日本の上場企業の情報誌、「会社四季報」。投資のプロフェッショナルとなるためには必須の1冊であり、そこには「世の中の流れ」を把握するためのノウハウが詰まっています。本連載では、複眼経済塾代表取締役塾長であり、20年以上会社四季報読破を続ける渡部清二氏の著書『「会社四季報」最強のウラ読み術』(フォレスト出版)から一部を抜粋し、投資家にとって「会社四季報」が有用である理由や、実際の読み方など、幅広く解説します。

四季報を読むとミクロ/マクロの視点が得られる

◆妄想が企業や事業を動かしている

 

企業を知るとは、その企業の成り立ちや経てきた歴史、継続性などについて知ることです。四季報には、それらが簡潔に記載されています。そして企業の歴史を知ることで、それぞれの企業の今の実態と未来像が見えてきます。

 

経済学では、ミクロの積み重ねをマクロと言います。これは、蟻塚をイメージするとわかりやすいと思います。1匹の白蟻が砂を1粒ずつくわえて何かを作っていますが、それだけを見ても何をやっているのかわかりません。しかし、出来上がった最終的な姿を見ると、たくさんの白蟻が集まって作っていたものが大きな蟻塚だったことがわかります。

 

四季報で全上場企業のことがわかるということは、ミクロなことを積み上げてマクロなことに目を向けられるようになるということです。日本経済をマクロ的に見ると、1人ひとりの仕事の積み上げが各企業の業績となって表れてきます。そして、すべての企業の業績の積み上げが日本経済の全体像を浮き彫りにしてくれるのです。

 

四季報に掲載されている約3700社の上場企業は、だいたいその業界での代表選手です。この代表企業のマクロな動きを見ることによって、業界全体の世界的な動向も見えてきます。たいてい代表企業はグローバルな経済とつながっていますから、この動きを見ることによって世界経済の今の動向が何となく見えてくるのです。

 

未来を見るということは、先見性を持つということです。この点、四季報は、四半期決算がない80年も前の時代に年4回の刊行というのは先見性がありました。これは、今後も未来を先見できるということです。

 

企業の未来を知るには、企業が進もうとしている先を読み、時代や世相の流れを読み、それぞれ変化を読み取っていくことが欠かせません。四季報の行間、関連する情報を読むと、企業の歴史がわかり、現状を知ることができます。

 

こうした作業は投資に限ったことではなく、普段の仕事での企画やマーケティングでも必要な能力です。その際、四季報作成に携わっている記者が着目している視点を読み取ることも必要です。

 

さらに企業の将来性、時代の潮流、世相の変化まで深読みしていくと、だんだん連想ゲームの世界に入り込んでいきます。これを続けていくと、最後には妄想の世界に没入していくことになります。妄想の世界に没入した瞬間、とてつもないストーリーが生まれる可能性があります。こうした妄想が、実は事業や企業を動かしている部分でもあるのです。

 

◆気づきが大きな転換点を示唆している

 

1冊の四季報を読破することで、約350万文字の中に埋もれているキラリと光るひと言に気づくことがあります。私は、これを「気づき」という言葉で表現しています。上場企業約3700社について解説された何げない1つの言葉ですが、これが大きな転換点を示唆していることがよくあります。

 

この「気づき」が1つのヒントになって連想を続けていくと、やがて連想が妄想の域に達していくことがあります。これが、とてつもない株式投資の妄想ストーリーを生み出すことがあるのです。

 

投資家やクリエイターは、この作業で同じように深読みしています。そして「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連想ゲームを続け、とてつもない「妄想ストーリー」さえ思いついているのです。こうした視点で少し前の2018年新春号を読むと、キーワードで感じるテーマが見えてきます。

 

実際に、【見出し】ランキングは、①上振れ(148社)、②最高益(139社)、③続伸(126社)となっています(2018年秋号は最高益、続伸、反落の順)。【見出し】以外では「中国」「海外」が500社以上、続いて「米国」が300社以上、「アジア」が200社以上で、これまで通り「海外展開」が大きなテーマであることには変わりがないようです。

