賢くお金をふやす10の考え方

※本記事は、2019年7月9日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

大人の運用教育の必要性

近年、「投資教育」の必要性が強調されているが、自分が一般投資家向けや大学生などを相手に行っているものも含めて、率直に言って満足できるテキストやカリキュラムがない。

 

日本人のマネーリテラシーを本格的に向上させるためには、中学、高校段階の数学及び社会科で、きちんとした金融知識を教科に組み込んで、大学入試などにお金の問題が多数出題されるようになる状況が必要だろう。自力で損得計算ができない人に、投資をさせようとすることは、金融業界の悪だくみにすぎない。

 

ある金融機関が作った小学生向けの投資教育教材を見たことがあるが、株式の仕組みを漫画的な図解で説明するのはいいとしても、株を買うことについて「応援したいと思う会社の株を買ってみよう」といった調子で勧めるに至っては、「カモ(=愚かな顧客)の養殖に近い!」と思った。

 

さて、児童・生徒向けの投資教育も必要だが、もっと緊急に必要なのは、現在既にお金を持っている大人に対する投資教育だろう。そして、この場合、「投資」だけに限るのではなく、「貯蓄」や金融版の「消費者教育」も含めた、「お金をふやすこと全般」について、自分で考えることができるようになるための「考え方」の伝授が必要であるように思う。敢えて名付けるなら、「(お金の)運用教育」だろうか(普及の上では語呂がイマイチに思える点が残念だ)。

 

今回は、大人向けのお金の考え方教育にぜひ盛り込みたいコンセプトを10個挙げてみた。10個が適切なのかどうかについては、実は筆者自身も納得していないし、異論があり得るが、きりのいい数字でもあり、敢えて10個に絞ってみた。

運用で大事な10個の考え方

実は、数日にわたって、メモ用紙にあれこれ書いては消しながら、運用教育としてぜひ伝えたいのは何かを考えてみた。

 

その過程で浮上し、現時点で生き残ったのは以下の10個のコンセプトだ。以下、個々の項目で説明したい内容を簡単に挙げてみる。

 

◆賢くお金をふやす10のポイント

 

・運用の能率としての「利回り」

・「割引」という考え方

・フェアな市場価格の情報価値

・投資はプラス、投機はゼロサム

・まず手数料を評価せよ

・リスクとの付き合い方

・分散投資で何が得か

・機会費用の考え方

・サンクコスト(埋没費用)の考え方

・他人を信じないことの重要性

1:運用の能率としての「利回り」

運用の選択肢が複数ある場合に、どの選択肢が最も得なのかを判断するためには、「運用の能率」の評価尺度を理解する必要があるが、それは「利回り」(リターン)だろう。もちろん、複利を理解してもらう必要がある。

 

その他の条件が同等な場合、100の投資が(A)1年で105になるのと、(B)2年で110になるのと、どちらが得なのかを判断できないようでは話にならない。

 

また、項目を分けるべきか否か少し悩むが、インカムゲインとキャピタルゲインは両方を「合わせて」利回り評価することが大原則であることも伝えなければなるまい。このレベルでだまされる客(「カモ」と読んでください)が多すぎて、他人事ながら気が気でない。

 

複利の効果は、単純な数学的真実なので、これこそが人類の偉大な発明だと感心するようなアインシュタインのような感性を筆者は持っていないが、「72の法則(あるいは「70の法則」)」と呼ばれるような、利回りと複利運用した場合に運用資産が2倍になるまでの期間の簡便計算方法も伝えることは有益だと思う。

 

複利が特に問題になるのは、運用よりも、むしろ借金の場合だろうから、「複利の威力」を説明する題材は借金がいいだろう。

 

ついでに、運用の利回りに対して、借金の利率がいかに高くて、借金をすることが損であるかについても伝えたい。

 

ちなみに筆者は以前、大学の授業では必ず「クレジットカードのリボルビング払いを利用するような恋人とは結婚しない方がいい(小さな借金に鈍感だから)。経済観念のない相手と結婚すると苦労しますよ」と教えることにしていたのだが、学生さんたちがどの程度理解してくれているかは確認できていない。

2:「割引」という考え方

投資というものを考える上で最も重要なのは、「割引」の考え方だろう。適当な利率を選んで、将来の価値を現在の価値に換算し、現在の価格がいくらなら、その対象を、買うか或いは売るのかを考えることが、運用の意思決定では最も重要でかつ有用な考え方ではないかと思う。

 

一期先にEで、一定の成長率gで増える毎期毎期の将来キャッシュフローの合計を利率rで割り引いた現在の価値をPとすると、P=E/(r-g)となる、という計算式は、金融的な意思決定にあって最も有用な公式であると筆者は考えている。割引の考え方をどの程度実感をもって理解するかが運用に関するリテラシーの中核をなす。

