9:一般社団法人に対する非上場株式の譲渡価額
一般社団法人は会社ではなく、持分もありません。したがって、法人が単独で同族株主となる場合を除き、「同族株主以外の株主」として特例的評価(配当還元方式)によって譲渡することが可能です(財産基本通達188)。
しかし、相続税に係る裁決(平成23年9月28日)では、オーナーと資本関係のない法人株主が、その法人のオーナーと「同一内容の議決権を行使することに合意している者」として取り扱われ、配当還元評価が否認されています。譲渡に関する事例はないものの、持分のない一般社団法人であっても、同様に取り扱われる可能性があるため注意が必要です。
それゆえ、一般社団法人へ非上場株式を移転する際、配当還元方式は使わないほうが無難でしょう。また、当然ではありますが、個人から法人への譲渡ですから、相続税法上の時価ではなく、「所得税法上の時価」または「法人税法上の時価」で譲渡しなければなりません。
◆所得税法上の時価
所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
(1)「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(2)株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(3)土地又は上場有価証券を有しているときは、「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
(4)「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり、評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
◆法人税法上の時価
法人税法基本通達9-1-14(上場有価証券等以外の株式の価額の特例)
(1)当該法人が当該株式の発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(2)土地又は上場有価証券を有しているときは、「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること。
(3)「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり、評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
10:従業員への事業承継
近年、後継者不在のために従業員へ事業承継するケースが増えてきていますが、株価の高い会社であれば、従業員に買取り資金がないことが問題となります。また、運よく資金調達できたとしても、その従業員から次の世代に承継するときにも、同様の事業承継問題が生じます。
この点、株式会社の所有と経営を分離させ、オーナーの親族内で株式という個人財産を承継するとともに、経営権は従業員に承継するという方法が考えられます。しかし、親族が株式の所有を続けますと、株主の相続のたびに株式が分散してしまう可能性があります。
11:一般社団法人が安定株主に
そこで、株式会社の株式を一般社団法人に移転しておくのです。すなわち、一般社団法人が株式会社の株主となるのです。そうすれば、親族内の相続があっても社員の交代だけで済み、株式の分散を防ぐことができます。
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従業員へ承継した株式会社のその後の展開として考えられるシナリオは、従業員持株会を作って、そこへ株式を譲渡していくことです。この場合、議決権比率が低いうちは配当還元方式を使うことができます。
また、逆に従業員持株会を脱退する従業員から株式を買い取るときにも、原則的評価による必要はなく、配当還元方式を使うことができます。
12:最終的には社員の交代も可能
一般社団法人が保有する株式は、従業員持株会又は後継者個人へ売却して現金化することが基本です。しかし、経営から離れたオーナーの親族が、株式を無償で手放してもいいと考えるのであれば、一般社団法人の社員の地位を、株式会社の従業員後継者へ交代すればよいのです。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士