 

海外展開以外では「提携」「人材」「M&A」「値上げ」などのコメントが多く、私の肌感覚で気になったコメント欄のテーマは、「周年」「増産」「ロボット」「TOB(株式公開買い付け)」などでした。コメントランキングで「TOB」は40位でしたが、新春号では目立っていました。

 

TOBが増えている理由は、世界的な金融緩和を背景にして買収資金の調達がしやすくなったからです。企業買収は今、生き残りをかけた戦略としてさまざまな業種に広がりつつあります。これに関するコメントとして、以下のようなものがありました。

 

○日立国際電気(6756)

米国KKRがTOB

 

〇黒田電気(7517)

国内ファンドMBKが公開買い付け

 

〇アサツーディ・ケイ(9747)

ベンチャーキャピタルが公開買い付け

 

〇日本ペイントホールディングス(4612)

同業の世界7位、米アクサルタ買収は取りやめ

 

日本郵政(6178)による野村不動産ホールディングス(3231)のTOBは幻に終わっていますが、このキーワードで連想できることは「純資産から見て割安銘柄に注目が集まる可能性がある」ということです。

 

世界的な金融緩和で資金は余っていますが、世界的な株高で業績面での「割安株」は減少しています。一方で、自己資本比率70%以上と高く、PBR1倍割れのような資金面から見た「割安株」は放置されてきたところがあります。これが今、投資対象として注目され、投資家の「連想買い」が入るかもしれません。

 

この点、土地含みが大の住友倉庫(9303)、大井競馬場を持つ東京都競馬(9672)の株価が上昇を見せました。眼鏡・コンタクトレンズなどの販売を行うチェーンストアを展開する愛眼(9854)は自己資本比率83.5%、有利子負債ゼロの好財務を誇っています。それで同社の株価は2017年4月の安値190円(PBR0.26倍)から同年12月の高値861円まで4.5倍も上昇しました。

証券会社の営業マンの話には「バイアス」が…

証券会社の営業マンの話は、何かとバイアスがかかっています。この点、四季報の最大の特徴はアナリストではなく記者が取材した視点で構成されていることです。証券会社の営業セールスの話はバイアスがかかっていることが少なくなく、鵜呑みにはできないところがあります。

 

一方、四季報のコメントの特徴は、プロのアナリストではなく編集部の記者が自分で取材した視点からコメントしているところです。

 

プロのアナリストは、投資情報で意見を述べるにしても、それが往々にして「利益率が低下」「株価が下落」といったことばかりになってしまいがちです。私は、アナリストの多くが「顧客が興味を引くような言葉」を省いて、代わりに専門用語を多用して意見を述べているように感じます。

 

私も証券会社に在籍していたからわかるのですが、証券会社のアナリストは必ず目標株価と合わせて意見を述べています。その意見を正当化するため、さまざまな指標の数値を使って理論で脇を固めることもあります。ですから、どうしても意見にバイアスがかかってしまうのです。

 

この点、四季報の記者は自分で実際に取材した中から言葉を選び、アナリストのように投資的な目線ではなく企業目線に立ってコメントしています。取材では、チャートや株価ではなく、その企業の実態だけを見るそうです。

 

だから、コメントに株価とリンクしたような感じがないのです。個人投資家は、アナリスト情報を〝鵜呑み〟にせず、純粋な企業の立場に立って考えることが大事で、同様に四季報も当たる当たらない(=信じる)ではなく「うまく活用する」ということが大切です。

 

 

渡部 清二

複眼経済塾 代表取締役塾長

 

本連載は、2019年2月9日刊行の書籍『「会社四季報」最強のウラ読み術』(フォレスト出版)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「会社四季報」最強のウラ読み術

「会社四季報」最強のウラ読み術

渡部 清二

フォレスト出版

◆20年以上、会社四季報を読破し続ける達人が教えるウラ読み術 2000ページ以上ある会社四季報を隅から隅まで読むプロが編み出した読み方を解説。 会社四季報は全部で14のブロックに分けられていますが、 そのうちの5つの…

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