父親の相続時の不満が母親の相続時に爆発する
どんなに仲良くしていた兄弟姉妹であっても、知らず知らずのうちに相続に関する不満をつのらせているかもしれません。それがいつ爆発して、〝争続〞になっても不思議ではないのです。
最近、私は、母親が亡くなり、相続が発生した兄妹から次のような相談を受けました。相続者たちの父親は数年前に他界しており、母親と独身の長男は同居していました。長男には妹がいましたが、結婚をして幸せな家庭を築いていました。
母親の財産は、父親から相続を受けた小さなマンションの一室の2分の1の持分と現預金でした(マンションの一室の残りの2分の1の持分は長男が相続を受けていましたが、長女には財産は残されませんでした)。
派遣で仕事をして職が安定しない独身の長男のことを、母親は大変心配していました。一方、結婚した長女は、持ち家もあり、夫の経済力も安定しているため将来の心配はさほどないと考えていました。常日頃から長男を心配するあまり、母親は「私が死んだらマンションの持分と現預金はすべて長男に相続させる」と長男に話していたそうです。
しかし、遺言書があるわけでもなく、長女はこの話を信じることができませんでした。また、父親の相続の時に相続財産を全くもらっていないことへの不満もあったようです。ついには「お父さんの相続の時は全く財産を相続していないのだから、今回は私にも相続する権利があるわ!」と怒りを爆発させたのです。2人の間にはいさかいが起こり、これがきっかけで兄妹の仲は悪くなってしまいました。
親が相続した土地と思い込むと痛い目にあう
相続税対策にせよ、〝争続〞対策にせよ、それを満足のゆく形で行うためには、相続前に親と子が向き合ってじっくりと話し合うことが必要となります。しかし、核家族化が進んでいる今の社会では、そもそも親子が顔を合わせる機会自体が少なくなっています。そのために、親子が話し合うことができないまま、相続の時を迎えることも珍しくありません。その結果として、全く想像もしていなかったようなトラブルに相続人が巻き込まれるケースも増えています。
やはり私が最近、相談を受けたケースの中から実例を一つ紹介しましょう。被相続人は父親、相続人はその妻である母親、子どものAとBです。父親は自身の父親、つまりはAの祖父から土地甲を相続して、その土地の上に建物を建て、家族4人で生活をしてきました。
しかし、Aの祖父の相続の際には相続税が発生しなかったこともあって、相続登記をせず、遺産分割協議書も作成していませんでした。そのため、叔父Cと叔父Dが父より先に死亡した場合、土地甲を父親が相続したことを証明してくれる人もおらず、証拠書類も存在しない状態になってしまいます。
今回父親の相続が発生して、母親、A、Bが土地甲を相続するためには、遺産分割を行い、相続登記を行わなければなりませんが、この登記には現在生存している相続人が遺産分割協議書に同意、押印しなければなりません。ここでは具体的に母・A・B・G・H・Iの6名が合意する必要があります。
しかし父親が土地甲を相続したことを知る人、父・叔父C・叔父Dがすでに存在していないため、G・H・Iが土地甲の相続分を主張してくる可能性があります。AとBとしては、土地甲は父親が祖父から単独で相続していると思い込んでいました。
しかし、Gが「祖父からDが土地甲の持分を相続したのだから、土地甲については自分たちも相続する権利がある」と今回主張してきたのです。もし、AとBが父親と生前に相続について話し合っていたら、土地甲の取り扱いが問題となることが明らかになっていたはずです。その結果、甲の相続を確実なものにするために何らかの対策をとることができたに違いありません。しかし、話し合いの機会を得られないまま、父親が世を去ったために、AとBは、血を分けた親族との骨肉の争いに直面することになってしまったのです。
確実な相続税対策の手段を見つけなければ家を失う
以上を見てきたように、相続税がかかってくることになった場合、納税資金をどのように確保するのか、あるいは相続税の額をどのように減らすのかが大きな課題となります。そして、納税資金を確保することにはどうしても限界がある以上、相続税を減らすこと、すなわち節税対策の巧拙こそが、相続税の問題を解決するうえで重要な鍵となります。
相続税対策に失敗すれば、納税資金を工面するために、相続した家を泣く泣く売らざるを得なくなるかもしれません。そのような最悪の事態を避けるためにも、「家を守ることができる」最も理想的な相続税対策の手段を是が非でも見つけ出し、それを適切な形でしっかりと着実に行っていくことが求められるのです。