「教育資金の一括贈与の特例」とは?
平成25年4月に登場した教育資金の一括贈与に係る非課税制度。この制度は非常に人気があり、すでに多くの方が利用しています。相続税対策にもなり、世の中のためにもなる、非常に魅力満載の制度です。また平成31年の税制改正によって、2年間、この特例制度が延長されることが決まりました。2021年3月31日までに申し込んだ方が、この特例を使うことができます。
一方で、この特例制度は「毎年の手続きが面倒くさい」と不満の声もちらほら聞きます。そんな噂もあるせいか、多くの方から、「教育資金贈与の特例を使おうか迷っているのですが、使うべきでしょうか?」と相談されます。そのような相談に対して筆者はこう答えています。
「この特例を使わなくても、教育資金の贈与はもとから非課税ですので、そのまま渡しちゃいましょう」
今回は、特例を使わなくても非課税にできる教育資金贈与の方法について解説します。
そもそもこの特例、一言でいうと「30歳未満の子どもか孫に対して、教育資金としてなら、1500万円まで生前贈与しても非課税でいいですよ」という制度です。ここでいう教育資金とは、学校に対して支払われる入学金や授業料、塾やスイミングスクール、自動車学校なども含まれます。さらに留学に際して、外国の学校に払う学費や、飛行機代も対象になりますが、ホームスティ代は含まれないようです。
通常、年間110万円を超える贈与には贈与税がかかるので、それに比べると非常にお得感のある制度ですが、少し使い勝手が悪いという評判もききます。
「教育資金の一括贈与の特例は面倒」といわれる理由
何が面倒かというと、この制度は、金融機関でそれ専用の口座を開設し、教育資金として使った領収書を、その金融機関に提出しなければいけないのです。ちなみにここでいう金融機関とは、銀行、信託銀行、証券会社をいいます。領収書を集める方も大変ですし、受け取った金融機関の人も大変そうにしていますね。
またこの特例を活用するには、贈与を受けた側が30歳になるまでに、贈与されたお金を使い切らないといけません。
たとえば、孫が赤ちゃんのときに「この子は将来、お医者さんにしよう! よし、1500万円贈与だ!」と贈与をしても、その孫が高校生ぐらいに成長した時に「俺は、父ちゃんや母ちゃんが敷いたレールの上で生きていくのは嫌だ! ニューヨークでギターを学んで、音楽で世界を変えるんだ!」となる可能性もあります。この場合、ニューヨークの音楽学校に入れば話は別ですが、そうでなければ、せっかく贈与した1500万円は使い切れずに残ってしまいます。
この場合どうなるかというと、その孫が30歳になったときに、使い切れなかった金額に対して贈与税が課税されます。もし1500万円がそのまま残っていれば、366万円の贈与税です。1500万円が手つかず残っていれば、大きな問題になりません。なぜなら、その1500万円のなかから366万円の税金を払えばいいからです。
最悪のケースは、孫が30歳になる前に、その1500万円を教育資金以外に使い込んだ場合です。たとえば、ニューヨークに行くはずが、途中でラスベガスに寄り、ギャンブルでお金を綺麗さっぱり使い切ったとしましょう。この場合、ギャンブルでお金を使ったときに贈与税が課されるかと思いきや、実際には孫が30歳になった年に、366万円の贈与税が課されます。こうなってしまうと大変です。是が非でもメジャーデビューして、贈与税を払うしかありません。
上記はちょっと極端な例ですが、こういった可能性はゼロではありませんので、この制度は計画的に利用しなければいけません。ちなみに、世の中の平均贈与金額は約700万円前後です。1500万円まで使う方はそこまで多くないのかもしれないですね。
と、2018年まではこのような取り扱いでしたが、2019年に税制改正が行われ、30歳になっても学校に在学しているような場合などは、非課税の期間が継続されることになりました。
さらに祖父母は4人ことも忘れてはなりません。
孫にとって祖父母は4人存在します。片方の祖父母から1500万円の贈与を受ければ、もう一方の祖父母から1500万円の贈与を受けることはできなくなります。両方の祖父母から1500万円ずつ、つまり3000万円の贈与を受けられるわけではないので注意が必要です。
両方の祖父母から750万円ずつ、合計1500万円。これはOKです。この論点は意外と見落としがちですので、この特例を使うのであれば、配偶者側の両親にその旨を伝えておいた方が無難かもしれません。
以上、実務上の注意点をたくさん紹介してきましたが、この特例は、相続税の対策にも非常に有効な手段ですので、使い方を間違えなければとてもいい制度だと思います。
特例を使わなくても非課税になる方法とは?
