「中退共」という制度をご存じでしょうか。中退共とは、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が設けている、中小企業のための国の退職金制度です。本記事では、この制度について、税理士法人中央会計の辛島政勇氏が解説します。

中退共制度のしくみ、加入条件、手続き方法

① 事業主が中退共と退職金共済契約を結びます。後日中退共から事業主に従業員ごとの共済手帳が送付されてきます。

② 毎月の掛金を金融機関に納付します。その掛金は全額事業主負担になります。

③ 事業主は、従業員が退職したときには、「被共済者退職届」を中退共へ提出し、「退職金共済手帳(請求書)」を従業員に渡します。

④ 退職した従業員が中退共に退職金支払いの請求をします。

⑤ 中退共から退職金が直接従業員に支払われます。

 

出所:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/taisilyokukin_kyousai/ippanchuutai/)
[図表1]中退共制度のしくみ 出所:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/taisilyokukin_kyousai/ippanchuutai/)

 

従業員が退職した際には事業主は中退共へ「被共済者退職届」提出し、「退職金共済手帳(請求書)」を従業員に提出するだけで、退職金は直接中退共から従業員に支払われることになります。

 

◆加入条件と加入手続き

 

この制度に加入できるのは以下に示す企業になります。

 

[図表2]加入できる企業

 

※常用従業員数とは、1週間の所定労働時間が正社員とおおむね同等であり、雇用期間が2ヵ月を超える方(雇用期間の定めがない方を含む)をいいます。個人企業や公益法人等の場合は、常用従業員数によります。

 

従業員は原則全員加入となります。ただし、期限を定めて雇用される従業員、試用期間中の従業員、短時間労働者や定年などで短期間内に退職することが明らかな従業員は加入させなくても構いません。

 

法人の役員は原則加入することができません。ただし、従業員として賃金の支給を受けている等の実態があれば、加入することができます。

 

◆加入手続き

 

① 加入させようとする従業員の同意を取ります。

② 従業員個々の掛金月額を決定します。

③ 最寄りの金融機関(ただし、ゆうちょ銀行・農協・漁協・ネット銀行・外資系銀行は除きます)または商工会議所やTKC企業共済会等の委託事業主団体に、必要書類を提出してください。必要書類は窓口にあります。申込金は必要ありません。法人の履歴事項全部証明書が必要になります。

掛金減額が困難…そのほかにもデメリットが多い

従業員は原則全員加入であることや、減額の際には従業員の同意が求められることもあり、経営していく上でデメリットになる部分も多く存在すると考えられます。これらを考慮したうえで、加入するかどうかを検討すべきでしょう。デメリットとメリットを説明します。

 

◆デメリット

 

●利率は年度ごとに変化しますが、平成31年度の「厚生労働大臣が定める利率」は、「0」と定められました。

 

●掛け始めて1年未満で退職すると退職金は支給されません。掛けた分だけ損します。1年以上2年未満の場合は掛金納付総額を下回る額になります。2年以上3年6ヵ月では掛金相当額となり、3年7ヵ月以上からは運用利息と付加退職金が加算され、掛金納付額を上回ります。

 

●掛金は月額で最低5,000円からです。5,000円から30,000円まで従業員ごとに任意に選択できます。1人当たり年間で最低でも60,000円の固定費増となります。
※短時間労働者(パートタイマー等)は、特例とし2,000円から4,000円の掛金月額でも加入できます。
 

●掛金を減額することが困難です。減額するには従業員の同意が必要になります。従業員の同意が得られない場合は、現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた認定書が必要になります。

 

●懲戒解雇して退職金の給付を減額するための手続きが困難です。さらに、退職金が減額された場合でも、その減額分は長期加入者の退職金支払財源にあてられるため、中退共に没収され、事業主には返ってきません。

 

◆メリット

 

●中退共制度の掛金は全額会社の経費とすることができ、年払いも可能なので税金対策になります。

 

●新しく中退共制度に加入する事業主に掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を加入後4ヵ月目から1年間、国が助成します。また、掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額する事業主に、増額分の3分の1を、増額月から1年間、国が助成します。

加入を考えている人は「リスク」を考慮し慎重な決断を

手続きは簡単にできますし、退職金も中退共が直接従業員に支払いますので、管理は簡単です。しかし、メリットとデメリットを比較してもデメリットのほうが大きいといえます。

 

一度加入すると、途中での解約や減額は難しく、毎月の固定費も増額します。2年以上勤務して掛金相当額の退職金支給となりますので、従業員の定着率の低い会社にとってはこの制度はあまり適していません。退職理由が懲戒解雇であっても、中退共の場合は減額が困難であり、たとえ減額したとしても、会社には返金されません。

 

中退共への加入を考えている人は、そのリスクを踏まえた上で、慎重な判断が必要になります。

 

退職金は給与明細に記載されないので、従業員のやる気向上につながりにくいですし、給与を上げたほうがモチベーションアップにつながるでしょう。それよりも、従業員が会社に望むことは、1年後、5年後、10年後と会社が利益を上げて、存続し続けることではないでしょうか。

 

利益に直接つながらない制度に本当に加入する必要があるのか、加入前に一度よく考えることをおすすめします。安易に加入すると、その後の制度維持に大きな問題を抱えることになりかねません。しっかりと考えて判断しましょう。

 

 

辛島 政勇

中央会計株式会社/税理士法人中央会計 税理士

 

本記事は、『中央会計株式会社』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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