本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

7月分鉱工業生産指数前月比+1.3%、経産省先行き試算値・上限値を上回る伸び率に

 

但し、6月分の大幅減の反動増で、4~6月平均比下回る水準。基調判断「一進一退」で据え置き

 

7月分景気動向指数の一致CI前月差は上昇に、基調判断は「下げ止まり」継続

 

8月分景気動向指数の基調判断が「下げ止まり」か「悪化」か?カギ握る9月末発表の生産指数

 

 

(鉱工業生産)

 

●鉱工業生産指数・7月分速報値・前月比は+1.3%と2カ月ぶりの増加になった。15年を100とした季節調整値の水準は102.7と、19年5月分(104.9)以来の指数水準になった。また、前年同月比は+0.7%と6カ月ぶりの増加になった。

 

●6月分鉱工業生産指数は前月比▲3.3%の大幅減少、15業種中、13業種が減少だった。この反動が今回の7月分に出て前月比+1.3%の増加になった。15業種中、11業種が増加である。

 

●但し、4~6月期の指数水準は103.0だったので、7月分対4~6月平均比は▲0.3%の減少となる。このところ四半期ごとにみると増減を繰り返している。経済産業省は基調判断を「総じてみれば、生産は一進一退」と4月分以降4カ月連続で据え置いた。

 

●経済産業省の鉱工業生産指数の先行き試算値は過去の修正パターンを機械的に反映させたものだ。7月分の前月比は最頻値で▲0.3%の減少見込み、90%の確率に収まる範囲は▲1.3%~+0.7%だったが、実績は前月比+1.3%で、上限値を上回る伸び率となった。

 

●7月分鉱工業生産指数では、自動車工業、化学工業(除.無機・有機化学工業・医薬品)、パルプ・紙・紙加工品工業等11業種が前月比増加。無機・有機化学工業、石油・石炭製品工業、電気・情報通信機械工業3業種が減少。窯業・土石製品工業1業種が前月比横ばいだった。

 

●7月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+2.6%と生産を上回る伸び率で2カ月ぶりの増加となった。前年同月比は+1.8%で、8カ月ぶりの増加になった。指数水準は102.4で19年5月の104.0以来の水準である。

 

●7月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲0.3%と6カ月ぶりの減少となった。前年同月比は+2.4%と9カ月連続の増加となった。7月分の指数水準は104.4、15年基準で過去最高水準になった6月分から0.3ポイント低下した。

 

●7月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲2.2%で3カ月ぶりの前月比低下となった。7月分の指数水準は107.4、15年基準で過去最高水準になった6月分から2.4ポイント低下した。

 

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期で「在庫積み上がり局面」に入った。18年1~3月期から7~9月期まで「在庫積み上がり局面」であった。18年10~12月期は、10~11月分までは出荷の前年同月比が在庫の前年同月比を上回り「在庫積み増し局面」に戻ることが一時的に期待されたものの、最終的には10~12月期全体では出荷の前年同期比が+1.1%、在庫が同+1.7%となり、「在庫積み上がり局面」のままであった。19年1~3月期は出荷の前年同期比が▲1.6%、在庫が同+0.2%、19年4~6月期は出荷の前年同月比が▲2.7%、在庫が同+3.0%と推移した。19年7月では出荷の前年同期比が+1.8%、在庫が同+2.4%と第1象限に移行したが、依然として「在庫積み上がり局面」の状態にあることが確認された。

 

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると8月分は前月比+1.3%の増加、9月分は同▲1.6%の減少と一進一退の見込みである。但し、過去のパターン等で修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、8月分の前月比は最頻値で▲0.7%の減少見込みになる。90%の確率に収まる範囲は▲1.7%~+0.2%になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数を、8月分は先行き試算値最頻値前月比(▲0.7%)、9月分は前月比(▲1.6%:製造工業予測指数)で延長すると、7~9月期の前期比は、▲1.3%になる。また、先行きの鉱工業生産指数を、8月分・9月分を製造工業予測指数の前月比(+1.3%、▲1.6%)で延長した場合は、7~9月期の前期比は0.0%の横這いになる。このところ鉱工業生産指数は四半期ごとにみると前期比増減を繰り返している。4~6月期が増加だったこともあり、7~9月期が続いて前期比増加になるのは難しい状況と言えそうだ。

 

(7月分景気動向指数、一致CIは前月差上昇、基調判断は「下げ止まり」継続。)

 

●7月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲0.1程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、8月30日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列で、最終需要財在庫率指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列が前月差プラス寄与に、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数の4系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列は、前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●7月分の一致CIは前月差+0.4程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列で、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の5系列が前月差プラス寄与に、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●一致CIを使った7月分の景気の基調判断は、予測通り一致CIが+0.4程度の前月差上昇であれば、3カ月後方移動平均は、7カ月後方移動平均とも前月差は下降になる。「悪化」へ下方修正されるには、3カ月後方移動平均の前期差が3カ月連続下降になることが必要なため、7月分で判断が下方修正されることはない。「景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高いことを示す」意味を持つ「下げ止まり」と言う判断継続となろう。

 

●重要なのは10月7日に発表される8月分の動向だ。5月分の一致CIの指数水準は、5月1日・2日の祝日に工場を稼働させた企業が結構あったことなどもあり高水準である。このため8月分で3カ月後方移動平均前月差は3カ月連続下降になる可能性が大きい。「悪化」への下方修正を回避するには8月分の一致CIの前月差が+0.1でもよいから上昇になることが必要で、そうではないと10月1日の消費税率引き上げ直後に景気動向指数の基調判断が再び「悪化」に転じてしまうことになる。一致CIの第一採用系列の生産指数の前月比が増加になるか減少になるかは、製造工業予測指数からみて微妙な状況だ。消費税率引き上げ直前、9月30日発表の8月分の鉱工業生産指数・速報値の行方は注目されよう。

 

●7月分の先行DIは11.1%程度と3カ月連続して景気判断の分岐点の50%割れになると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、8月30日午前9時時点で数値が判明している8系列で、中小企業売上げ見通しDI1系列がプラス符号、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の7系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは11.1%以上22.2%以下になることが確定している。残る、新設住宅着工床面積1系列がマイナス符号になると予測した。

 

●7月分の一致DIは14.3%程度と2カ月連続して景気判断の分岐点の50%割れとなると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列で、鉱工業生産財出荷指数1系列が前月差プラス符号に、生産指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の6系列がマイナス符号になると予測した。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2019年7月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

2019年8月30日

 

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

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