非上場株式の承継に係る遺言代用信託の活用
遺言代用信託とは、自益信託を設定した委託者が、自分が死亡したあとの受益者を指定しておく信託です。これは、委託者が生存中は自分を受益者としておきますが、死亡した時に、特定の相続人や第三者に受益権を承継させる仕組みです。企業オーナーの事業承継において、遺言代用信託は、自社株式の承継先を指定する手法として活用することができます。
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この際、受益権から議決権行使の指図権を分離させた場合、遺言代用信託を設定すれば、それぞれの承継先はわけて決めることになります。受益者と議決権指図権を一致させる必要はありません。
受益権比率と議決権比率を不一致にする
自社株式を承継した場合、株式の所有者(株主)が経済価値と議決権の両方を持ちますから、その持株比率に応じて利益配分と会社支配力が決まります。
これに対して、自社株式を信託した場合、受益権の承継と議決権指図権の承継を切り離して考えることができます。
例えば、会社の後継者である長男に自社株式すべてと自宅(長男が同居)の両方を相続させようとしたところ、もう1人の相続人である長女が遺産分割に不満を持ってしまった場合、自社株式の受益権を長女に手厚く承継させてバランスを取ることが想定されます(遺留分の侵害も回避できます)。その場合、オーナーが遺言代用信託を設定し、信託契約書のなかで次のように規定しておきます。
● 受益権の30%を長男、70%を長女に承継する。
●議決権指図権の66%を長男、34%を長女に承継する。
オーナー個人から会社への資金貸付け
[お悩み⑤]
自社に対して多額の貸付金(金銭債権)を持っています。相続税対策によって評価を引き下げることができる自社株式と異なり、貸付金は額面金額によって相続税の評価がされると聞きました。相続財産から減らすための生前対策はどのようにすればよいでしょうか?
中小企業として一般的なオーナー系企業の場合、自社の資金繰りが悪化したときに、一時的にオーナーが会社に対して個人の資金を貸付けるケースが多く見られます。会社財産とオーナーの個人財産が経済的に一体化しているような場合には、知らない間にオーナー個人から会社に対する貸付金が増えてきているはずです。
◆受益権の生前贈与
貸付金は株式による出資と異なり、額面評価されることから、財産評価引下げによる相続対策ができません。それゆえ、生前贈与による財産承継が相続対策の手法となります。
一般社団法人の活用事例:少数株主対策
◆相続税対策
一般社団法人が持分のない法人であることから、同族グループの法人となることはありません。そこで、自社株式を所有させることによって、相続税対策に活用することができます。
◆少数株主からの買取り
同族グループ以外の少数株主に株式が分散してしまった場合、支配権の争いなどの問題が生じて株式を買い集めなければならないケースがあります。しかし、支配株主や自社が株式を買い取る場合、株価は原則的評価によって譲渡しなければなりません。
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そこで、それらの株式を一般社団法人に買い取らせる方法が有効です。それによって、株式を処分したいと考える少数株主(中心的な同族株主以外)から配当還元価額で買い取ることができます。その結果、少ない資金負担でオーナーの支配権を強化することができます。
ただし、一般社団法人の社員・理事が同族グループによって完全に支配されている状況では、一般社団法人が所有する株式を同族株主が所有する株式と一体のものとみなされる可能性がある点に注意が必要です。仮にそのように取り扱われた場合、原則的評価によって株式を一般社団法人へ譲渡しなければなりません。
◆従業員持株会
そのような場合、従業員持株会として一般社団法人を設立することを検討しましょう。従業員の福利厚生やインセンティブ・プランとして持株会を設立し、従業員の資金によって株式を買い取らせるのです。独立して持株会が運営されているのであれば、同族グループに支配されている状態ではありませんから、配当還元価額を適用することが可能です。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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