誰でも一度は経験するであろう相続。しかし、「争続」の言葉が表すように、相続に関連したトラブルは尽きない。なかには、生前の対策によっては避けられたであろうトラブルも多く、相続を見越した行動が求められる。本記事では、法律事務所に寄せられた相続事例を2件紹介する。

膠着状態だった遺産分割協議が、母の死により暗礁へ…

相続にまつわる話は、あちこちでよくお聞きのことと思います。いささか食傷気味でしょうが、おひとつどうぞ。


姉は両親と同じ市内に、妹は新幹線を利用して片道約4時間くらいのところに住んでいます。姉は主婦、妹は医師です。


父が亡くなり、遺産分割の協議中に、母も亡くなりました。父の遺産分割のときから、協議は膠着していましたが、母の死によって分割協議はいよいよ身動きが取れず、双方弁護士が代理人になりました。


両親の近くにいた姉のほうが、日常の世話をしてきたと推測されますが、土地、建物、預貯金、株もすべて真半分に分割しました。自宅地を分割するときの隣地立ち会い(隣地への挨拶)も、妹側からは遠方だから一任するということで、姉だけが立ち会いました。

 

自宅地を更地にするため、両親の自宅建物を取り壊す連絡をしたら、妹側は動産類をみるまで壊さないでほしいと申し出てきました。また父名義の車をもつ妹は「この車は生前に贈与されたものなので、無償で自分の名義にしてほしい」とのことでした。

 

「無償で自分の名義にしてほしい」
「無償で自分の名義にしてほしい」

 

また、貸金庫から古銭約50枚がでてきましたが、妹側から「子供にみせたい」という主張があり、こちらも半分ずつにしました。

 

依頼者である姉は「両親が亡くなる前はごく普通の姉妹だったのに、どうしてこうなったのかわからない・・・」と最後につぶやいていました。


相続財産ではない祭具一式については、取り決めをしておらず、慣習的に姉が引き継いだと思われます。「死んだあとのことは、相続人間でどうにかすればいい」と思って財産を残すと、お墓は苔むしてしまうかもしれませんね。

夫の死去後に「再婚と隠し子」の事実が発覚

相続にまつわる話は大体どれもが血族間のまさしく血みどろの争いですが、今回はそんなことばかりでも・・・。


夫が亡くなってから四五日も過ぎたので、同居の一人娘と半分ずつ遺産(自宅地のほかに土地と預貯金)を分割しようと相続登記を司法書士に依頼された夫人は、戸籍調査によって、夫が再婚だったこと、もう一人の娘さんがいたことをはじめて知りました。夫は再婚だったのです。聞いたこともなく、会ったこともない、もう一人の娘さんとどのように遺産分割の話を進めていいかわからず、法律事務所に相談に来られました。遺産分割では、親子間ですらもめてしまうことがあります。ましてや他人ですから、心配もことさらです。


被相続人の近況と死亡原因、依頼者が今はじめて相手方のことを知ったことを事実どおり述べ、元金約100万円の郵便貯金を承継してもらうことで、遺産分割に合意してもらえないかをまず通知してみました。説明のため、こちらから訪問してもよいと一筆加えておきました。

 

するとすぐに、前妻の夫から連絡があり、「親戚にはとやかくいう人もいるが、私にまかせてもらった。そちら側のいうとおりで協議を成立させてください。自宅には伺いませんが、墓地の住所地だけ教えてください」とのことでした。この方は、前妻の3番目の夫で、前妻の娘さんと養子縁組をされていました。しかも娘さんは神経を病んで、現在自宅療養中とのことでした。


遺産分割交渉のテクニックにおいて、隠し事をせず理にかなって誠心誠意をもって接するということが大切です。しかしそれ以上に、相手の人格が決定的な場合が多いでしょう。
 

本連載は、「弁護士法人グリーンリーフ法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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