 

将来キャッシュフローを生む資産の価格は「割引」によって決定されるのだが、この場合、利率が上がる(下がる)と資産価格が下がる(上がる)こと、資産価格が決まることによって利回りが増減していることを理解して貰うと具合がいい。この点が分かると、低成長な国の株式でもリスク見合うリターンがあっておかしくない、ということが分かるようになる。「日本は人口が減って低成長だから、日本株を買っても儲かるはずがない」と言うような人は、一つには割引による資本の価格形成の理屈が分からないのだろう。

 

rとgは、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』によって大いに流行していたこともあり、注目度が高いものだった。それぞれの中身の変化とバランスが資産価格(P)にどのような影響を及ぼすかが分かると、景気循環や金融政策と株価の関係などもすっきり分かるようになる。

 

ただし、内容をあまり盛りだくさんにしてしまうと、受け手の側で持て余してしまう心配がある(これまでの筆者の反省点でもある)。深い理解については後日を期して、まずは最小限のポイントに絞って伝える方がいいのかもしれない。

3:フェアな市場価格の情報価値

株価、為替レートのように市場で形成される価格には、市場参加者の持っている情報と判断が反映する。たとえば、東証一部で売買されているトヨタ自動車の株価は、この株価で売ってもいいと思った参加者と、この株価で買いたいと思った参加者の双方がいて、拮抗した時に形成される。

 

投資家はトヨタ自動車のことを詳しく知らなくても、市場で形成されたトヨタの株を買うことで、トヨタに詳しい株主と同じリターンを手に入れることができる。これは、小さくないメリットだ。

 

全ての株の株価が、常に、完全に信用できるわけではないが、株価には市場参加者が持つ情報と判断が反映している。「フェアに市場で売り買いされている株であれば、どれを買っても、或いは売っても、大まかには有利不利はない」というのが大まかな現実であり、初心者は、市場に参加することが案外怖くないことを知るべきだ。

 

また、ある投資銘柄について自分が儲けるために有利な情報を知っていると思った場合、まず、その情報が既に株価に反映している可能性を疑うべきだ。

 

情報は価格に反映する。但し、価格だけを分析しても情報は分からない(チャート分析はリターンの改善には、ほぼ無意味だ)。

4:投資はプラス、投機はゼロサム

株式投資にはリスクがあるし、外国為替取引にもリスクがある。事後的に運が悪かった場合に大損するかも知れない対象であることは同じだ。共に油断はできない。しかし、両者のリスクは性質が少々異なる。

 

外国為替の取引の仕組みを理解することは投資の初心者ばかりでなく、FP(ファイナンシャル・プランナー)や時にはファンドマネジャーにとっても(株から入った人は為替に疎いことがある)、時に難しいことがあるが、為替は「通貨の交換比率と金利をセットで取引しているゼロサムゲーム」だ。「A通貨とAの金利」と「B通貨とBの金利」の、一方を借り入れて他方に換えて運用するという取引が市場では行われているが(銀行間の取引はそうなっている)、B通貨に対する借り入れを行いA通貨・A金利を買い持ちする人は、逆のポジションに人に対して、同じ大きさのリスクを持つが、自国通貨のリスクフリー金利での運用と比較した場合、両者の損益の合計はゼロだ。つまり、外国為替取引は、リスクはあるが原則としてリターンはゼロのゼロサムゲームなのである。

 

他方、株式への投資は、企業の資本の一部をある期間提供することであり、その条件は、前述の「割引」の原理によって決まる。この場合、100の資本を1年間提供して、たとえば平均的には105の戻りが期待できるといった、ギャンブルで言うと「100%を超える回収率」が可能だ。割引率の中に「リスク・プレミアム」を含ませることによって、投資のリスクにはリスクに見合ったリターンを与えることが可能だ。

 

外国為替、金などを含む商品相場のリスクは、ゼロサムゲーム的ないわば「投機のリスク」であり、株式・不動産・債券などのリスクはリスクを補償するリターンを期待できる「投資のリスク」だ。

 

両者に善悪の差はないが、長期的な資産形成に有利なのは「投資のリスク」の方だ。

楽天証券の投資情報メディア。トウシルのテーマは「お金と投資をもっと身近に」です。投資は、お金に振り回されないためにできることのひとつ。でも、リスクもありますし、むずかしくもあります。トウシルでは、みなさんが投資に対してお持ちの疑問や不安を減らし、投資へのハードルをさげるためのコンテンツを提供します。

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著者紹介

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