少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、M&Aにおいて売手会社、買手会社、それぞれのメリットと注意点を解説します。

会社を売ったら「同業で起業」はできない

M&Aの取引実績数は、現在、年間「3,000件」を超え、10年前のなんと3倍にもなりました。また中小企業の調査では、大手企業よりも中小企業によるM&Aに実績が多くなったというデータも出ています。つまり、M&Aは中小企業にも浸透し、多くの関心を集めているのです。

 

そもそもM&Aは、大きく6つの手法があります。

 

(1)売手会社の株式を全て買手会社に譲渡する「株式譲渡」

(2)売手会社の株を買手会社の株と交換する「株式交換」

(3)買手会社が新しく会社を立ち上げて、売手会社の株を移転させる「株式移転」

(4)売手会社の事業を買手会社に譲渡する「事業譲渡」

(5)売手会社を分割して、分割した部分を買手会社に移転する「会社分割」

(6)買手会社と売手会社と「合併」

 

M&Aで成功するには、自身の会社にとって、最大限にメリットをもたらす最適な手法を選ぶことが大切です。どのような手法であれ、事前に売手会社も買手会社も、M&Aのメリットや注意点を把握しておくです。

 

売手会社のメリットとしては、まず「売手会社経営者の売却益を確保できる」ことです。

 

もちろん、M&Aの手法、事業、会社の規模によって利益幅は異なりますが、中小企業の株主は1人の場合が多いため、その売却益を全部得るケースが多いです。

 

また事業承継などの問題を解決できる可能性があるのがM&Aです。帝国データバンクの調査によると、約7割近い会社は後継者がいないという深刻な状態だといいます。そのため会社のためであればM&Aを活用して後継者問題を解決しようと考える経営者が増えているのです。

 

さらに大手企業と株式交換やグループ企業化などの手法を活用すれば、大手企業の資金力、営業力、ノウハウなどを得て、事業を拡大させられる可能性があります。自社だけの力だと5年かかるものを、大手企業の力を借りることによって、それが1年で達成できることも十分考えられるのです。自分の会社が目指していた目標に合せて、最もシナジー効果を最大限に発揮できるM&Aを活用しましょう。

 

ほかにも、「連帯保証などの個人保証の解除」や「赤字経営の脱却」、「経営者としてのリスタート」など、M&Aは売手会社に様々なメリットをもたらすのです。

 

一方、M&Aにおいて、売手会社が注意すべきことが2点あります。

 

まず売却後に運営義務が発生する場合があります。これは混乱が生じないよう、期間限定で今の代表に残ってもらうというもの。1~3年程度と買手会社によって異なります。買収後少しずつ運営体制を変えたり、次の適任者を探したりする期間と考えておきましょう。

 

また会社を売却した場合、20年間競争避止義務が発生し、同じ事業内容ができなくなるので、注意が必要です。契約書にも記載されるものなので、会社を売却する前にきちんと認識しておきましょう。

企業買収後、思わむ債務が発覚することも

買手会社のメリットとしては、買収先の技術力を活用した開発であったり、営業力強化による売上アップだったりと、M&Aによって売手会社とのシナジー効果が期待できます。自社が不得意とする分野を補ってくれる会社や事業を買収することで、シナジー効果は最も高くなると言えるでしょう。

 

またM&Aにより、他業種への参入が容易に実現します。ただし他業種での経営ノウハウなどがあるわけではないので、現経営陣に残ってもらうなど、対策が必要です

 

さらに会社を買収して、自分で運営するのではなく、オーナーとして所有していれば、不労所得を得ることができます。その場合、優秀な経営者を雇うことが非常に重要になるでしょう。

 

一方M&Aに際し、買手会社にも気を付けるべきことがあります。

 

まず売手会社の簿外債務が発覚する恐れがあります。多くの会社は決算書に記載されていない債務、たとえば将来に支払う退職金やリースなどの債務を抱えているものです。一般的に、監査法人が財務監査する時にそのような簿外債務を細かく調査を行います。それでも、当初回収見込みの売掛金が回収できない債権だったり、訴訟リスクを抱えていたりなど、会社を買収したあとにわかるケースは珍しくありません。

 

そうならないためには、売手会社が出したデータを参考にすることはもちろん、気になるリスクについては徹底的に洗い出す事が重要です。

 

また当初の予定より売掛金の回収が遅れたり、運転資金が不足したりして、金融機関への返済が厳しくなるケースもあります。返済が遅れると会社の信用度に大きく関わるので、事前にこのような予期せぬ事態が起こりうることを認識しておきましょう。

 

さらに引継ぎで失敗するケースもあります。一般的には、売手会社は最終契約が完了したあとに、社員、取引先、銀行などへ会社を売却したことを開示します。なかには会社が売却されたことを知り社員が辞めたり、クライアントが離れていったりなど、期待していた売上どころか、一気に赤字に転落したケースもあります。

 

そうならないように、買収の具体的な条件調整に入ったときから、買収後の引き継ぎで起こりうるリスクの洗い出し、営業方針などを売手会社の経営者と調整するようにしましょう。

 

 まとめ 

買手会社にとっても売手会社にとっても、メリットの多いM&Aですが、注意しないと、最悪、会社を潰しかねない事態も起こりえます。良い面だけでなく、注意点とその回避策もきちんと認識し、計画的に進めることが肝心です。

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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