そもそもの話ですが、教育資金の贈与は昔から非課税です。まずはこちらをご覧ください。
さらに大切な部分を拡大します。
このように、教育費の贈与は非課税とばっちり書いてあります。この取り扱いは平成25年に始ったわけではなく、昔からこのように取り扱われています。今、この記事を読んでいるあなたも、大学や専門学校の入学金や授業料を両親に負担してもらった方は多いのではないでしょうか? 年間の教育費が110万円を超える年もあったかと思いますが、子どもに対して贈与税が課税された、という話は聞いたことがありません。その理由は、上記のように教育資金の贈与は非課税だと決められているからなのです。
子どもの教育のために支出するお金に贈与税を課税するなんて、世の中のためになりません。そのような趣旨から、教育資金に贈与税は課税しないと決められているのです。
では、そもそも「教育資金の一括贈与の特例」とは、何のための特例なのでしょうか。実は、昔ながらに存在する教育資金の贈与には、非課税にするために、一つだけ条件があります。その条件とは、教育資金が必要な都度贈与することです。国税庁のホームページにも、次のように書かれています。
たとえば、産まれて間もない赤ちゃんに「この子は将来、お医者さんにしよう。お金かかるから、今のうちに学費を全額贈与しておこう」といって、お金を渡してしまえば、これは『必要な都度』にはあたらないので、贈与税が課されてしまうことになります。
一方で、お孫さんが晴れて医大に合格して、入学金を大学へ支払うタイミングで、祖父母が学費を贈与する場合には、まさしく『必要な都度』にあてはまるので、贈与税は非課税になります。
また「祖父母が孫の教育費を出す、というのは子どもへの贈与なのでは?」というような質問をよく受けます。1代目(祖父母)、2代目(両親)、3代目(子ども)と家族がいたときに、一般的に、3代目の教育費を負担すべきなのは2代目であると考えると、1代目が3代目の教育費をだすのは、実質的に1代目が2代目に贈与したのと同じじゃないか?というものです。
結論からいうと、実務上はこのように考えなくてOKです。贈与税が非課税になるのは、「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者からの教育資金」と書かれていましたが、この「扶養義務者」には直系血族(つまり祖父母)が含まれます。そして、扶養義務書が複数人いる場合には、どちらが優先して面倒みるべき、とは決まっていません。つまり、2代目も本当はお金を出そうと思えば出せるが、代わりに1代目が3代目の教育資金を負担しても、法律上はおかしくないと考えられています(この部分について違和感を抱く方は多いですが)。
上記の考え方は、もちろん曾孫に対しても同じです。1代目から4代目という流れです。
また「どのように教育費として使った証拠を残していけばいいですか?」という質問もよく受けます。通常、孫の教育費を贈与する際は、孫の預金口座にお金を振込んでもらいますが、その孫が学校の窓口にいって、入学金の支払いの手続きをしたりするわけではありません(孫が小さければ、そんなことできません)。
実際には、その両親が学費の支払いなどの手続きをしなければいけないことになりますが、贈与を受けるお金を、両親が普段から使っている預金口座に振り込んでしまうと、元からあるお金と贈与で受け取ったお金が混じってしまい、贈与でもらったお金が、教育資金として使われたかどうかがわからなくなってしまいます。
そこで筆者がおすすめする方法は次の2つです。
1.祖父母が直接、学校や塾に振り込む
これができるのであれば一番確実です。ただし、学校によっては、祖父母ではなく両親からの振り込みでないと受け付けてくれないこともあるそうなので、事前に確認が必要です。
2.専用の口座を一つ開設する。
手間はかかりますが、これも一つの方法です。入金される金額は祖父母からの贈与資金、引き出される金額は、教育関係の支出だけにしておけば、教育資金として使っていることの証拠になります。
まとめ
教育資金の贈与について重要なポイントは次の3つです。
1.教育資金贈与の非課税制度は2つある(一括贈与の特例と昔ながらの都度贈与)
2.今すぐ必要な教育費は特例を使わなくても非課税になる
3.教育資金として使っている証拠を残すために、お金の流れを明確にする
特例制度と昔ながらの都度贈与を組み合わせれば、1500万円以上の教育資金を非課税にすることも可能です。国としても、教育資金贈与を活性化させて、景気の循環をよくしたいと願っていますので、どんどん贈与をしていく人が増えていけばいいですね。
【動画/筆者が「教育資金贈与」を分かりやすく解説】