可能性も否定できません。ケースⅥではおよそ30年後には年金積立金自体がなくなってしまうと言っているのです。

 

経済成長率がプラスであっても、それが1%に満たない水準であれば、株価の長期的な上昇もかなり厳しいのではないでしょうか。

バイ・アンド・ホールドの長期保有で本当に大丈夫?

「2,000万円問題」も相まって、資産運用への関心が高まっています。そしてファイナンシャルプランナーなどの専門家の方は、その多くが「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」といった、税制上の恩恵を受けることができる制度を勧めています。

 

しかし筆者は、その現状に対して危惧しています。なぜなら、iDeCoやつみたてNISAといった制度は、「バイ・アンド・ホールド」「長期保有」が前提で作られているからです。

 

長期保有をする投資信託として推奨されるのは、「日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数に連動するインデックス型の投資信託」です。

 

しかし、もし日本経済が今後ほとんど成長しないとしたならば、長期間投資したとしても株価はほとんど上がらないかもしれません。

 

さらには、上のケースⅥのようにマイナス成長ともなれば、株価の下落は避けられないでしょう。景気が悪化すれば企業業績も悪化してしまうからです。

 

そうなると、長期保有すればするほど株価が値下がりしていき、老後の資金を作るつもりが逆に資産を減らすことにもなりかねないのです。

低成長時代を乗り切る現実的な対応策とは?

厚生労働省でさえも、これからの日本はほとんど経済成長できないと認めています。こうした状況では、日経平均株価やTOPIXに連動するような投資信託に投資して長期保有をしたとしても、逆に株価が値下がりしてしまう可能性が高いと言わざるを得ません。

 

また筆者は、日本だけでなく世界的に低成長が続く中、右肩上がりの経済成長を前提とした「長期保有」のこれからの有効性に疑問を抱いています。

 

では、経済成長がほとんど見込めず、日経平均株価やTOPIXも長期的に見て右肩上がりの上昇に懸念を持っているとしたら、どのような投資手法を用いればよいのでしょうか。

 

筆者は、「将来の成長が見込まれる企業」を「上昇トレンドの時だけ保有」することで、十分資産を増やすことが可能と考えていますし、実際もそのスタンスで行動しています。

 

もし日本全体が低成長、マイナス成長になってしまうとしても、それは国全体の話です。個々の企業を見れば、元気いっぱいで成長を続けているところも数多くあります。

 

したがって、将来の経済成長および株価の上昇が見込まれる銘柄を自分で探し、投資すればよいのです。

 

そして、株価が値下がりを続ける下降トレンドのときは保有せず、上昇トレンドのときのみ保有するようにします。こうすれば、余計な時期に株を持たずに済みます。

 

バイ・アンド・ホールド、長期保有の場合は株価が値下がりしている時期であっても保有を続けますが、それは長期的に株価が右肩上がりに上昇する前提だからです。その前提が揺らいでいるのであれば、今後株価がさらに値下がりする可能性が高い下降トレンドの状況で保有を続ける必要はない、これが筆者の見解です。

 

 

足立 武志

足立公認会計士事務所

 

※本記事は、2019年9月5日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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